最初の被害者
side:???
私は望まれて生まれなかった。いや、正確には生まれた瞬間に忌み子として扱われたというのが正しいと思う。理由は単純に私のこの白い髪。私の家系は生まれつき黒髪らしいんだけど、何故か私は生まれつき白かった。目の色も不吉を表す紫で、家の人はお母さんやお父さんも含めて近寄ろうとしなかった。だから私は15歳になるまでずっと一つの部屋とは名ばかりの牢獄にいた。初めはなんで外に出ちゃ駄目なのかわからなかったけど、段々大きくなるにつれてわかってきた。多分、私と言う存在を隠したいんだと思う。
私の家系は王族と親しい有力な貴族の家系みたいで、私の存在自体が不祥事なんだと、毎日私に暴力を振るう男の人たちが言ってました。だから暴力されるたび、ごめんなさいって、生きててごめんなさいって謝りつづけました。そして私は15の誕生日の日にメラン”王国第5王女”っていう綺麗な女の人に小さな小屋に連れていかれました。今度はここで暴力されるのかな?
「まったく、ミリアス家にこんな”物”が隠されてたなんてね。困ったものだわ。我が国の貴族から忌み子が生まれるなんて他国に知られたら笑いものだわ。こんなのは知られる前にこうしなきゃ、ねっ!」
私は王女さんに、今まで暴力してきた男の人よりも強い蹴りを入れられ、その勢いで後ろの小屋の壁に背中を強く打ち付けたせいで、少しの間息ができませんでした。だけど王女さんは
「そうね…まず逃げられないように足でも壊しておきましょうか」
そう言って王女さんは私の膝を壊しました。
「っあああぁあああぁぁあああああ!?!?痛い痛いいたぁああああああぁぁあぁぁぁああああ!!!!ううあうあああぁぁ…」
あまりの激痛で意識が飛びそうになりました。けど、王女さんは意識が飛ばないように暴力を振るってきます。そして私のもう片方の膝も破壊すると、次は両肘も壊されました。
「ふふふ、みじめねぇ。けどあなたが悪いのよ?そんな白い髪と紫の目なんてしてるから」
そうして、どれくらい時間が経ったんだろう…。もう痛みの感覚も無くなってきて、声も枯れて出なくなった頃。
「さて、そろそろ止めを刺さないとね。あんまり時間をかけるとここが見つかる危険性があるし…。誰か!剣を貸しなさい!」
「はっ!」
王女さんは近くの男の人から剣を貰うと、私に近づいてきました。
「さて、そろそろ時間だからさくっと殺るわよ。あなたもやっと死ねて嬉しいでしょ?」
ああ、私、遂に殺されちゃうんだ。やっと…もう暴力されなくていいんだ…。でも…贅沢言うんなら…最後に外の世界を…見てみたかったなぁ…
そして王女が剣振り下ろそうとする瞬間…
「あれぇ?お取込み中でした~?」
白銀の髪と金と紫の目をした人が現れました。
side:夜月
テアスに別れの言葉を言うと一瞬浮遊感を味わった後、夜月はどこか不気味な雰囲気のする森に転移していた。
「俺の望む場所って言われてもな、ここがまずどこかわかないんだけど、とりあえずどこかの森の中って感じか?」
そうして暫くスキルを試しながら森を探索してると何か音が聞こえてきた。
「これは…何か蹴ってるな、丁度いい、親切な人だったらここがどこか聞いてみるか。いや、今の俺はよくわからない存在だからな、しょうがない、脅迫するか」
どうしたら何か音が聞こえるレベルの音の正体がわかるのかは知らないが、多分ステータス補正的な物だろうと結論づけた。
そして音のする方に少し歩いていくと小さな小屋の前に騎士のような男が二人立ってるのが見えてきた。
「ふむ、これは王族か貴族がかかわってるか?」
騎士みたいな部隊や護衛を持ってるとしたらそれぐらいの存在しかいないだろう。テアスの説明だと帝国や王国がほとんどみたいだからな。
「まあ、それにしても幸先いいなオイ」
そう、貴族、ましてや王族ならば、しっかりお願いをして、色々準備が出来る。元々こんな場所にいなかったら王城にでも殴り込みに行こうと考えていたし、その手間が省けたのは嬉しい誤算だ。
その後当初考えていた案を破棄し、新しく案を考えた後、小屋の中にいる人達には気づかれないように音をまったく立てないように騎士風の男二人を始末した。そして小屋を開くと何やらお取込み中だったらしいのでとりあえず挨拶をしといた。
「あれぇ?お取込み中でした~?」
すると高そうなドレスアーマーを着こんだ黒髪黒目の女性がこちらに剣を構えた。
「あなた…何者?外の奴らは…どうやら始末されたみたいね。なのにまったく音がしなかった。それに…銀髪?しかもその目は何…?」
どうやら随分混乱しているようだった。
(しかし、黒髪黒目か。王族って言うのは確定したが、なぜこんな場所にいる?)
そう思ってあたりを見回すと、奥の壁際にボロボロの女の子を見つけ、その女の子を【神眼】の空間把握の応用で”鑑定”すると
(…マジか)
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???
Le1
HP:140
MP:100
STM:30
筋力:20
魔力:50
敏捷:20
耐性:30
魔耐:25
運:10
ースキルー
未覚醒状態です
ーアビリティー
【転生した魔王】【忌み子】
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成人した男性の平均ステータスはHP、MPは150、筋力や魔力は50、運は大体20くらいで運がいい人だと30くらいで、この子はまだ年齢の事もあるが、一般的なステータスよりも低かった。だが、スキルはまだ判明してないから後回しにするとして、アビリティの【転生した魔王】、これはまずいだろう?恐らく【忌み子】ってアビリティがあるからそのせいで酷い扱いされてたんだろうが、これスキル覚醒したらやばいだろ。
「ちょっと!私の話をきいてるのですか!?あなたは何者ですか!私をメラン王国第5王女と知っての行為ですか!?」
何やらギャーギャー王女さんが騒いでいるが、今はそれどころじゃない。なので、物理的に黙らせることにした。
「あーうっさい、でなんだっけ?第5王女?だから?自分は特別な人間とでも?」
「そ、そうよ!私は栄光あるメラン王国の王女よ!あなたみたいな平民とは違う存在なのよ!」
「…ぷっ…あっはっはっはっは!あー、まじかよ!こいつは最高だわ」
その王女の言葉を聞いて俺は不覚にも笑ってしまった。
「なあ、王女さん?俺はさぁ、お前みたいに自分は偉い人だとか思ってる奴見るとさぁ?無性にイジメたくなっちゃうんだよ」
そう言いながら笑う夜月は王女からすれば悪魔の微笑みに見えたかもしれない。それほどまでに夜月は邪悪な笑みを浮かべていた。まるでいい玩具が見つかったような子供のように。
「ひっ!?なにする気ですか!?わかってるんですか!?国一つ敵に回すんですよ!?死にますよ!?」
「へぇ、俺を殺すか。やってみ?」
「なにをっ!?」
そう言うと夜月は全ての魔力を全力で撒き散らした。すると、災害が起きた。
小屋の屋根は吹き飛び、壁は粉砕され、周りの木々はなぎ倒された。それに巻き込まれた王女は少し離れた木に打ち付けられ、衝撃で暫く立てなかった。しかし、現実は残酷だ。この災害を起こした張本人がゆっくり近づいてきた。
「よぉ、王女さん?どうかな?これでも俺を殺すなんて言えるかい?」
「ひっ!?何者なのよあなたは!?」
「俺?俺はただの旅人ですよ?」
そう言って悪魔は微笑んだ。