混乱
俺は今、宿泊先のリゾートホテル内のプールで友達と遊んでいる。
大学生の俺と森と来人とてんの四人はロックバンドを組んで活動している。
来人がギター、森がベース、てんがドラム、そして俺がボーカルだ。
今大学は夏休み。女の学友を4人連れ、大学生生活最高の夏になるはずだった。
それを大災害がぶち壊した。
地震だ。
どーんという大きな音とともに、
プール内でも立っていられないほどの揺れがきた。
あちこちで窓ガラスが割れる音と宿泊客の悲鳴が聞こえる。
「おい!おぉおぉおい!!」
俺たちはただ騒ぐ事しかできなかった。
揺れが収まるのを確認して、プールから上がり、プールサイドに置いてあった服を着た。
あたりがガラスの破片ばかりだ。
更衣室を無視し、靴までもプールサイドまで持ってきていたのは不幸中の幸いだった。
体の水分をタオルでとっている間、最悪な事が起こった。火災だ。
プールを囲うように4棟建てられたホテル。その正面の本館にロビーやレストランが集まり、その他の棟は全て客室であった。
その正面の建物の中で火災は起こった。
「助けにいこう!」来人は叫んだ。
確かに悲鳴も聞こえる。
俺たちは急いでタオルで体を拭き、服を着た。
本棟に着くとすぐに階段を探した。
確か火は最上階のスカイラウンジのあたりだった。
駆け上った先は煙で前が見えず、声だけが飛び交っていた。
水で消火してる者はいなかった。
全員逃げ出す事を考えたのだ。
しかしまだ中に人がいる。うめき声が聞こえる。
更に奥に入ると誰かに呼び止められた。
「ここにいてはいけない!すぐに建物からでるんだ!」従業員らしい姿が煙の奥から見えた。
案の定、炎は4人を囲んでいた。。
「外にでられるぞ」
俺は叫んだ。
ビアガーデンをやってるテラスに出られそうだった。
テラスに出て下を見下ろす。
15m下にプールが見えた。
「こっから飛び降りるぞ!」
来人はいった。
躊躇する俺をよそにてんと来人が飛び降りた。
「おい、いくぞ!」
森もそういって飛び降りてしまった。
15mはかなり高い。俺は尻込みしてしまった。しかし背後は火の海、地震で建物も弱ってる。崩壊する可能性だってある。
よし。。おもむろに飛び降りようとすると俺はとんでもないものを見た。
飛行機だ。飛行機が本館めがけて落ちてくる。上空でなにが起こってるかはわからない。だか、そんなことを考えてる暇はない。どんどん飛行機は近づいてくる。
俺は勇気を出して飛んだ。間一髪のところで飛行機はものすごい音を立てて本館につっこんでいった。
わわわわわ、俺はプール内で慌てる事しかできなかった。
四人とも呆然とプールサイドで立ち尽くした。本館なのか飛行機なのか区別は付かなかった。
前のように本館に近づく気はしなかった。
遅れて消防車と警察がきた。
もうてだしはできない。
「部屋に戻ってみるか」
てんの一言で四人の次の行動は決まった。
部屋は少なからず落ち着いた。まともな部屋があることが心の支えとなった。「ここ以外ってどうなってるんだろう」来人の言葉。
確かに。ほかの場所も飛行機が落ちてきたりはしてないだろうか。なぜ飛行機が落ちてきたのか知ってる人はいないだろうか。そんな興味がわく。
隣の部屋の女二人に声をかけ、レンタカーで最寄りの駅まで送ってもらう事にした。
しばらくここに滞在することになるだろう。食料も買ってこなければいけない。荷物は部屋に置き、カバンを空にして持って行った。
隣駅に着くと駅前の銀行が燃えていた。車がつっこんだようだ。横でバイクがエンジンをつけたままとまっている。
「おい!みろよ」てんが言った。
ATMが壊れ、大量の金が露出しているのだ。それをみんなでてんのバックパックに詰め込んだ。
数千万はあるだろうか。
そこに警察が到着した。ひとだかりもできてきている。ばれてはいけないと思い、四人は道路にでた。
さあ、この金でコンビニで買い物だ、と足を向けた途端、てんが走りだした。
エンジンをつけたままのバイクの方にだ。
そしててんはバイクにまたがった。
逃げる気だ!俺はてんのバックパックを掴んだ。金がどさどさと道路に落ちる。まわりの人間だけでなく警察にも見られてしまった。
「100万だけでもおいていけ!」俺はてんに言った。てんは手渡すことはしなかった。道に落ちた数束の札束をとり、1束だけのこしてバイクで走り去ってしまった。
俺たちはその1束を拾い、足早にその場を去った。
帰りの電車の中、俺たち3人は33万づつ山分けし、残りの一万は来人がもった。食料など、必要なときは来人から出すことにした。
てんの事は考えないようにした。
あれだけの大金だ。人も変える。
帰りの車のなか、微妙な雰囲気の違いを俺は感じ取った。むかしからカンと頭は悪くない方だ。
てんのことを話した。
大金を得た事を話すと、女二人に緊張感が走ったようなきがした。
しかし、俺たちは何も得なかったことにした。てんが全て持ち去ったと。もう金で人間関係がわるくなるのは嫌だ。そうすると「じゃあしょうがないね」とはっきりと女は言った。
なにがしょうがないのだ?もしかして俺たちが金を持っていたら奪うつもりだったのか?男3人相手になぜそんな強気になる?
