それは、突然に。
高校に入学して、もうすぐ夏休みだというある日、仕事の都合で両親がしばらく海外へ転勤することになった。
両親は当然娘二人も連れて行く気だったみたいだけど、私は語学力も土地勘もおぼつかない知らない土地に行くのは怖かった。
入学したばかりだし、もう高校生だし、と妹ともども説得した。最初は駄目だと言っていたが、最後には折れたのかしぶしぶながらも承諾してくれ、私たちは日本に残ることになった。
私、日向蛍には葵という一卵性の双子の妹がいる。
夏休み中に誕生日が来るからもう直ぐ16歳になる。けれどいくら夏生まれだからといっても、子供の名前を夏の風物詩にするなんてわが親ながら--苗字が日向だから葵と。昼と夜で対になるように蛍と名付けたんだって--安直だなぁと思う。
同じ顔で同じ身長なはずなのに、人懐こくて、可愛くて、しっかり者の妹とは対照的に、引っ込み思案で、妹の影についつい隠れてしまいがちの地味な私。
葵は県内トップクラスの進学率を誇る公立高校に通ってるけど、私は私立の女子高で。
腰まである髪の長さは同じなのに、サラサラのストレートロングに、くりくりした瞳の葵と、
一度癖が付いたらなかなか直らない猫毛で仕方なしにおさげにしている、眼鏡の私は全然似ていない。
中学の時、口が悪い男子からは「全然似てないけど本当に双子?」とか「地味メガネ」とか散々言われてて、自分でもそうかもとは思うけれどすごく悲しかった。
だから私は今でも男の子が苦手。
葵は「大人し過ぎるとは思うけど蛍のほうが女の子らしいし。絶対名前は蛍の方が良いよ」と言ってくれるけれど、葵を見てると、私もこんな風になれてたらなぁと思う。
私のほうがお姉ちゃんのはずなのに威厳なんてものは無いんだ…。
もちろん葵のことは嫌いじゃないし、姉妹仲だって良好だよ。
空港で両親を見送った帰途で、食材を買って帰ろうと、スーパーに寄る。
何にする?手軽にカレー?といった取り留めの無い会話をしながら次々と買い物カゴに品物を入れていく。会計を済ませ、仲良く荷物も半分づつ持ち合うようにして店から出る。
ちなみに食事当番は私。料理をするのは結構好きだったりするので自分から立候補した。
まあ、それはともかく。
そう、店から出ただけのハズだったのに。
「…それで? どちらが私の花嫁だというのだ?」
「…俺の花嫁はどっちなのかな?」
スーパーから出たハズなのになぜだか室内に居て、
目の前にそんな意味不明の言葉を放つ二人の美形さんたちから覗き込まれている私達。
16年間生きてきて、今日ほど運命を呪った事は無い。
ここは異世界で、彼らの伴侶となる女性を召還する儀式をした。
その結果、召還された花嫁が私たちだと言うのだから。
王道ネタですみません。