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傾国記  作者: Izumi
1/4

ー東の宝玉編ー

軽いR15程度の性描写があります。ご注意ください。

その国ははるか南にあった。

森や海に囲まれたその国は、灼熱の国、紅国。


そこにははるか昔から「傾国記」という書物が存在する。


いまから少しばかり時をさかのぼるのだが、その傾国記がまだ身近だったころの話をしようか。


王は神、神王と呼ばれる男がいた。

ごく一般的な見かけの、普通の男だが、まぎれもなくこの国の王である。

「トウヤ、お前また女の子泣かせたって?」

にっこり笑った王の笑顔にはどこかとげがある。

紅国の庭園のど真ん中で、トウヤと呼ばれた男はぎくっ!と体を震わせた。

「遊びはたいがいにしなよ。痛い目見るよ?」

ぐぅ、とうなるその銀髪の男は女と見間違うほど美しい風貌だった。

はぁ、と王はため息をつく。

「どうかなさいましたか?」

否、と王は首を振った。

「別に大したことじゃないんだけど。今度妃をめとることになったんだ。」

ぶっ!とトウヤは吹き出す。

たいしたことじゃないって、おい。

「なにがおかしいんだよ!ったく。」

ぶつくさ言う王に、トウヤは肩をポンとたたいた。

「で、占いで決まるんでしたっけ?どこのだれなんです?」

王はことさら深く沈んだ顔でこう告げた。


「はるか東、戦国の国アヅマの大国の姫・・・だそうだ。」




アヅマはここからはるかかなた東にある。

商業船は一応年に数度はくるが、それ以上の国交はなかったし

本当にあるのか?というくらいに遠く離れた国であった。


言葉は一応なんとか通じる、という程度で全く違うわけではないが

大変であろう。


それより王の心配は、こんな離れた国に大切な姫をわたすか、である。

だが、この国の言い伝えをまとめた本「傾国記」には

簡単に言うと「占いをないがしろにすると大変なことが起こる」、と書かれてある。


まずは、勅使を送ることにした。



アヅマは意外にも勅使を歓迎した。

勅使は王の名代である、トウヤだった。


ぱたぱたぱた、と足音が近づいてくる。

真姫は入り口を振り返った。

「ねえさま!聞いてっ!」

飛び込むように部屋に入ってきたのは真姫の義妹、千世姫。

いつもなら、静かになさいとおこるところなのだが今日は様子が違ってタイミングを逃す。

「きれいな異人さんが来ているのよ。叔父上のところに!」

「異人さん?」


手を引かれるがままに、真は千世とこっそり叔父であるアヅマの王の客間をのぞいた。


「・・・きれい」

日に透ける銀の髪に美しい顔立ち。

異国の人は何度か見かけたことがあるが、これほど美しい青年は初めてだった。



「ひ、ひめさまっ!!」

怒りで真っ赤になった侍女長がドアをぐあっっとあけてしまう。

「し、真姫様まで!」

あたたーといいながら、額に手を当てる侍女長。

恥ずかしさに真っ赤になる真と、もうすでに挨拶をしている千世は対照的である。

二人は月と太陽。

明るい千世と、おとなしい真。


「真姫、千世姫、こちらに来なさい。」

父の弟である、現王の叔父が隣を指さす。

真と千世はゆっくりと隣に座ると客のほうを向く。


(へぇ・・・)

トウヤは二人を見比べる。

姉妹でもこんなにも、かんじがちがうものなのだろうか?

その答えはアヅマの王がくれた。

「この二人は母が違うのですよ。真・・・姉のほうはトゥルス王国の姫が。妹はアヅマの生まれの妃が生みました。」


(姫、ねぇ・・・)

言い方になんとなく引っかかるところがあるのだが。

トウヤは言葉を飲み込んだ。


「妹のほうは今年、結婚が決まっていましてな。」


にこにこ、と顔色を崩さず話す王に違和感を覚える。

(姉より先に?それとも、姉がかわいいから残しているのか…)


「姉のほうは、どこか異国にとおもっているのです 。」

(違うな…)


トウヤは真姫を見る。


真姫は泣くでもなく、あきらめるでも、笑うでもなく

ただ、真摯に前を見つめていた。


よし。

トウヤは腹に力を込めた。


「アヅマの王、折り入って話があるのですが。」







本当を言うと、紅国国王、ジンはこの話が決裂すればいいとまで思っていた。

異国の姫だなんて、扱いづらいだろうし、いきなり会ってハイ!結婚っていうのも

なんだか腑に落ちない。

それに、化け物のような類だったら・・・愛せるのだろうか?

