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太陽がおちるとき  作者: 垂落下
1話 召喚
3/5

食事

「食前」の次のお話です。

 深い森の奥にある木造の一軒家、朝を迎え静かな時間が流れていた。2人の人物がテラスにあるテーブルを囲い、木製の椅子に腰かけていた。2人の目の前にある皿の上にはもう何もなく、残っているのは外側に置かれている皿の上のみ。2人は難しい表情をしながら、お互いの顔を見ることなく森の方を凝視している。

 話し合い(というより一方的な質問攻め)で聞いた話は、いるはずのもう一人の人物、ニナのことについてだ。彼女はどういう存在なのか、何をしてきたのか、細かくではないが聞くことができた。


 まず彼女は魔術、「使い魔召喚」によって召喚された妖精だ。「本来」妖精は「人より」な存在ではなく「動物より」の存在だ。言葉を話すことはなく、主従関係がはっきりしており、主の為だけに生きていく絶対の忠誠を誓った存在。そして魔術であるが体が全部魔力でできているものではない。必要な材料が決められており条件を満たし、正しい方法でなければ召喚は行われない。使い魔の基本的運用は主のお手伝いだ。森にある素材をとってこいとか、至急手紙を届けてくれとか、それが出来ていい方だ。ましてや妖精自身が魔力を使った魔術を使う妖精は存在しない訳でもないが、主に忠誠を誓っているから問題が起こることはほとんどない。そんな存在なのに…

「異常すぎる…。」

「彼女の召喚に成功したのは4週間前、成功して大喜びで協会に連絡したら、5日と立たないうちに協会の関係者が家を訪ねてきて拒否権なしで召集されたよ…。ボク以外の人間を見るのも初めてだったしで緊張と恐怖で道中魔法を暴発させたり…。協会の人たちは彼女を隔離して実験しようとか言ってくるし…。ボクは反対したし、協会内でも味方してくれる人がいて、彼女の立場は『使い魔が何か未知の魔法・魔術を使用した場合、主が論文としてまとめて提出』と『街や都市出るときは拘束具などをつかい魔法・魔術の使用させない』などの条件付きの無茶な要望で収まったよ…。」


 たびたび話に出てくる「協会」とは魔法協会のことらしい。どうやら各国の魔法文化の差を出さないために、各国の人員を出し合い作られた各国に「中立な」組織らしい。基本的な動きは魔法・魔術の研究、物品の流通の管理など中立組織としてできる仕事などを行う…らしい。まだ実際を知らないしなぜ作られたとか、各国と言われても何ヵ国あるのかも知らない。

 深いため息をしていた男性が

「あぁそういえば、魔法の説明してなかったね。魔法は…

「魔法は魔力を基盤としてなされる現象、人為的に起こせるし、まれに自然現象として起こることもある。魔術は人為的にしか発現しないもので、魔力の他に素材や陣を通しての魔力への命令を必要とする高度な現象。オレが生まれたのは後者の方。」

 男性の説明を横入りして少し自慢げに語った。男性は驚いた表情をし口をぽかんと開けていた。それを横目で見て優越感を覚えた。 

「…凄い、一般知識…鑑に歯磨き、料理、フライパンなど知らないと言っていたからてっきり魔法のことも知らないんじゃないかと思っていたよ。」

 恥ずかしいから切り取って言い挙げないで欲しい…。

「一般知識はないが、偏った専門的知識。魔法に魔術、錬金術に薬学、そういった知識はなぜか「召喚」された時から持ち合わせていたよ。」

「協会でもそこまではっきりと区別して説明できる人はいないだろうね。」

「それと…、あっまだ名前教えて貰ってない…。」

「そういえばそうだね。ボクの名前はジェフト、 ジェフト=カナートだ、よろしく。」

「よろしく。ジェフトさんが前に、ニナが行った魔術を『使い魔召喚』と言っていたが少し違う。俺は『召喚』という魔術で作られた…と言った方が正しい。」

 ジェフトさんは興味深々で頷きながら話を聞いている。

「俺の正体は人狼だ。人間の姿と狼の姿を持っていて、野生の狼と違い人間の知能を持つことが出来る。理性も効くし、肉を好む訳でもない。自然に存在することはなく、人為的にのみ生を得ることが出来る作られた存在だ。」ここまでは自分が持つ自分の正体の知識だ。

