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傾国記  作者: Izumi
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-2-白虎と姫


「おぉ、トウヤ!」

やけに大柄な、人二人分くらいあるであろう大男が港で手を振っている。

「キャー!トウヤさまよ!」

港の女たちがひしめき合う。

トウヤは愛想を振りまきつつ、そのクマのような男のもとへ急いだ。

「タイラス、中にいらっしゃるのだが、どうも船旅は初めてだったので歩けなくなってしまわれたのだ」

「わかった。」

そのクマのような――タイラスは船内の最深部を目指して歩き出した。

「姫様、ご無理なさらないでください。」

ふらふらと青ざめた顔の真姫は、しきりにご迷惑になるわといって

船の出口に向かって歩いていた。

「お初にお目にかかる。タイラスと申すものだ。姫、あ、言葉通じるのか?」

青ざめた顔で、でもにっこりときれいに真は笑う。

「はじめまして。私はアヅマの一の姫、真にございます。」

タイラスはほぅ、と感嘆の息を漏らした。

まるで、花のような人だ。

「すみません、時間がないんです。日が高いうちに森を抜けたかったんだが・・・」

真は困ったようにうつむく。

「大丈夫。俺がおぶっていきます。」



真は最初は遠慮したものの、迷惑になりますよとばぁやに逆に言われてしまい

タイラスに甘えることにした。


トウヤは前を歩き、タイラスたちは後ろを歩いた。

「すみません。籠を用意したかったのですが目立つので。」

目立つと何か悪いのかしら?

頭の片隅で真はつぶやく。

数人で森を抜け、都から少しの場所にある伽奈都という場所に付いた。


「いや、助かりました。もし、侍女とかうじゃっと来たらどうしようかと。」

「タイラス」

なにか、をしゃべりかけたタイラスをトウヤが制止する。

たしかに、真姫の連れはばぁやだけだった。

真姫は聞こうか、まよって聞くことにした。

「なにかわけがあるのですね?」

気まずそうにするタイラスをにらみつけてトウヤがこういった。

「反王政派がいるのです。」






トウヤは間が抜けたような顔をした。

肩透かしを食らった気分だ。

か弱い姫の反応として、震えるとか困るとかするだろうとおもっていたのだ。

しかし、真はまっすぐトウヤを見つめ「そうなのですか。」といったきりその話は終わりになったのだ。

肝が据わった姫なのだろうか?

そういえば、ここに来る時も叔父王にすぐに、といわれても動揺もしなかった。

むしろ、にっこり笑って喜んでいるようでさえもあった。


その夜、宿が静まり返った時間。

トウヤは人の話し声で目が覚める。

廊下から話し声が聞こえるのだが、どうやら真姫のようだ。

そっとドアを開けると、そこには信じがたい光景が。


姫が白い虎と、何か話をしているのだ。

冷や汗をかきながら、必死に話を聞こうとする。


「白夜、お願い。ね?」

白夜と呼ばれたその虎はうなるように首を振る。

「そういったってな、姫さん。」

ふと、その白夜がこちらを向く。

トウヤが冷や汗をかいたかかかないか、のうちに白夜はトウヤの首根っこをくわえて主――真姫に差し出した。

「食いたい」

真は焦った風に「だ、だめよ!」と白夜からトウヤを引き離した。

「ご、ごめんなさい。あ、あの・・・」

どう説明したらいいのだろう?

そんな風に真姫が言葉を選んでいる。

「こ・・・これは一体?」



次の朝、トウヤはいやに早く目が覚めた。

まだ興奮しているのだ。

彼女、真姫の説明ではこうだ。

彼、白夜は白虎とよばれる虎ではない神に近い存在で、普段は真姫の中にいること。

そして、彼女に従い、共に生きるものだということ。

彼女が死ねばまた白夜も生きてはいない。

彼は彼女のためにならなんでもしてしまう、ということだ。

そう、その命さえも…


すごいものを見てしまった。


羽の生えた、白い虎。

物語にでも出てきそうな。


彼女は「私もののけじゃありませんから!」と泣いてしまうし。


「トウヤさん、おはようございます。あ、あの・・・」

食堂でご飯を食べていると、真姫が申し訳なさそうに食堂の厨房を指さす。

「白夜…が…すみません!!」

深々と頭を下げられ、口からだあ、と汁がこぼれる。

まさか、厨房の人間・・・を食った!?