異国、それもみたことのない。

目が四つとか、7つとかだったら愛せるのか?自信がない。

むぅ。

うなりながら執務室を行ったり来たり。

(なんだかこれでは私がマリッジブルーみたいではないか?)

そんな自問自答に打ちのめされていたところに、妹のカリンがやってきた。

「なにやってんの?兄様。」

「い、いや・・・」

びくびくする兄を横目に、ふぅんと興味なさそうにつぶやく妹。

「まあいいけど、兄様?決まったみたいよ?」

さすがのジンも何を?と聞くほど馬鹿ではない。

妹の次の言葉を待つ。

「アヅマの一の姫、シンヒメ・・・だったかな?この国に向かっているわ。」





それからというのはもう嵐のようだった。

目の回るような忙しさ。婚礼の用意が始まったのだ。

(まさか、返事とともに姫を連れてくることになるとは)

先に早馬を出したトウヤ。

それでも国にいる王や仲間たちの忙しさが想像できる。

(しかし・・・)

ふと、看板でくつろぐ真を見る。

(泣かないんだな…)

故郷を離れ、二度と帰ってこられないかもしれないというのに

あっさりとしたものだった。

見かけによらず胆の据わった姫なのかもしれない。

肌は透けるように白く、髪は黒く、見目麗しくか弱き姫なのに。

ふと、視線をあげた真とトウヤの目が合う。

「トウヤさん、お話しませんか?」

そういうと彼女は、花がほころぶようににっこり笑った。




「ねぇ、兄様。トウヤっていう人選はどうなのよ。」

「はぁ?」

気の抜けた返事をする兄王に、妹姫カリンはより一層いらだつ。

「花嫁さん、トウヤに惚れちゃったらどうするのよ?」

ぼとん。

大切な書類が散乱する。

そばにいた秘書官たちがあわあわとそれを集める。

「馬鹿兄。考えてなかったの?」

ははは、と乾いた笑いを残すだけのジンだった。


泣いても笑ってもあと1か月。

二か月かかる船旅。


まぁ、正直それでトウヤとどうかなって、トウヤが落ち着いてくれればいいけど。

そんな王の胸の内をみなはしらない。



それからすぐにトウヤと真姫は仲良くなった。

顔を合わせれば話すし、気が合う仲間のようなそんな空気が流れていた。

だが、お互いにそれ以上の感情はなかった。

言葉も大分、覚えてきたし意思も通じるようになってきた。

あっという間に時は過ぎ、明日はもう紅国領である。


「姫様?眠れないのですか?」

真姫が生まれた時からの乳母であり侍女であるばぁやが姫が外を眺めているところに打掛を持ってきてくれた。

「ありがとう。ねぇ、ばあや?紅国の王様ってどんな方かしら?」

ばぁやは不思議そうに「トウヤ様にお聞きになればいいのでは?」と首をかしげた。

真はふふっと笑うと、また月を眺める。

そう、あの方は何も教えてくれない。

あって、知りなさい。話をしなさい。余計な先入観は抜きに。

そういうように王の話はしてくれない。

窓によしかかって、ふと顔を上げる。

ばぁやが姫が月につれていかれるのでは?と思うくらいに美しい横顔だった。

「紅国では、妃は一人だけだそうよ。子ができなかったらまた別の話だけど。」

ばぁやは姫の肩をそっとなでる。

その手を姫は白く細い手できゅっと握る。

「子がいなくても、妃でいられる国もあるのね」

アヅマの国ではたとえ身分が高くても、子供がいなくては夫婦とはみなされなかった。

「私の知らないことがたくさん、この世にはあるのね。」

消え入りそうな姫の横顔をみて、せめてこの世につなぎとめたいという気持ちでばぁやは彼女の幸せを月に願った。






ファンタジー初挑戦で、至らない点もあるかと思いますが

温かく見守ってください。

コメント等、いただけると喜びます!!!


※文章、同じものを二度のせていましたのを訂正いたします。

2014年3月12日

※勅使の名前、トウヤに統一しました。


申し訳ありませんでした。

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