そんな事を考えていたらガソリンスタンドに着いた。ガソリンが足りないということだ。
「俺がいくよ」と来人がいって車を出ていった。
あのとき男3人で出ていけばよかった。。
来人がスタンドに出ると男が近づいてきた。
男は一言言った。「車をよこせ」と。
「渡すわけにはいかない」と言う来人のまわりを5、6人の男が囲んだ。
1人が懐から何かをだした。ナイフだった。
そこに、ばん!と強い音が鳴った。「やめなさい!」運転していた女は車から降り、手には拳銃を持っていた。
男たちはわらわらと逃げ出した。
「大丈夫か?!」横たわっている来人に俺と森が駆け寄って来人を担いで車に入れた。
車のなかで俺は驚愕した。手や腹にべったりと血がついていた。来人の血だ。来人は刺されていた。「おい!来人!」森がゆすっても起きない。来人は絶命していた。
「おおおおおおおおおおお」
俺は絶叫した。
来人が死んだ。
俺も降りていればよかった。
治安がこんなにわるくなっているとは思わなかった。
そしてあの女。
なぜ拳銃を持っている。
そしてやはりあの時の態度。。
俺たちが金を持っていたら、拳銃でおどしてまきあげるつもりじゃなかったんだろうか。てんの顔が浮かぶ。
裏切りに殺人に恐喝。
日本はこんな国だっただろうか。
リゾートホテルに着いて、俺は女から車の鍵をあずかった。来人の墓をつくりにいかなければいけない。近くの河川敷がいいだろう。
俺たちは女にばれないように荷物を運びだした。来人の荷物は一緒に埋めてやろう。てんのにもつはそのままにした。
もうここに帰って来る気はなかった。
女の目を盗みリゾートホテルを出た。
河川敷に車をとめたが、来人の件が気にかかった。
また車が狙われるかもしれない。
目立つ河川敷は避け、住宅地にはいったところで車をとめた。
車をとめてでたところで事件は起きた。
パンパンパンパン!
銃声が鳴り響く。
止めた車の方に男が一人走ってきた。
口論をしながら銃を打ち合っている。
追う方は3人くらいいるだろうか。
「死ねっ」
といって打った玉は男の脳天を貫いた。
俺の隣で男が倒れた。手には銃をもっている。
あわわわわ
俺は焦ったなんなんだここは。
本当に日本か?
なぜこんなにも軽く人が死ぬ。
追ってきた男3人がこちらをみているがどうしようもなかった。
「くそっみられたぞ」
「殺せ」
そんな声がきこえた気がした。
「危ない!」
と言って森が覆いかぶさった。
森がその場に倒れる。
森はピクリとも動かなかった。
「?!」
俺は最初理解できなかった。
また仲間を犠牲にしてしまった。
森は犠牲になったのだ。
ギ セ イ ニ ナ ッ タ ノ ダ
「うおおおおおおおおお!!!」
俺は叫び声を上げた。
無意識に、転がっている銃をとって走りだした。止まっていると殺される!そんな脅迫観念にしばられた。
自分でも驚くほどそれは終わった。
銃で3人の男を撃ち殺すのは一瞬だった。そんな才があったのかたまたまなのか。。
そんな事を考えるひまもなく、次の問題にぶち当たった。
「動くな!」
警察だ。銃声を聞きつけて警察がきた。銃をこちらにむけている。
全て見られてしまった。。
俺は力なく銃を捨てその場に座り込んだ。そして逮捕されてしまった。
しかしその事態とはうらはらに俺はパトカーに乗せられながらこうおもったんだ。
「助かった」と。