あわててのぞくと、そこには泡を吹いた蛮族らしき者どものが縛り上げられている。

トウヤはあっけにとられてしまったのだった。




それからというのはすんなりと、城に着いた。

トウヤはなんとなくそわそわしつつ、門をくぐった。

門には取り巻きがたくさんいたが、さすがに王直々に出した籠にのるものがいるのにきゃあきゃあともいえず、ただひれ伏していた。


あれがうわさの王妃・・・・


顔は見えないが、なんとなくまとっている雰囲気が神秘的だったと、みな噂した。




王の間につづく階段を、アヅマの正装をした真姫は一段ずつのぼる。

たどり着いた時には少し日が傾き始めていた。

「ようこそ、わが紅国へ。アヅマの姫、よく参られた。」

貫録のある声で声をかけたのはこの国の一の大臣で、ジン王の母方の叔父、ラムル大臣だ。

「王はいま、席を外されている。じきにいらっしゃるということなのだが。」

ラムルは大きな金色の扉を見やる。

すると、すぐに扉がふわりと開く。

「遅れてしまってすみません。」

真姫は失礼にあたらないよう、振り向かずにひれ伏す。

すると、足音が足早に近づいてくる。

「シンヒメだったか。はじめまして。ジンといいます。」

ふと、目線を上げるとすぐそばには顔があった。

「!」

(このひと、王なのに私なんかにひざを折っていらっしゃるわ・・・)

びっくりして、なお深々と頭を下げる真に王はあわてた。

「あ、気にしないで。僕が勝手にしてることだから。ラムル、侍女を。今日は疲れたろうから明日ゆっくり話そう。」


目と目が合う。

「うん、よかった。」

何かを確認するようにジンは真に笑いかけた。

優しそうな人。

ふわりとした、茶色い髪の毛に翡翠の瞳。

目はくりっとしていて、鼻もかわいい。

犬のような人ね。

心で失礼なひとりごとをいい、王の間を後にする。


それから、もう大忙しだった。

衣装合わせなどの準備準備で、話などしている暇もなかった。

みな、真姫にとても優しかった。

中でもリンというおさげの侍女と、ブロンドの美しいエリザはすぐに仲良くなった。

そしてもう一人。

「姉さま!きれい!!」

この衣装すべてを担当している省庁の長であり、王妹のカリンである。

カリンとは真っ先に仲良くなった。もう何年来の親友かのように。

「ありがとう、カリン。」

そういって、でもうつむいてしまった真姫。

「真姫?どうかしたの?」

はっと顔を上げた真姫。

「ううん。ちょっと、思い出しただけ。」

カリンはそう、とだけいって深く問うのはやめる事にした。



その夜、ようやく時間のあいたジン王は1ヶ月ぶりに真姫にあいにきた。

大勢の侍女を下がらせ、二人で話をしよう、とジンはにっこり笑って真姫に近づく。

すると、なにか霧のようなものから白い虎が暴れるように出てきた。

「白夜、大丈夫。この人は私の夫になる人よ」

その大きな羽のある虎の鼻先を丁寧に撫でる真姫。

「夫・・・?なんだほんとに結婚するのか」

人の言葉をしゃべる虎。

またしてもぽかーんとするジン。

だがすぐに真姫に向き直る。

「私の守り神なのです。白夜といいます。あの・・・」

ジンは一瞬大きく驚いたように目を見開き、そしてゆっくり笑って「よろしく白夜」と

王らしからぬ様子で深々と礼をしたのであった。



読んでくださり、ありがとうございました!!

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