対価は指輪と人生
「あなたの特性は『如何なる時、場所においても、どんな存在より、格、立ち位置、扱いが下に見られる』ってところね」
やや薄暗い室内において、目前の女性に告げられた。
そして、時は遡る。
カーテンの隙間から光が刺し、部屋の中心に敷かれた布団で寝ている俺の顔をわずかにしてくる。光から朝になっていることを理解していたが、今日は休日なのでまだまだ布団から出るつもりは無い。
そこへ、ピロリン、ピロリンと音をたて、スマホのライトがチカチカと光ったので、だるい体に鞭打ちながら、スマホを手にとり確認する。
LINEの着信で、送り主は幼馴染から
『約束の品出来た。すぐ来い。』
簡潔な文に、その下に自作したと思われる似顔絵スタンプで
『起きろ!』
と送られていた。
相変わらず、俺の状況をよく分かっておいでで。感心しながら、軽い溜息とともにいつも通り
『心得た』
と返信し、布団から起き上がる。・・・約束の品?ん?心当たりがない。まっいいか。後でわかるだろうし。
俺を呼びだした幼馴染
天城 才華(あまき さいか)
女性 20歳 B型
技術者
実家は財閥 両親 兄あり
身長151センチメートル やや細身のBカップ
黒髪 胸くらいの長髪 ツーサイドアップ(教えてもらった)
釣り目 八重歯 彫の浅い幼い顔立ち かわいい系
天才 変態 オタク 表情豊か よくしゃべる 自信家 超強気 ボケ
おしとやか(おしが強いとやかましい) ノリ軽い
器でかい 恥じらい少ない
趣味 オタク関係全般 文字Tシャツ作り
盛り込みすぎかもしれないけど、『事実は小説より奇なり』を表す一人だ。
「とりあえず、準備しますか。」
一人つぶやき、スウエット、シャツを脱ぎ、ベッド横に投げ捨てる。シャツには
《これは、ブァスーケットボールじゃあーりませんか》
赤髪バスケットマンのセリフとバスケットボールが書かれている。これは才華が自作しくれたもの。
自作だけど十分使える|(家の中用だけど)し、金銭に余裕がない俺にはくれるシャツはありがたい。ただ、なぜこのセリフなのかは、気になるところだが。
黒色ジーンズ、黒色シャツ|(文字Tシャツではない)に着替え、黒色ジャンパーを手に持つ。
洗顔、歯磨きをすませ、居間へ行くと。ソファに座りテレビを見ていた妹の夢(ゆめ)が俺に気づく。
「おはよう。ってどこ行くの。」
俺はLINEを見せる。まじまじと見る夢
「約束の品ってなーに?」
「わからん、覚えていない。あんま期待しなんさんな。何時に帰れるかわからんから、飯は各自で、じゃ行ってくるわ。」
「いってらっしゃいー。」
夢との会話もそこそこに、俺はすたこらと家を出る。
ちなみに、俺、人多在人(ひとだ ざいと)と妹は四戸建てのアパート(名前はハイツ楔)の1階2号室に住んでおり、
1号室に管理人の独居ばーさん 空はつ(そら はつ)
2階3号室に幼馴染 地陸千歳(ちりく ちとせ)
2階4号室には喫茶店で働くお姉さん 海原沙緒里(うみはら さおり)
が住んでおり、俺ら兄妹以外全員一人暮らしで、顔なじみである。
外は爽やかな晴れ空、程よい気温であり、早速、才華の家へ向け歩きだすと、後ろから
「おはよう、在人君。」
声の主は左目に泣きほくろ、たれ目、一つ結びの沙緒里さん。今日は青色ジーンズ、白ブラウス姿だ。幸先よいなぁ。うん、美人だなぁ。これからお店へでも行くののだろうか?
