何股もかけられるぐらいなら、婚約破棄でけっこうです
「え~? わたし、よくわかりません。コンスタンス様、教えてくださいよ」
「そうか。マドロンは本当に物変わりが悪いな。しょうがない。あちらのベンチで教えてあげるよ」
「ありがとうございます、コンスタンス様! バカなわたしに親身になって教えてくれて本当にうれしいです!」
「まあ、たしかにマドロンのバカは治りそうにないしな」
「あっ、ひど~い!」
校門へと至るゆるやかな下り坂をいちゃついた声が降りてくる。
この私フルールはちょうど生徒会の仕事のために、坂の上のほうにある校舎に戻るところだったのでそれをはっきり目撃することになった。
ピンクに近い髪の色の女子はマドロン嬢。王都の有名な商会の娘だ。
礼儀作法をろくに習わずに育ったせいで、貴族の家系の人間が大半を占めるこの学園では危なっかしいが、かえってその点が貴族の男子生徒にウケている。
それに、さすがに男子生徒は女子の前では口にしないが、マドロン嬢は出るところが出る体つきをしている。お近づきになりたい男子生徒はさぞ多いだろう。
これは絶対的な事実だ。
なにせ、今、鼻の下を伸ばしているのは私の婚約者のコンスタンス様なのだから。
伯爵家出身の彼からすれば、身分など気にせず自分から近づいてきてくれるゆるい雰囲気の女子はうれしいのだろう。
「マドロン、この問題はな、まず先に――」
「あらぁ? 二人とも楽しそうに話してらっしゃるじゃない」
いちゃついてる二人の横に、濡れるような漆黒の髪の女子生徒が割り込んできた。
いかにも男子生徒が好みそうな艶めかしい切れ長の目をしている。少し濃い化粧も意図的なものだろう。
「あっ、ディアーヌか。今、マドロンにわからない問題を聞かれていてな」
「そう? コンスタンス、わたくしを仲間外れにするだなんてひどいんじゃない?」
「ディアーヌを仲間外れになんかするわけないだろう。大切な友達じゃないか?」
「あらぁ? 友達としか思ってないわけぇ?」
また、私の婚約者の鼻の下が伸びた。
呼び捨てにされて怒る様子もない。むしろ距離が近くてうれしいのだろう。
漆黒の髪の女子生徒はディアーヌ男爵令嬢。
彼女は野心家で、あわよくばすでに婚約者がいるコンスタンスを奪おうと画策している。
理由は明白で今、コンスタンスの実家の伯爵家は海外貿易などで大きな富を得ているからだ。港に所領を得ていたおかげだ。
もし国家に多額の献金をすれば、伯爵家から侯爵家に列することもありうるかもしれないという噂だった。
「ディアーヌさん、この問題、わかりますか? わたし、ちっとも解けなくって~」
「そしたら、どこかで一緒にお勉強会をいたしましょう。わたくしもコンスタンスのそばにいたいし」
「そ、そうだな、じゃあ三人でマドロンの解けないという問題についてじっくり話し合おうか」
本当にデレデレしている。
まさに私の婚約者は両手に花の状態だった。
しかも一人はほわほわした雰囲気で男に無自覚に近づいてくる女子、もう一人は自分の美しさをはっきりわかっていたうえでそれを見せつけるように迫ってくる女子。はっきり違うタイプの女子だ。
もしかすると、コンスタンスにとって人生で今以上に楽しい時はないかもしれない。
そして、コンスタンスの婚約者である私、フルールにとってはこの世の冬だ。
ディアーヌがさっと私に厳しい視線を向けた。
それから勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
婚約者という地位ぐらい簡単に奪ってやるわ――そう顔に書いてあった。
あなたも子爵令嬢の身分でしょう、伯爵家の家格ほどじゃないのはあなたも同じよ。
そう、彼女は目だけで語る。
「コンスタンス様、ごきげんよう」
近づいた私にあいさつをされて、その時ようやくコンスタンスは私がそばまで来ていたことに気づいたらしい。
前から来る生徒など眼中になかったようだ。
「あっ……ああ、フルールか。君は生徒会の仕事なんだな。まあ、我々学園のために頑張ってくれたまえ。僕も学園の本分を守ってこれから勉強会をするよ」
コンスタンスは皮肉げに言った。
3年前、14歳の時に彼の婚約者に選ばれてから、あまりいい思い出はない。
