魔王ちゃん(未覚醒)とお話する
side:夜月
さて、どうしようか。ついノリで小屋ぶっ壊したけど、いやー、こっち来てからそれなりに強化されたんかね?地球だと精々窓を余波で割るくらいしかできなかったんだが。
まあ、その方がイジメやすいからいいんだけど(笑)
「よし、じゃあ王女さん?とりあえず俺の質問に答えろ」
「だ、誰があ、あなたなどに話しますか!」
あら?てっきりさっきので折ったと思ったんだがなぁ…。しょうがない、まだ使ったことはないが、取得した【幻魔法】でも使ってみますか。多分イメージすれば出来るとかそんな感じだろ。それにこれがどんなものか【鑑定】で調べ済みだしな。まあ、もし出来なくても物理的にやればいいしな。
そして俺はゆっくり王女さんに近づくと恐怖で動けない王女さんの頭に手を置いた。
「な、なにを…?」
困惑している王女さんにニッコリ満面の笑みで答えてやると俺は魔法を発動させた。すると王女さんの目から光が消え、その少し後には叫び始めた。
「ああ……うああっ!?っぎゃあああああああぁぁぁぁ!!!ああああああああああああああああ!?!?!?」
「あー…ちょっと強烈すぎたかね?」
夜月が王女に何をしたかと言うと、まず【幻魔法】とはその名の通り相手に”幻”を見せる魔法だ。一見、それだけの能力にしか思えないかもしれないが、この魔法は相手がこの魔法にかかってもまず気が付かない、そして最大の恐怖は肉体ではなく精神に直接ダメージを与えることだ。これはいくら肉体を鍛えても無意味だ。これなら相手に気が付かれずに魔法を使い、殺すことが出来る。
「いやー、しかしこれは良いな。イジメやすい」
あ、ちなみに今王女さんに見せてる幻覚は、こんな感じ。
目の前で両親、兄弟、仲の良かった人が殺される。
↓
国が滅亡
↓
必死に逃げ、どこかの森に逃げ込む
↓
その森にいた魔物に××される
↓
その後奴隷商人に見つかり奴隷に落とされる
↓
王女さん絶望
これを繰り返す感じ。王女さんがもし幻の中で他の行動をとっても、最終的にバッドエンドになるようになってる。
え?酷い?おいおいやめろって、照れるだろ。
と、まあこんな感じで王女さんが折れるのを待ってるんだが、今の内に王女さん【鑑定】しとくか。
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シシリア・シュヴァルツ・メラン
状態:悪霊(憑依)
Le52
HP:1500
MP:2850
STM:1000
筋力:600
魔力:1200
敏捷:580
耐性:550
魔耐:800
運:49
ースキルー
【闇・火属性魔法:Le4】【体術:Le1】【詠唱省略】【杖術:Le2】
ーアビリティー
【王族の威圧】【黒の王の血族】
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はぁ……あのさ。この世界って厄介事しかないの?テアスは本当に仕事してたのか?もう俺の目の前に2つもあるんだけど?いや、魔王ちゃん(未覚醒)といい、この国はどうなってんの?滅亡でもすんの?悪霊憑いてるんだけど。王族が悪霊にとりつかるってもうアウトじゃね?
んー、これは悪霊消してあげたほうがいいよね?俺まで憑かれちゃ困るし。それにここで恩売っとけば後で便利だろうしな。よし、じゃあ、消してあげよう…ってあら?いつの間にか王女さんの悲鳴が聞こえなくなってる…?
そして夜月が王女の方を向くと、王女は死んだ目でビクンッビクンッと痙攣して倒れていた。
「あーあ、やっちゃった。大丈夫か?死んでないよね?」
少し心配になった夜月は王女を改めて【鑑定】すると…
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シシリア・シュヴァルツ・メラン
状態:絶望している悪霊(憑依)
Le52
HP:1500
MP:2850
STM:1000
筋力:600
魔力:1200
敏捷:580
耐性:550
魔耐:800
運:49
ースキルー
【闇・火属性魔法:Le4】【体術:Le1】【詠唱省略】【杖術:Le2】
ーアビリティー
【王族の威圧】【黒の王の血族】
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なんで悪霊が絶望してんの?てか悪霊って絶望するの?負の塊みたいな奴じゃないのか?と色々考えたがそれだときりがないのでとりあえず王女さんの悪霊を消してあげるか。
「【聖光】」
俺が今使ったのは【光属性魔法】だ。スキル取得するときに回復魔法みたいなやつを探したが、どうやら光属性魔法の中に分類されるらしい。
【聖光】の光が王女さんを包むと王女さんの中から黒い靄みたいのが出てきて【聖光】の光を浴びて霧散していった。どこか悲しげな様子だったのは気のせいだろう。
そして靄が全て消え去り、改めて王女さんのステータスを鑑定し、悪霊が消え去っているのを確認すると、とりあえず気絶している王女さんを横に寝かすと、先ほど小屋を吹き飛ばした時に木にぶつかって気を失っている魔王ちゃんの所に行く。
「いやー、すっかりこの子の事忘れてた。大丈夫かな?結構弱ってたみたいだけど」
魔王ちゃんのステータスを確認すると、まだ一応生きてるようだったが、これはさっさと回復してあげた方が良さそうだ。
「【ヒール】」
