正しさの後悔
誰が悪いわけではなかった。
きっと、誰しもが己の”正しさ”を信じ、誰しもが己の選択を後悔しない。
けれど、それで本当に良かったのだろうかと、僕は考えてしまう。
果たして、僕が信じた僕の”正しさ”は、誰もが”正しい”と思えるものだっただろうか。
すでにその問いの答えは失われているのにも関わらず、過去は何度でも問うてくる。
僕の”正しさ”は、誰の”正しさ”だったのか、と。
僕の”正しさ”は、誰が信じた”正しさ”だったのか、と。
僕が持っていた”正しさ”は、果たして誰から受け継いだ”正しさ”なのか。
その答えすら、流れ出る血のようにもとには戻らず、時の流れと共に薄らいでいった。
夢の終わりは、いつもその光景を見る。
まるで忘れ去られることを恐れるように。
どこか記憶の底に留めておけと言うように。
けれど、忘れるわけがない。
それはきっと、僕が初めて”正しさ”とは何かを考えた瞬間だったと思うから。
荒廃しきった丘の上で、灰色の空に浮かんだ月に見守られながら、くずおれる少女の姿。
きっと、考えてしまったのだろう。
信じてきたその”正しさ”は、本当に”正しい”ことだったのだろうかと……。
人は誰しもが己の”正しさ”を信じ、誰しもが己の選択を後悔しない。
ならば、僕はどうして問われ続けているのだろうか。
どうして僕は、ずっと探し続けているのだろうか。
その問いもまた、導き出されることはないのかもしれない。
目が覚めると、すでに日が落ちかけた教室には僕しかいなかった。
いや、よく見ると僕の前の机に学校指定の鞄が置かれているので、きっと物好きな誰かが残っているのだろう。
そこでタイミングよく教室のドアが開く音がした。
「お、ようやく起きましたね」
教室に入ってきたのはよく知る少女だった。
「ほらほら、もう下校時間だから帰りますよ」
スカートの裾を翻し、少女は僕に近寄ってくる。
僕は何も言わずに枕代わりにしていた鞄を手に取ると、まっすぐ教室を出た。
少女はそんな僕の後を黙ってついてくる。まるでそれが当たり前かのように。
「それで、今日はどんな夢を見てたんですか?」
そんなの、決まっていた。
僕の間違った”正しさ”を、後悔する。
そんな夢を、ずっと見続けている。
久しぶりに短編書きました。
こういう雰囲気の話大好きです。