コンスタンスが友好的……いや、なれなれしかったのは最初の頃だけだ。
婚約者とはいえやけに距離が近いのを私が嫌がっていたのもあるが、ある時を境に、彼のほうから急に冷めた態度をとるようになった。
きっかけは明らかだ。
この学園に入学するようになって、自分が女性にちやほやされる立場だと気づいたからだ。
今、彼の伯爵家は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
ディアーヌのように彼をあわよくば落としてやろうと思う女性は無数にいたのだ。
美貌の女性たちのほうから近づいてくれるのだから、コンスタンスにとったら、私のような典型的な貴族の娘といった女性などどうでもよくなったのだ。髪の色も目新しくない茶色だし。
「あっ! フルールさんじゃないですか。生徒会のお仕事たいへんですね~! また、みんなで勉強会やりましょうね!」
「え、ええ。そうですね、マドロンさん。また機会があれば」
その前にコンスタンスと腕がぶつかりそうなほど密着して歩くのをやめてほしいと思ったが、礼儀作法の価値観が私たちとは違うのでしょうがない。それに、コンスタンスが注意もしないのだから、それでいいと思い込むだろう。
むしろ、貴族の礼儀作法を知っているはずなのに、わざとコンスタンスに接触しそうなほど近づいているディアーヌのほうが悪質だ。
「婚約って大変ね。浮気だってできないでしょうし。わたくしが男だったら堅苦しいから婚約なんて先延ばしにすると思うわ」
当てつけのようにディアーヌは言う。
「わたくしだったら、少しの浮気ぐらいなら許してあげるけれど。まあ、わたくしのほうがおかしいんでしょうね」
「え~? 浮気はいけませんよ、ディアーヌさん!」
「そうね、マドロンさん、でも、友達同士でお茶をしたり食事をしたり遊んだりするのはどう?」
「友達同士ならもちろん遊びますよ」
「ふふふっ。世の中にはそれを浮気だと言う人もたくさんいるのよ」
ちらっとディアーヌが私を見て、嘲笑を浮かべた。
たしかに私はこのままでは近いうちに婚約破棄を突きつけられるだろう。
コンスタンスの実家の伯爵家からすれば、私の実家の子爵家などたいした脅威にはならない。
そして、コンスタンスはおっとりした天然なところのあるマドロンか、自分の美貌を確信して男に近づくディアーヌか、おそらくどちらかと婚約するのだ。
私は深いため息を吐いて、生徒会室の入っている校舎へと向かった。
◇
「もう、フルールさんの婚約はもちませんよ。断言します」
生徒会室で居残って雑用をしていたら、同じく居残り組のレオンス副会長に言われた。
同じテーブルの向かい側で、副会長はセットされた金色の髪をかきながら書類にミスがないか確認するという地味な作業を続けていた。
部屋には私たち二人しかいないが、生徒会活動は治外法権なのか、このような男女の居残りでも本当にとがめられたことがない。
誰も生徒会の仕事を華やかなものと思ってないことが大きいのだろう。
レオンス副会長は侯爵家の傍流で、家柄だけで見れば子爵家の私とは比べ物にならない。
ただ、副会長はあまり前に出るタイプではないので、学園でもそんなに目立った存在ではなかった。
というより、いちゃつきながら下校するコンスタンスたちのほうが異常なのだが。
私も作業の手を止めた。
副会長にはっきり忠告されるほど、私と婚約者との関係はひどいということだ。
「今日もコンスタンス君は女子をはべらせていたでしょう。ほぼ毎日、投書の形で生徒会に苦情が来てるぐらいです。少なくとも彼にフルールさんと結婚する気があるようには思えませんね」
「ですよね。ですが、私の立場ではどうしようも……。婚約破棄を待つ以外の選択はとれません」
「いっそ、フルールさんのほうから婚約破棄をなさってはどうでしょう? コンスタンス君がほかの女子生徒と度を過ぎて親しくしているのは周知の事実ですし、筋は通ります」
書類を確認する手を止めて、レオンス副会長は言った。
「そして、堂々と新しい人生を生きるんです。婚約者がいるせいで、フルールさんがいろいろと制約を受けていたのは知っていますよ」
たしかに、形式だけの婚約者がいるのでは、次のお相手を探すこともできない。私にとって婚約破棄は早いほうがいい。
