婚約破棄された夜に王太子と一夜を共にしてしまい、逃げ続けたら捕まりました
「……ヤッてしまった……」
二日酔いで痛むこめかみを抑えながら、惜しげもなく鍛えられた肉体美を披露して、隣で安らかな表情を浮かべる美しいブロンドの男性を見つめる。
どう見てもこの国の王太子である、リチャードの姿が。
徐々に昨晩のことがクリアになる。
「僕は真実の愛を見つけたんだ!」
「私は真実の愛を見つけたんです!」
まさか、夜会でお互いの婚約者同士が浮気して、真実の愛を叫びながら走り去るなんて、誰が想像できるだろうか。
残された私たちを周りは遠巻きで憐れむだけ。
もう、こうなったらヤケ酒一択。
二人で泣き笑い、愚痴り合う。
周りも引くほどのお酒を、夜会が終わっても飲み明かした。
そんな彼との会話は、存外楽しくて意気投合して……
「婚約者が映えだの何だと言うから、全てに付き合っていたら、食べもせず代わりに食べ、2キロも体重が増えたと言うのに」
「ぷっ!ありがちですわね〜」
「ありがちなのか!?君もそんなものに付き合わせるのか!?」
「私?私は断然二郎派ですね!」
「それは……ぜひ付き合わせて欲しい……」
気がついたら、ベッドの中でも意気投合。ってやかましいわ。
「逃げなきゃ……!」
婚約破棄の噂はきっとすぐに出回る。
その翌日にこんなことになるなんて……
幸い、私は彼には一切名乗っていない。
このまま逃げ切れるはず。
そんな甘い考えを嘲笑うかのように、一週間後には目の前に王太子が。
「ローザ。なぜ逃げた?」
ちゃっかり名前までばれているし。
なぜも何も……私はただの男爵令嬢。
とてもじゃないけれど、王太子と釣り合うわけがない……!
「はぁ。また来る」
そう言い残して、彼は立ち去ったけど、この日を境に2日と開けずに会いに来る毎日。
軽くお茶をして、他愛もない会話をするだけ。
けれど、そんな関係にも三ヶ月が過ぎる頃、私の身体に異変が起きる。
「げぇぇぇぇ!」
まさかの妊娠……相手は一人しかありえない。
ダメだダメだ……これは本格的に逃げなければ……!!
その夜、ありったけの宝石を鞄に詰め込み、逃げるように王都から走り去る。
しかし、大きな街に逃げても、遠くの小さな村に逃げても、早ければ一週間。
遅くても三ヶ月で王太子は追ってくる。
姿を見かけるたびに逃げ回る日々を過ごしていると、遂に臨月を迎えてしまう。
日付を跨ぐほどの陣痛の末、やっと出会えた我が子。
私の赤毛とは似ても似つかないブロンドの髪の毛。
「リチャードそっくり……」
本当は気がついていた。
初めてお酒を交わした時。
酔うほどに饒舌になり、解ける表情。
年齢よりも幼く見えた笑顔。
事故のように触れた指の温度。
抱きしめる腕の強さに、耳元で囁く声の甘さ。
私はたった一夜で彼に恋をしていたのだ。
けれど、婚約破棄された直後、どうやって信じることができるというのだろう。
彼は何度も私の元に足を運んできてくれた。
彼は私を捨てた元婚約者とは違うこと。そんなのはわかっていたのに。
また裏切られるのが怖かったのだ。
この二ヶ月、彼の姿を見ていない。
——いや、正確には『見えていた』のかもしれない。
王太子らしき気配を感じた瞬間、身体が勝手に逃げる指令を出す。
けれど臨月の身体は、その命令に従えない。
見つけたら終わる。だから、見つけないふりをした。
きっと彼は、私を探すことを諦めたのだろう。そう思い込もうとした。
愛する人にそっくりな、可愛い我が子を抱きながら、涙が溢れてくる。
大丈夫。この子がいたら。
あの最後の温もりを胸に、生きていける。
そう胸に刻みつけた瞬間、その懐かしい温もりに包まれる。
——逃げろ、と命じた身体が、今度は動かなかった。
「やっと捕まえた」
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