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掌編集

ぽつぽつみかん

作者: もっぷす
掲載日:2025/10/18

 また私の席に座ってる。


「座んないでってば」


 思ったより不機嫌そうな声になってしまったかもしれない。

 でも、ヤマトは気にせず、「ごめち〜」とだけ言って、そのまま桜井と話し続ける。


 だから、私はみかんを投げた。

 ぽつん、と机に転がったそれを見て、ヤマトは「それ、俺にくれるの?」と笑った。

 

 桜井は静かに笑いをこらえている。

 違うよ、と言いたいのに、声が出ない。


 どうして私はこうなんだろう。

 適当に答えてしまえばいいのに、なぜかムキになって、マジで考えて、言葉に詰まる。


 しばらくヤマトはニコニコ待っていたが、「ごめんごめん、どくって」と折れて、みかんを拾って私の手に握らせた。

 ヤマトの手は思ったより大きくて、温かかった。

 みかん越しに触れたその一瞬が、変に長く感じる。


 彼はそのまま立ち上がり、「また来るね」と桜井に言った。

 私じゃない。

 けどなぜか、鼓動がうるさい。


 にらむように、ヤマトが席に戻るのを目で追う。

 はあ、と自分でもよくわからないため息が出た。


 椅子に座ると、まだ人肌のあたたかさがある。

 手のなかに、みかんのへたのぽつぽつとした感触。


 私はみかんをむく。


 香りがふわっと広がる。

 指先に少し酸っぱさが残る。


 むいた皮を机の端にそっと置いて、一房ちぎる。

 口に入れる前に、ちらっとヤマトを見ると、こっちを見ていた。

 ばちっと目が合って、私はみかんを落とした。


 寝そべるみかんは半月のよう。

 白い皮と筋が果実の色を覆って、隠して、ぼかしているみたい。

 食べると皮は厚く、でも果肉は酸っぱくて甘かった。


 顔を上げると、ヤマトはもうこちらを見てはいなかった。

 なんなの。


 チャイムが鳴る。

 みかんの皮を包むように掌で隠して、私は席を立った。

 なんでもない顔で。


 けれどその味はまだ舌の奥に残っている。

 ヤマトの背中も、なんでもないふうをしていた。

 ぽつぽつ、だけど、わかってるよ。

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