「ですが……私から婚約破棄しようものならコンスタンス様の実家の伯爵家から目の敵にされます。そしたら、私の子爵家などやっていけません。まして私と婚約したい殿方も出てきませんよ」
結局は貴族の力関係なのだ。
あの伯爵家を怒らせることなどできない。
「では、僕が約束をしましょう」
レオンス副会長は椅子から立ち上がった。
そして、部屋にほかに生徒会役員が残ってないことを確認するように周囲を見やった。
「フルールさん、もし婚約破棄をなさったのなら、僕が責任を持ってあなたと婚約することを誓います。これでいかがでしょう?」
こ、これってほぼプロポーズみたいなものじゃないか……。
私は手に握っていたペンを床に落とした。
「からかわないでください、私なんかのどこがいいんですか? 家柄だってたいしたことないですし、魅力的な女性ならもっとたくさんいます」
ペンを拾っている場合ではなかった。私はそう返答した。
私ごときが侯爵家のレオンス副会長と婚約できるわけがない。
「自分を傷つけるような言葉はやめにしましょう。断言しますがフルールさんは魅力的ですよ。コンスタンス君だって最初の頃はフルールさんに過剰に近づこうとしていたという話ですよ」
「ああ、そんな時期もありましたね。婚約者でも節度は守ってほしいと言ったら、今度はあの人は嫌悪するぐらい避けるようになりましたけど」
「それはあなたが魅力的だった証拠です。ただ、彼は自分では支配できないとわかったから、自分に寄ってくる女性に狙いを替えたんです」
私は思わず、うなずいてしまった。
自分が美しいとは信じられないが、レオンス副会長の言葉は論理的で説得力があった。
「それと、もしフルールさんに魅力がないと僕が思っているなら、こんな抜け駆けじみたことは言いません。婚約破棄が成立してから、婚約を申し込みますよ。でも、それだとライバルがたくさん現れる。だから抜け駆けをするしかなかったんです」
すぐには言葉が出なかった。
自分の顔は赤くなっているだろう。突然の幸せで頭が上手く回らない。
「その……副会長はもっと家格の高い方との縁談がいくつもあるんじゃないでしょうか」
「幸い、僕の家は侯爵の家格ですが傍流ですから。本家のほうで婚約がまだ決まってないのもあって、先延ばしにできていたんです。ですが、それもそろそろ限界なようで、焦ってこんなことを言ってしまいました」
もし自分がはしたなくなれるなら、この椅子からすぐ立ち上がって、レオンス副会長に抱き着きたいぐらいだった。それぐらい私はうれしかった。
でも、そんなことはできない。
誰にも見られてないとはいえ、それはダメだ。
「お気持ちは、本当にうれしいです。もし、私の婚約が解除されたらその時はよろしくお願いいたします」
ようやくそれだけを私は口にした。
「ですが……やはり伯爵家の報復が怖いです」
「わかりました。そのために一計を案じましょう。策を用意するのはどうかと思うのですが、コンスタンス君がちょっとでも誠実な男なら、ひっかかりようもない方法ですから別にいいでしょう」
レオンス副会長は覚悟を決めたようにうなずいた。
「何をなさるんですか?」
「フルールさんが婚約破棄をするのも当然という状況を作ります」
◇
数日後の放課後。
学園のベンチでコンスタンスとマドロン、ディアーヌがくつろいでいた。
そのベンチの周辺にはほかにもコンスタンスの悪友やほかの女性まで集まっていた。
あわよくば、コンスタンスの婚約者になったり、その権力のおこぼれにあずかろうという連中だろう。
離れたところではその様子を見る野次馬が集まっている。
「うらやましいな」とか「風紀を乱しすぎです」といった声が飛ぶ。私もそんな野次馬の一人として状況を見守っていた。
と、野次馬とベンチの集まりの間を突っ切るように、制服姿の女子が通っていく。
それだけでざわついていた声がぴたりと止まった。
それほどまでに美しい人だった。銀糸がきらめくような長い髪、色素が薄いのか、顔も透き通りそうなほど白い。神が天使を作って、学園に連れてきたみたいだった。
コンスタンスをたぶらかすことなら誰にも負けないディアーヌも、あぜんとした顔になっていた。
彼女の気持ちはわかる。まったく格が違う相手だと思っただろう。