俺は魔王ちゃんに最下級の回復魔法を使った。なぜ最下級なのかと言うと、まず魔王ちゃんのレベルが低く、ヒールで丁度良さそうだったのが一つ、もう一つは過剰回復の心配だ。適正の回復量を大幅に上回るほどやってしまった場合どうなるかわからないからだ。もし回復のし過ぎでダメージを受ける場合多分
即死しちゃうからだ。だからこれはよく調べてからにする。それに俺のステータスなら多分一般的なヒールよりも効果はあるだろうしな。
ヒールをかけてから少し経つと、魔王ちゃんが目を覚ました。
「あれ?ここは…そういえばあたし…」
どうやら先ほどの出来事を思い出しているようだ。そしてこちらに気が付くと、恐る恐ると言った様子で話しかけてきた。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」
「いや、あれはたまたまだしな。それに俺がつい小屋をぶっ飛ばしたせいでお前まで巻き込んじまったから礼はいらん」
「そ、そうですか。でも結果として助けてくれましたから」
そう言ってもう一度礼を言うと、今度は色々聞いてきた。
「あなたはどこからきたんですか?」
「遠いとこだな」
「別大陸なんですか?」
「いや、もっと別なんだが…それはまた後で教えてやるよ」
「じゃあ、あなたは何者なんですか?その髪と目は本に書かれてませんでした」
「それもまた後で話す。今話しても面倒な事にしかならないからな」
「じゃあ、最後に…あなたは私が怖いですか?気持ち悪いですか?」
「いやまったく?逆にお前みたいな女のどこに恐怖しろと?」
実は魔王だと言うことは言わないでおく。言っても信じらんないだろうしな。
「なぜですか?私は生まれた時から嫌われてます。この髪と目を見て何も思わないのですか?」
「そうだな、それを言ったら俺も同じだからな」
「あ…、確かにそうですね。じゃああなたも私と同じように殺されそうになったんですか?」
「いや、俺の場合俺に危害を加えようとするやつは基本潰してきた。勿論利用しようとするやつもだ。だから俺はお前ほど過酷ではなかったと思うぞ。まあ、恐れられはしたがな」
これは少し遠回しな表現をしてるが事実だ。地球での俺は化け物だった。だからめんどくさい奴らがうじゃうじゃいたが片っ端から潰してたらいつの間にか俺に手を出すのは絶対にしなくなってた。国までそうなったのだが、いくらなんでも警戒しすぎじゃないか?と数少ない友人に聞いたら友人は「あんたは存在が理不尽の塊みたいなものよ。権力も直接的な力も通用しない。敵に回せば壊滅必然。これなら特に問題がなければ放置したくなるわよ」とのことだった。言いすぎじゃないかと言いかけたが、実際そうしてきたから言い返す言葉もなかった。その後「じゃあお前は俺の事どう思ってるんだよ?」と聞いたら「は、はぁ!?そ、それは…その…いきなり聞かないでよ!?」と言われてしまった。何故あんなに慌ててたのかは今でもわからない。
「はあ、凄いですね。でもそれで辛くなかったんですか?」
「まあ、数少ない友人がいたからな。元々一人が好きな性格だったし特に辛くはなかったな」
その後も色々聞かれたが大した内容ではなかった。で、俺は少し前から気になってた事を聞くことにした。
「なあ、お前名前はなんて言うんだ?」
俺がそう聞くと魔王ちゃんは少し寂しげな表情で
「名前はないんです。生まれつき忌み子として扱われたので名前はありません」
「そうか。けどそれは困ったな。名前無しだと不便すぎると思うぞ?」
「そうなんですか?私は今まで”部屋”の中にいて外の世界に出た事がないですし、外での常識はわかりません。唯一の情報元は本だけですし」
「じゃあ、今自分で決めたらどうだ?その部屋に戻るつもりなのか?」
「いえ、ありません。せっかく外に出れたんですから外の世界で生きていこうと思います」
「だったら名前が無いと困るだろう?」
「そうですね。名前……」
そういって魔王ちゃんはしばらく考えていたが「やっぱり思いつきません。それに自分で自分の名前を決めるって言うのも恥ずかしいですし、なのであなたが決めてくれませんか?私親しい人とかいませんし知り合いなんていません。唯一普通にお話できてるのはあなたぐらいなんです」と言われた。なら、しょうがないのか?と思い真面目に考えることにした。
うーん、何がいいだろうか。俺ネーミングセンスないしなぁ。ふーむ……。
結局10分ぐらい考えてやっと決めた。
「”スミレ”でどうだ?俺の故郷での花の名前なんだが」
「どういう花なんですか?」
「お前はその目の色を嫌ってるかもしれないが俺は綺麗だと思うんだよ。俺の右目よりもな。でその花は綺麗な紫色をしているんだ。後は…」
「後は?」
「俺の故郷だと花に色々意味があって、すみれの花の意味の一つが、”小さな幸せ”だ。お前はやっと自由っていう幸せを手に入れたばかりだ。だからちょうどいいかと思ってな。どうだ気に入らなかったか?」
「…いえ、その、そこまで考えてくれるとは思わなかったので。ありがとうございます。これからはスミレと名乗ることにします。あの、それで、今まで自分の名前が無くて言い出せなかったんですが、あなたの名前を教えてくれませんか?」
「ああ、俺は夜月だ。よろしくなスミレ」
「ヤヅキさん…ですね。わかりました。よろしくお願いします」
その後は王女さんが目覚めるまで二人で色々話して時間が過ぎていった。地球にいたときも含めて久しぶりに人と話したのは結構楽しかった。ついでにこの世界についても知れてかなり充実した時間だった。