ぽつぽつみかん
また私の席に座ってる。
「座んないでってば」
思ったより不機嫌そうな声になってしまったかもしれない。
でも、ヤマトは気にせず、「ごめち〜」とだけ言って、そのまま桜井と話し続ける。
だから、私はみかんを投げた。
ぽつん、と机に転がったそれを見て、ヤマトは「それ、俺にくれるの?」と笑った。
桜井は静かに笑いをこらえている。
違うよ、と言いたいのに、声が出ない。
どうして私はこうなんだろう。
適当に答えてしまえばいいのに、なぜかムキになって、マジで考えて、言葉に詰まる。
しばらくヤマトはニコニコ待っていたが、「ごめんごめん、どくって」と折れて、みかんを拾って私の手に握らせた。
ヤマトの手は思ったより大きくて、温かかった。
みかん越しに触れたその一瞬が、変に長く感じる。
彼はそのまま立ち上がり、「また来るね」と桜井に言った。
私じゃない。
けどなぜか、鼓動がうるさい。
にらむように、ヤマトが席に戻るのを目で追う。
はあ、と自分でもよくわからないため息が出た。
椅子に座ると、まだ人肌のあたたかさがある。
手のなかに、みかんのへたのぽつぽつとした感触。
私はみかんをむく。
香りがふわっと広がる。
指先に少し酸っぱさが残る。
むいた皮を机の端にそっと置いて、一房ちぎる。
口に入れる前に、ちらっとヤマトを見ると、こっちを見ていた。
ばちっと目が合って、私はみかんを落とした。
寝そべるみかんは半月のよう。
白い皮と筋が果実の色を覆って、隠して、ぼかしているみたい。
食べると皮は厚く、でも果肉は酸っぱくて甘かった。
顔を上げると、ヤマトはもうこちらを見てはいなかった。
なんなの。
チャイムが鳴る。
みかんの皮を包むように掌で隠して、私は席を立った。
なんでもない顔で。
けれどその味はまだ舌の奥に残っている。
ヤマトの背中も、なんでもないふうをしていた。
ぽつぽつ、だけど、わかってるよ。




