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裏側・続

2話同時投稿の2話目です!

先に「裏側1」をご覧になって頂くことをお勧めします!

続けて、三人目のお仕置きだ。


「アルバート様に関しては、お父上のマクナーニ宰相が鍵を握りますわね」


「ん、そうね。そもそも、アルバートが使っている配下も密偵だし、サブリーダーのフィリップに報告義務があるから、彼の情報は筒抜けなんだけど。あんなに念入りに父親に情報がいかないように色々隠蔽してるとは思わなかったわ。まあ私はゲームの知識から、アルバートのナルシストには叔母と両親が関わっているのは知っていたけどね」


三枚目のパンケーキをお代わりしようかと悩んでいたエミリーは、宰相エリック・マクナーニと対面して事情を話したときのことを思い出した。


アルバートが慕っていた伯母は、エリックの妹であるエレンだった。エリックも、ここ数年息子が彼女の生き写しかと思うほど似てきているのには気付いていたが、血の繋がりもあるかと深く考えていなかったらしい。


『20年前、他国に嫁いですぐに馬車の事故で亡くなったエレンの亡骸にすがってアルバートが号泣して以来、あなたたち夫婦は彼の泣き顔を見たことはないのではなくて?年子の次男のスチュアートが大病を患っていたし、あなたも仕事で忙しかったとはいえ、まだまだ大人が気にしてあげなければいけない6歳の子供にとって、自分の変化に気付いてもらえないのはとても辛いと思うわ。子供は与えられた愛情をよく覚えているのよ?親を失った後でも、何十年過ぎてもね』


思わず前世の自分を思い出し、アルバートに少しだけ同情した。えみりは17歳で両親や祖父母を亡くしたが、思い出の中の愛情深い彼らの笑顔に、事故で自分が亡くなるまでの18年間、何度慰められたことか。


国王陛下夫妻の一人娘として、溢れんばかりの愛情を享受しているはずの15歳のエミリーの翳りある表情に、エリックは言葉を詰まらせた。そして、息子の愚行に対する責任として職を辞する旨を真摯に告げたが、エミリーは許さなかった。


アルバートへのお仕置きは彼の歪んだ美意識を利用して、容姿を笑い者にして自信喪失させる、というものだった。それが済んだら家族皆で、昔のことから今のことまでアルバート自身をしっかり見つめ、話して、受け止めるよう、言い渡した。


計画は密偵たちによりすぐに実行され、アルバートはかなりダメージを負い、仕事を休んでしまった。しかし、それがかえってよかったのかもしれない。エリック夫妻と弟のスチュアートはアルバートと顔を付き合わせて、何日も話し合った。まだ職場に復帰していないが、家でできる溜めていた仕事を始めたと、エリックから報告を受けている。


やはり三枚目を食べようと、エミリーはルプーメに頼み、ルシルを呼んでもらうことにした。ルプーメが先に戻ってくると、用事を済ませたら向かうというルシルの伝言を預かってきていた。彼女が来る前に、最後のお仕置き対象のおさらいをする。


「最後は、パトリックね。直接私やアマランス王国に何かしたわけではないけれど、ミシェルを外の世界に出さず、自分の手元にいればいいと押し付け、近付くものを手厳しく避けるのは、さすがに友達として見過ごせないわ。さて、そんな重度のシスコンであるパトリックが、大切な妹と親しくしている男とのツーショットを見たら、どうなるかしら?」


「アリエル様には想像に易かったようですね」


ミシェルとケントには、エミリーの使いということでこの「マダムホワイト」本店に予約したものを取りに行ってもらっている最中だ。

そしてパトリックはエミリーの護衛として、客のふりをして今現在店内にいる。もし、仕事中にパトリックがミシェルたちに出くわして護衛としての任務を放棄したなら、厳しく罰する。証人は他の護衛、スチュアート・マクナーニとダイアナ・スタンウェイ。ダイアナは、エミリーたちが前世持ちではないかと噂している人物だ。二人には何も話していないが、同僚の行為をどう収めるだろうか。


『あんな弟、罰されればいいわ…』


パトリックへのお仕置き作戦を伝えたときの、地を這うようなアリエルの唸り声を思い出し、思わずルプーメは苦笑する。アリエルは、パトリックが任務を疎かにすることを確信しているようだったからだ。国や国王陛下第一主義の父にもこっぴどく怒られればいいと、半ばやけっぱちになっていた。


「ケント様、パトリック様と乱闘騒ぎなどにならないと良いのですが。それにしても、ケント様の最近の穏やかな雰囲気への変化は、ミシェル様のおかげでしょうか。僭越ながら、エミリー様とケント様の兄妹のようなじゃれあい方とは違ってみえますし」


「ふふ、たしかにね。ケントも私も身内くらいにしか思ってないもの。ああ、でもやっとケントに守りたい相手ができて、私は安心した。私にも忠誠を誓ってくれているけれど、いつ死んでもいいというやけっぱちな気持ちだったから。守りたいというのは、「生きて」自分が守らないといけないからね。それにミシェルはとっても良い子だから。私、あの子が大好きなの。一緒にいると心が洗われて、優しい気持ちになるわ。ルプもそうでしょう?あまり人に興味を示さないあなたが親身になっているのは珍しいと思って」


「ええ。あんなにお心の綺麗な方は滅多にいらっしゃいませんもの。ただとても魅力的な分、気づかれたら周りが放っておかないでしょうね。心配ですわ」


「ミシェルは芯の強い子だから、好奇に満ちた目くらいには負けないでしょうね。でも、明確な悪意からは守ってあげたいと思う。前世のあの子の話を聞いたときから、今度こそ穏やかに幸せに過ごさせてあげたいの。もちろん、ベタベタに甘やかすのではなく健康的に自立させる方向でね」


「同感ですわ」


コンコン。


扉が叩かれ、エミリーが応えると店のオーナーであるルシルが現れた。

40歳をいくらか過ぎているが、大きな鳶色の瞳は輝き、若葉色の髪も豊かで若々しい。今は一つに結び、店員と同じ制服を着ている。彼女は落ち着いた声音で話し始めた。


「お話し中に失礼致します。エミリー様、ミシェルさんとケントさんがお見えになりました。ですが、先にお客様のふりで店内にいた赤い髪の護衛の方と何やら揉めているようです。同席していたもう一人の護衛の方は様子を見ています。この時間帯はミシェルさんたちしかお客様はいらっしゃらないですから、他の人に見られることはありません。店員も私だけで、予約のお菓子を取りに行くと伝えてありますわ」


「やっぱり予想通りね。ルシル、協力してくれてありがとう。裏口を見張っているスチュアートを呼んで、他の護衛が騒ぎを起こしていると伝えてくれる?あと、私のところへ来るようにとも。あ、後でいいから紅茶を一杯頼むわ」


「かしこまりました」


にこやかに扉を閉じたルシルを見送り、丁寧に頭を下げていたルプーメが口を開いた。


「それにしても、いつの間にこの特別室を借りられるくらいルシル様と仲良くなったのです?」


「うふふ、秘密よ」


「まあ、生まれたときからエミリー様を知っている私でしたが、ついに秘密ができてしまったのですね!成長の証ですわ」


特に気分を害したわけでもなく、茶目っ気たっぷりにルプーメが驚く。エミリーは笑みを深めて、カップに残る紅茶を飲み干した。


「でもね、秘密はもうすぐ秘密じゃなくなるの。そのときには、またこの店のこの部屋でお茶をしましょうね、ルプーメ」

やっと、次話はミシェルとケントのターンです…。

もう少しお付き合いくださいませ。

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