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真実

ミシェルとケントからお付き合いする報告を聞いた後、エミリーは「マダムホワイト本店」特別室を予約して、秘密のお茶会を開いた。

招待されたのは、ミシェルとアリエルのハウザー姉妹、オーナーのルシル、騎士団所属のダイアナの4人。エミリーと侍女のルプーメも同席し、総勢6名でテーブルを囲んだ。


招待された4人は、このお茶会が前世持ちとの交流の場だと事前に聞かされていたので、ミシェルはダイアナと初対面だったがどことなく仲間意識があって、あまり緊張せずに済んだ。


まず全員で現在の身分と名前、前世の身分と名前を簡単に紹介する。


ハウザー子爵令嬢ミシェル、前世は平安時代の貴族の娘である道子。

同じくアリエル、前世は大正時代に華族の家に嫁いだおりゑ。

アマランス王国第一王女エミリー、平成時代のOLえみり。


スタンウェイ伯爵令嬢ダイアナは、フランス革命時代のイザベルという17歳の男爵令嬢であった。


フランス革命下で、国王ルイ14世の王妃マリー・アントワネットを支援していた貴族として濡れ衣を着せられる。親戚である僻地に住むエラーブル家を頼ろうと、家族でパリから逃亡するが両親とはぐれ、それでもあと少しで親戚の家に着く直前、一緒だった弟が悪漢に襲われたところをかばい、怪我を負う。すぐにエラーブル家の人々が助けにきてくれたので、誰よりも大切な年の離れた弟を託し意識を失う。

転生後は何かに急き立てられるかのように、騎士団への入団を決意。数年前、開店したばかりの「マダムホワイト本店」で購入した、前世で好物だったパウンドケーキを食べてイザベルの記憶を思い出す。死の瞬間、次があるのなら今度こそ守りたい人を自分の手で守れるようにと強く願ったことが、今に繋がっていると気付く。


そして、ホワイト公爵夫人ルシル。

彼女は、えみりの時代より更に1000年後の未来、地球が一つの国テラとして統合された時代に火星アレスで生まれた、アメリカ系移民の末裔である菓子職人、ルシル・マーズ・リトルサマーであった。


主な仕事は、過去にしか行けないタイムマシンを使い、昔の菓子を調査すること。師匠アチェロから、日本の平安時代で日本最古の菓子の調査を依頼される。宮家や貴族の家へ女房として潜入、とある陰謀に巻き込まれるが、ある高貴な男性と知り合う。彼があまりにもルシルの亡くした恋人とそっくりだったため、本来死ぬ運命だったその男性を助けてしまう。歴史を変えてしまうのは、ルシルの時代では重罪。タイムマシンは消え、平安時代に取り残されてしまった。途方に暮れていたところ、同じ女房仲間の一人から頼み事をされ、その手伝いをするためにこの世界へやってきた。


ルシルだけ異世界転移であるまさかの事実に、先に話を聞いていたエミリーとルプーメ以外の面々は驚きを隠せない。

しかし、ミシェルだけは理由が違った。


「お話の最中申し訳ありません。ルシルさん、平安の貴族の家というのは、どちらのことでございますか?」


「お察しの通り、左大臣藤原家でもお世話になりました。お懐かしゅうございます道子様、在子様付き女房の小夏でございます。私の名字リトルサマーは「小さい夏」という意味なんですよ。椿餅、気に入ってくださってありがとうございます」


「ああ、やっぱり! 小夏、まさかあなたに会えるなんて」


「私も嬉しいですわ。でも、もっとあなたを驚かせる話があるのですよ。ねえ、エミリー」


「そうね。ここからは、ルプーメに全て話してもらおうかしら」


「え? ルプーメも前世の記憶が?」


ミシェルが当惑した声をあげると、ルプーメが柔らかく微笑んだ。エミリーが紅茶で喉を潤し、口を開く。


「ルプーメ。そもそも彼女の名前には、ちょっと違和感があるの。この世界は、えみりの時代に発売された乙女ゲーム「偏愛の檻」が舞台だからか、暦やイベントやその他もろもろ、当時の時代で使われていたものが反映されているのよ。当然名前もね。そのほとんどが英語圏の国で呼ばれている名前を使っているのに、何故かルプーメという名前は聞き覚えがないの」


「その前に、みなさんの前世で印象強かった方のお名前を事前にエミリーが聞きましたわね?」


ルシルの言葉にミシェル、アリエル、ダイアナは頷いた。


ミシェルは、道子の女房の楓。

アリエルは、おりゑの叔母の楓。

エミリーは、えみりの親友の楓。

ダイアナは、イザベルの親戚エラーブル家。

ルシルは、師匠のアチェロ。


「あら、三人も楓の名前が…」


小首を傾げたアリエルに、エミリーは頷く。


「エラーブルはフランス語、アチェロはイタリア語、それぞれ「楓」という意味よ。こんな偶然あるかしら? 前世の記憶を持つ者たち全員の周りに、「楓」という名の人物がいるなんて。更に言えば、ルプーメを反対から読むと「メープル」。英語で「楓」という意味を持つの」


ルシルも自分の境遇を説明する。


「私は最初に、この世界は大昔のゲームを元にした仮想空間だと説明を受けたわ。その中で、お菓子屋を開いてほしいと頼まれた。元の時代に戻ることはできないから引き受けたけど、その際メープルという言葉が鍵となるから、メープルシロップを使ったものは作らないようにと注意を受けていたの。先日、エミリーからある甘味料を探していると連絡が入ったときに、ついにゲームが動き出すのかと思っていたら、メインストーリーはもう終わっていて、ほとんどエンディングだって言うじゃない。驚いちゃったわ」