「おはようございます。沙緒里さん。お店へ行くんですか。」
「ええ。在人君は?」
「才華からの呼び出しに応じてきます。」
「あら、いってらっしゃい。」
沙緒里さんは微笑む。そのまま沙緒里さんに呼び出された理由などを話しながら、途中まで一緒に行き、各自の目的地に向かって別れた。
そして、目的地である才華の豪邸兼研究所へ俺は到着する。
簡単に言うと西洋系のテンプレな豪邸だ。正面から見える範囲は。でもその奥にはあいつの開発室やら、実験場やらの研究所がある。あいつは豪邸、研究所のどちらにも自室があり、そのどちらかに籠って、趣味か開発研究に没頭していることが多い。さて、今、あいつはどこへいることやら。
チャイムを鳴らし、到着を伝える。
「おはようごさいまーす。人多在人です。才華さんにお呼ばれしましたー。」
「少々お待ちください。」
すぐに空良子(そら りょうこ)さんが迎えに来てくれた。
黒髪 ウルフカット、釣り目、青色エプロンドレス ホワイトプリム、テンプレなメイド姿。
クールビューティ。やっぱり美人。
「おはようごさいます。良子さん。」
「おはよう 在人君。才華様は研究所の方で待っているわ。」
良子さんはアパートの管理人空はつの孫であり、昔はあのアパートに住んでいたこともあった。また、沙緒里さんとも同級生で、俺とも顔なじみなので気楽に話してくれる。俺もそっちのほうがありがたい。
良子さんの案内で、豪邸を抜け、研究所の部屋に着くまでの間、
「才華はなにをつくったんですか?俺には思い当たるものがないんです。」
俺は質問する。
「・・・それは直接聞きなさい。」
間がありつつ、淡々と返される。
この様子からろくでない物であることを俺は察した。でも最近、約束したことないんだけどなぁー。
研究所に休日は関係ないのか、それなりに人がいて、話したり、機械をいじったりしている。高校時代の先輩の姿も遠目に見えた。
俺はそれらをしり目に才華用の研究室へ着く。
「在人さんをお連れしました。」
良子さんが伝えると室内から
「あーい。入って入って。」
あいかわらずのお気楽な声が聞こえた。
良子さんは「それでは」と戻っていた。俺は1人室内に入る。
広い室内にはパソコンやら機材がいっぱい。
「ふっ。よく来た。例の物はこの奥だ。」
部屋の中心部から大きい水鉄砲をこちらに向け、幼馴染がこちらを見ていた。サングラス、前をはだけた白衣、赤色ホットパンツ、そして、相変わらずの文字Tシャツ、今日は|《麺類は人類》だ。
俺は両手を挙げる。
「そんなものを向けながら、取引はないんじゃないかなぁ。」
「御託は不要、すぐに対価を出したまえ。」
水鉄砲の引き金が引かれる。飛び出た水が床に落ち、湯気が上がる。水じゃない熱湯か。こいつ。
パソコンや機材とかあるのにいいのかよ。
「対価?」
「これは正式な契約だしぃ、私はタダ働きをしない主義なのを忘れたわけ?」
悪人面をしてサングラスをあげる才華。銃口は依然こちらをむいたまま。
「あー確認するけど、対価は現金だっけ。」
「寝ぼけてんのかしら。対価は指輪と人生。」
はて?と首をかしげる。
「人生は命だとして、指輪の意味が分からん。」
悪人面から一転して真面目な顔に変わる才華。
「・・・覚えてないの?」
「・・・うん。」
幼馴染は水鉄砲を下し、はーーーーーーとため息をつく。あきれた顔でこちらを見て、近くの椅子に座った。
「忘れるなんてひどいよ。」
コントは俺のミスで終了した。才華は若干傷ついている口調だった。どっしよ。どっしよ。
そこへノックとともに、
「才華様。千歳様をお連れしました。」
救いの声が聞こえた。才華はにぱっと明るくなり、
「あーい。入れて入れて。」
テンションをあげ、答えた。
ドアが開き、幼馴染の地陸千歳と見たことのないメイドが入ってきた。
もう一人の幼馴染
地陸 千歳
女性 20歳 AB型