「でも変化の仕方がわからない。」悲しいことにこれも事実だ。

 ジェフトさんは「…え?」と言った顔をしている。無理もない突然わからない知識を教え込まれオチがこれでは…。

「人狼の特性である夜目や魔力感知などの眼の特性はしっかりとあるんだが、狼に変化することが出来ない…。」

「そ、そうなんですね…?」

「おそらく魔力を消費して変化を行うのだろうが、自分自身から魔力を感じない。魔力がないから変化ができないと考えられる…。」「はぁ…。」

「でも今日召喚されたばかりでまだ一回しか変化していない、魔力を使ったという感覚もしていない…。」そこから導き出される認めたくない仮定が2つある。

「変化に相当の魔力を使われる、または、自分が使える魔力の底が変化に使う魔力量を下回っている…。」

 できれば前者がいい…、後者は人狼として、魔法の知識を持って、生まれたことに謝りたいぐらいだ…。

 ずっと口を開けて聞いていたジェフトさんは

「前者じゃないかな…?、君は一度変化した事だし後者はないんじゃないか?」

「で、ですよね!そうだそうだ…。」自分を言い聞かせるように、安心させるように繰り返し言った。ここは環境がいい、魔力に満ちているこの場に数時間といれば自然と魔力も回復する…。魔力上限が変化時に消費する魔力を下回ってるという仮定でなければ。


「…ニナ帰ってきませんね。」「帰ってこないねぇ…。」

 放心に似た無気力状態、あるかもしれない絶望的な仮説に頭を抱える。ジェフトさんは聞いた話を整理しているのか頷きながら森の方を見ていた。テーブルを見ると冷めかかっている目玉焼きとパンが今だ帰ってこないニナの席に置かれている。静まり返る間の中で現実逃避にあまり疑問に思っていないこと問を口にだす。

「…この家でかいですね、ニナが来るまで1人で?」

 相変わらず森の方を凝視していたが一瞬ジェフトさんが口ごもる。聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか。

「もともと妻がいたんだが先に旅立たれてしまってね…。1人だとこの家はでかいし森の静けさもあって寂しいかったが、魔術の研究に没頭できたよ…。」

 少し嫌な空気を感じ、(やってしまった…)と口にだして謝る前に、

「まぁ昔も今と変わらず研究に集中しててよく妻に怒られてたけどね、」

 幸せそうに言い、笑い話に誘導してくれたお陰で場の空気がゆるんだ気がした。

「…すみませんでした。」「気にしてないよ、今はニナも居るし、昔より賑やかさ。」


「今までの研究ってどんなものですか?」

 服を貸してくれた礼とさっきの詫びの意味を合わせ、自分の持つ知識で助言できないかと思い純粋な気持ちで聞いてみた。

「昔は魔法で火を出す、水を出すなどの夢みたいな研究をしていたんだが私には難しくてね、こっちに来てからは魔術や薬学などの研究だね。」

 目を丸くしジェフトさんの方を見る。耳を疑った。ずっと引っかかっていた違和感、この家に来て食事をしてこうしてのんびりしているまでの間今まで魔法を見なかったのは、『ジェフトさんが魔法を使わなかった』のではなく、

「あぁそう言えば、ついこのあいだ、ニナの件で召集された週に、私の教え子が魔法に成功したと発表していたな。確かあれは…。摩擦発火具の『火花と同等の火を一瞬出す』魔法とか言って同じように注目されていたな。」

『ジェフトさんでも使える魔法』の研究が進んでいないんだ。


「ただいまぁー」

 家周辺の森の木々が揺れ、草を分けて出てきたのは朝家を飛び出して出て行ったニナがロフトの方から帰ってきて挨拶をした。ジェフトさんはそれに対し軽く挨拶を返し、手を洗ってご飯を食べるよう催促した。でもオレはそんなことよりも気になってしょうがない事で頭が一杯だった。ニナが朝歯磨きしていた場所へと移動している間ずっと頭の整理をしていた。

 ニナがいなくなったところで、座っていた椅子から立ち上がり机に手をつき威勢よく問いかけてしまった。

「どうやって!!」「しゃぃ!?」

 ジェフトさんが驚いて変な声を出す。

「そんな魔法文化の背景でどうやってニナのような存在が生まれた!? それよりもさっき話した魔法協会、そんな魔法文化からどうやって成立したんだ!?」

 あるのかないのか普通なら疑う魔法文化の中で『魔法が存在を信じて』魔法協会が存在している。各国が人員を出し合ってまで信じる根拠・実績がないこの世界で何故協会のような組織が出来上がったのか疑問に満ちていた。

 怯えて戸惑っているジェフトさんがゆっくりと口を開いた。

「こ、この世界には昔、神様と龍が顕現していたんだ。」 「…え?」

 ニナが戻り外にある椅子にすわり食事をとり始める。食べ終わった自分たちはデザートのように『神様と龍の話』をしていく。


3つにわかれたうちの真ん中に位置するお話です。 お話に登場する神話や宗教、政治関係はフィクションです。

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