「「偏愛の檻」は、ミシェルとケントが結ばれてハッピーエンドよ。後は、この謎だけ。どうしても解かなきゃ、気になって仕方ないわ。ルプーメ、あなた一体何者なの? 私たちが知る「楓」と、何か関係があるの? 全てを話してくれないかしら?」


エミリーから向けられた真剣な眼差しに、ルプーメはにっこり笑った。呆気に取られる他の面々を見渡しながら、ざっくばらんに話し始めた。


「ふふっ、さすがえみり。よく気付いたわね。前世では足を引っ張る上司に悪態ついていたけれど、この世界では思う存分力を発揮できるってもんでしょ?」


「ああ、その話し方、楓だわ」


ルプーメの面白がる顔を見て、エミリーは目に浮かぶ涙を指で拭い、明るく笑う。


「道子様、今度こそお慕いする方と結ばれることができて、私も本当に嬉しいですわ。あなた様ほど魂の美しい方は、必ず幸せになれると信じておりました」


「楓…! あなたがいてくれなかったら、私はあの家で生きていけなかったですわ。心から感謝しています」


ミシェルはこぼれ落ちる涙そのままに、慈愛に満ちた笑顔のルプーメにしがみついた。


「おりゑさん、自分の仕事に自信を持っているのがよくわかるわ。凛とした姿、変わらないわね」


「伯母様のお言葉のおかげですわ」


ミシェルを抱き止めながら、ルプーメが思いやる視線を向けると、アリエルは目を真っ赤にさせて微笑む。


「イザベルさん、弟のイレールさんとご両親は我々エラーブル一族が保護した後、別の国へ無事に逃げ延び、天授を全うしましたよ。三人とも生涯あなたを心から愛し、誇りに思っていました」


「ああっ! 一番の気がかりを教えてくださり、本当にありがとうございます!」


ルプーメの口からイザベルの家族の行方を知り、ダイアナは顔を手でおおい、号泣した。


「ルシル、今、幸せ?」


「ええ! アチェロ師匠に世話になったお礼が言えなかったのを悔いていたけど、まさかあなただったとはね。それに、平安時代で楓さんに助けてもらわなければ、私、時空警察に捕まって記憶削除されていたわ。そうしたら、亡くした恋人も、平安時代の大切な彼のことも、全て忘れていた。それに、この世界でやっと愛し愛される人に出会えたんだもの」


不安げなルプーメに、ルシルは心からの笑顔を送った。


一人一人に声をかけたルプーメは、ミシェルを席に座らせ、改めて自己紹介をする。


「さて、エミリーの言うとおり、私はみんなの前世で関わったそれぞれの「楓」本人よ。私は「傍観者」という存在。簡単に言えば、神様の助手ね。「傍観者」は正体を明かされないと自分から何も話すことができないの」


「傍観者」ルプーメの話はとても不思議なものだった。


神様はミシェルたちの前世の世界を司っている。

遠い未来に起こるであろう時空の大きな「歪み」を感知すると、「傍観者」を送り込んで正常に戻す。

その際「傍観者」は存在が消え、また生まれ変わるために神様の元へ戻るので、消える前に新しい「傍観者」を探すこととなる。


神様からリストアップされた人物の元へ行き、「傍観者」の名前の通り、ただそこで起こることを見て神様に伝える。

偏りがないように、いろんな時代の様々な国の男女関係なく選ぶが、基準は「何が起きても魂がきれいな人」。


選ばれた人々は神様が用意した世界で、前世の辛い記憶を持ちながら、自分の思うように生きることができるか見ている。

前世の記憶に押し潰されそうな人は、選考から外されると同時にその記憶を消され、この世界のただの住人として普通に生きる。


ルプーメの前世はえみりと同じ時代の日本人の楓で、「偏愛の檻」の発売元のゲーム会社社員だった。

初めて一から手掛けた「偏愛の檻」への思い入れが強かったのか、神様が用意した世界が「偏愛の檻」が舞台だったのにはとても驚いたが。


「というわけで、この種明かしの場にいた、エミリー、ミシェル、アリエル、ダイアナの中から、次の「傍観者」を選ぶことになるわ。ルシルは転移者だから今回は除外ね。私のときは、誰が「傍観者」なのか全然わからなかったのよ。私は愛する人ではなくかけがえのない仕事に出会えて、本当に幸せに過ごしたの。生涯に幕を閉じた後、前の「傍観者」と出会って説明を受けたわ。だから、こうして事前にみんなに会えて私とっても嬉しいの。ぜひこれからも友人として仲良くしてほしいわ。もちろん、エミリー王女の侍女ルプーメとしてね」


突然の大役候補にルシル以外戸惑いを隠せないが、ルプーメの幸福に満ちた表情から、「傍観者」が悪いものではないことがよくわかった。

それに、「友人として」という彼女の言葉。たしかに、ここに集まる6人は、今や固い絆で結ばれている。前世の記憶には助けられているところもあるが、辛い思いもたくさんあるので、それを実感として分かち合える人との繋がりは貴重だ。


「もちろん、ルプにはこれからも侍女としても密偵としても世話になるからね。他のみんなもそうよ。これからは公の場以外ではエミリーと呼び捨てでお願い。だって友達だものね」


「はいっ! 私も、皆さんともっと仲良くなりたいですわ」


「家柄に関係のない、ただの友達なんて初めてです。嬉しいですわ」


「こちらからお願いしたいくらいです。お近づきになれた今日をけっして忘れません」


「私だけ「傍観者」と関係ないけど、それでも良ければこの「マダムホワイト本店」共々、ぜひ」


エミリー、ミシェル、アリエル、ダイアナ、そしてルシルの店の宣伝も兼ねた友達宣言に、ルプーメを含めた6人で笑い合う。

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