あの人より美しいと思い上がることなんて誰もできない。
思わずコンスタンスが立ち上がって、その女子のほうへと向かっていった。
「なあ、君、どこの家の娘だ? 僕とこれから遊びに行かないか? 君のほしいものなら何だって買ってあげると約束しよう」
「いえ、いきなりそのようなことを言われても……」
その女子が困った顔で一歩下がる。
いきなり声をかけられたのだ。貴族の娘でなくたってそういう態度になるだろう。
コンスタンスのやり方はあまりに強引だ。
「今すぐお茶会の用意をするから、来てくれないか? 決してつまらない思いはさせない。なあ、頼むよ」
コンスタンスが彼女の手を取った。
「無礼ですわっ!」
すぐにその女性はコンスタンスの手をはじいた。
それ自体は何もおかしくない。コンスタンスがやりすぎだ。
これまでもコンスタンスは似たことを女子生徒にしたこともある。伯爵家の勢威が怖くて、誰も強く反抗しなかった。
「なっ……。ずいぶんな態度だな」
「それはあなたのほうですわ。いきなり異性の手をつかむだなんて」
「悪いけど、僕に逆らわないほうがいいぞ。僕の家名を聞けば君も震え上がるだろう」
傲慢にコンスタンスが声を荒げる。手をはじかれたプライドを癒すことに必死らしい。
「公爵家の娘の私にこれだけの無礼が働ける家? いったい誰のご子息でしょうか?」
「こ、公爵家……?」
コンスタンスの顔が青くなった。
この国で公爵家は数えるほどしかない。
ほぼすべてが王族が王位継承権の放棄と同時に公爵家を別家として立てたケースだ。とくに国王の弟君を初代とする家は王家とも密接なつながりがあり、ないがしろにできない権威を持っていた。
少なくとも、伯爵家のコンスタンスが脅せる相手ではない。
「それで、あなたはどこの家の方ですか? 国王陛下に確認をとっていただくことにします」
取り巻きやディアーヌの顔も青くなっている。
マドロンだけが本当に何もわからないという顔でまだぽかんとしていた。
平伏するように、いつもの高飛車な雰囲気などどこにもない様子で、ディアーヌが尋ねる。
「あの……もしかして、レティシア公女でございますか……? 国王陛下からもたいそうかわいがられているという……。たしか高原で療養されていたはず……」
「ええ、だいぶ回復してきたので編入手続きに参ったのですわ。それで、そちらの殿方はどこの家の方か、誰か教えていただいてよろしいかしら?」
平民出身のマドロンが軽く手を挙げた。
「こちらは伯爵家のコンスタンス様ですよ~」
「ああ、貿易で成功している伯爵家かしら」
少し、レティシア公女は少し酷薄に笑った。
「少し騒がしくなってしまいましたわ。また出直すことにいたしましょう。この校舎への坂もいい運動になりますわね」
すたすたとレティシア公女はゆるやかな坂を引き返していく。
ほぼ同時に、ディアーヌや取り巻きたちは無意識のうちにコンスタンスから距離を空け始めていた。ひどい無礼者の仲間だと思われたくないからだ。
コンスタンスだけが、呆然とその場に柱にでもなったみたいに突っ立っていた。
もうすぐ「元」婚約者になるコンスタンスの哀れな姿を見るのも忍びない。私は野次馬から離れた。
◇
コンスタンスがレティシア公女に無礼な発言をしたことはすぐに噂になった。
なにせ、コンスタンスは派手な振る舞いで、いつも周囲に多数の証人を用意してしまっていたのだ。
彼は実家からも厳しく責められることになり、嫡男の地位も弟に譲り渡すことになった。
それと、私の実家のほうから、正式に婚約破棄の書類が伯爵家に届けられた。
理由はコンスタンスが公爵家を侮辱したという罪は重く、このまま婚約というわけにはいかないというもの。
普段からの素行についての問題が破棄の理由に書いてなかったのは、せめてもの温情だろうか。いや、公女への無礼だけで十分すぎる破棄の理由になるからか。
そして私は今日もレオンス副会長と居残りで生徒会の仕事をしている。
もっとも、生徒会という理由がなくても、もうすぐ堂々と二人でいられる立場になるのだけれど。副会長のご実家から私の家に婚約に関する内々の話が来ていた。
「それにしても、レティシア公女を利用するだなんて、副会長もずいぶん大それたことをなさいますね」
私たちは二人だけの生徒会室で書類の整理作業をしている。