大学生 喫茶店バイト ハイツ禊2階3号室1人暮らし
身長158 グラビア体型 Dカップ
黒髪 エアリーボブ(これも教えてもらった。)
右艶ほくろ、鼻筋のとおったやわらかな面差し 美人系
ハイスペック 才色兼備 運動能力抜群 おしとやか 楽天的
怒らせてはいけない ノリはいい 器大きい 恥じらい少ない
趣味 読書 音楽鑑賞
やっぱり『事実は小説より奇なり』を表す一人もお気楽な声で室内に入ってくる。
「おはよう。在人、才華。」
「「おはよう」」
今日の千歳は緑色ワンピースだ。うん結構好きだ。
「それでは失礼します。」
メイドは頭を下げ、退室する。才華は慌てて
「あー待って待って。真。在人に会うのは初めてでしょ。紹介しとくから、覚えておいて。」
真と呼ばれるメイドを引き留め、座ったまま水鉄砲を俺に向ける。
「こいつが、
人多 在人 20歳 A型 学校用務員
身長175、中肉中背、黒髪短髪、猫背気味、三白眼だけど地味、運転免許あり、ノリは軽い、あきらめ早い、保守的、突っ込み、悪運だけつよい、逃げ腰、リアクション大きい、弱気、押しに弱い、本番に弱い、ピンチに弱い、チャンスに弱い、新天地に弱い、やるときはやるけどしまらない。
子供になめられ、動物になめられ、先輩になめられ、後輩になめられ、初対面の人全てになめられる男。
真の同級生の人多夢の兄貴。
メイドをいやらしい目で見る。脳内で手を出す。実際に手を出す。
甘い言葉で近づいて、何人ものメイドを泣かせた危ないやつだから気を付けてね」
細かい説明ありがとう。マイナス要素が多いのは本当だけど、省いてもよかったんじゃない?
「どうも。兄貴以降はでたらめなので。」
「今年からこちらで務めることになりました。日向真(ひなた まこと)です。在人様。」
丁寧にお辞儀してくる。良子さんと同じメイド姿。身長は千歳より少し低い。黒髪、釣り目、ボーイッシュ。見た目はクール系だ。
「あー後、俺に様付けいらないから、真ちゃん。体かゆくなるんで。」
「ですが・・・」
困った顔をした真は才華の顔を伺う。
「本人がいいって言ってるから、そうしな。」
水鉄砲、サングラスを机に置きつつ、フォローを入れてくれる才華。千歳も手を上げ、
「私もそれでいいから、真ちゃん。」
「わかりました。千歳さん。在人さん。」
お互い笑顔で話す。いー光景ですなー。
「真。私も様付けいらないわぁ。あと在人は蔑んだ瞳で呼び捨てのほうがいいってことを言ってるんだよ。」
いたずらっ子な顔で才華が割り込んでくる。おい。何を言ってるんだ君は。
「さすがにそれは・・」
今まで一番困っている顔の真。たじろいている。
「もー。真ちゃんを困らせたら、めっだよ、才華。在人の呼び方はともかく。」
千歳が才華の頭に軽いチョップを入れる。俺はともかく?ここでそれですか。
「ははっごめんね 真。」
楽しそうに笑い、謝る才華。
「在人にも紹介するけど、この子は新人メイドの日向真17歳、夢と同じ2年だよ。」
今度は俺に紹介してくる。
「ってことは、夢のことは知ってるの?」
「はい、夢さんは私の前の席で。お世話になってます。」
いい笑顔だった。コミュニーケーション能力が俺とは段違いの夢のことだ。すぐ打ち解けてたんだろう。
「そっ、じゃ妹のことも含めてよろしくね。あと、蔑んだ瞳は求めてないから。」
俺は若干力強く伝えた。真は返答に困っているが、これは訂正しておく。
「そっそれでは 才華様。戻りますので。」
困りはてたのだろう真は退室していく。ごめんね。
「ありがとねー真ちゃん。」
胸の前で手を振る千歳。ドアが閉まると才華は俺の方により、右ひじを俺に打ちつつ、
「いい娘だろ。手ぇ出すなよ。」
飛行機製造会社の親父を真似る。
「出すか。出したら八つ裂きだろ。俺が。」
「「そうね。」」
にっこり笑い、千歳と才華の声がはもる。あー怖い怖い。あの笑顔が怖い。
今後も本能のまま、気ままに書いていきます。