楽しい仕事ではないが、二人でいられること自体が楽しいから何も問題ない。
「あの方は元々体が弱くて、この二年ほど、空気のいい高原で静養されていたんです。僕の家の別荘も同じ高原にあったから、休暇の時はよく話し相手をしていました。体調もよくなったし学園に編入する予定だというから、一芝居打ってもらったんです」
「公女を利用するだなんて。それ自体が無礼ですよ」
私なら危なっかしくて選べない手段だ。
「あれ、乗り気なのは公女のほうだったんですよ。体は動かすのは苦手だけど、性格だけなら意外とおてんばなんです。ちなみに断じて公女と僕は恋中ではないのであしからず。密偵を入れて探っていただいてもいいですよ。陛下に溺愛されている公女に恋するほど命知らずではありません」
「それで、公女は『策』に協力してくださったというわけですね」
「たんに、あの方にコンスタンス君のそばに通りかかってもらっただけですけどね。それだけで見境なく誘ったり、口説いたりしたならコンスタンス君の咎です」
そう、コンスタンスはあまりにも調子に乗りすぎて、大きな失点をしてしまったわけだ。
「コンスタンス君は、今、実家で謹慎中のようですね。むしろ、学園に来ない理由ができてほっとしてるかもしれません」
「そういえば、ディアーヌ男爵令嬢はコンスタンス様の弟にアプローチをかけて無視されているのを見ました。あそこまではっきりしていると、あれはあれでたくましいなと思います。これは皮肉じゃないですよ? あれも貴族の生き残り戦略とも言えますから」
「まあ、副会長としては場をわきまえてはほしいものですが、コンスタンス君の弟がすっかり骨抜きにされてしまうか、節度ある距離感でディアーヌさんを御すことができるか。ある意味、見物ですね」
コンスタンスの失脚の後に聞いた話だが、コンスタンスの実家も嫡男のいきすぎた態度を危険視していたらしい。あまりに大きな問題が見つかれば、弟を後継者にしようという考えに傾いていたという。
貴族が偉そうにしていられるのは、誇れるだけの伝統と誇りがあるからだ。
その家の品格を破壊する行為は、結局のところ自滅だ。
ディアーヌもどうにかコンスタンスの弟を落とそうとしているが、さすがに弟からは信用を得られていない。
コンスタンスを狙い撃ちした反動は大きい。まともな婚約の話も来ずに、今はとても焦っているらしい。
「それと、マドロン嬢のほうですが、ほかの男子生徒と仲良くやってるそうです。あの人ももう少し慎重に生きてほしいですが、きっと変わらないでしょう」
「それを魅力だと思う男子生徒もいるでしょうからね」
「魅力というか、一部の男子生徒からしたら都合がいいんですよ。今、仲良くしている男子生徒も婚約者はいたはずです」
まあ、彼女が不幸にならないことを祈ろう。これも皮肉ではない。
私もコンスタンスと婚約したことで不幸になりかけた立場なのだ。付き合う相手によって、幸せも不幸せも決まってしまうことはある。
ただ、自分で付き合う相手を選べる時に、不幸せになる相手を選んでしまえば自分の責任だ。
「副会長、こちらの整理は終わりました」
「ありがとうございます。本当にフルールさんは仕事が速い。素晴らしいです」
もうすぐ婚約者になる副会長は、正しく副会長の立場の受け答えをしてくれる。
「私は地味な女ですから。地味な仕事は得意なんです」
「今のは訂正してください。認められません」
少しこわばった調子で副会長は言った。
「えっ……?」
「フルールさんは地味なんかじゃありません。美しい人だ。自分に自信を持ってください。ご自身を卑下するのはフルールさんと婚約したいと伝えた僕への侮辱でもありますよ。僕は事務能力だけで女性を選ぶほど朴念仁ではありません」
「あっ……。ごめんなさい」
「まあ、表現を変えれば、僕も美しい相手と一緒になりたかっただけなので、皮をはいでみればコンスタンス君と近いのかもしれませんけどね」
「違います。そこは絶対に違います」
私は笑いながら言った。
「こんなに美しいと言ってくれるのは副会長……レオンス様だけですから」
「もっと何度でも言うつもりですから、覚悟しておいてくださいね」
次の婚約では私はきっと幸せになれると思う。
◆終わり◆




