卑猥
ボートは跳ぶように進み、あっという間に対岸へたどり着く。
ボートから降りた時に、僕だけ何故かビショ濡れだった事に気付く。
ちょっと船酔いした。
でもボートに乗ってる時間が一週間だったからそこまでフラフラにならずに済んだ。
他の人らは『水の加護があるから濡れない』そうだ。
その理屈はおかしい。
まるで僕には『水の加護』がないみたいだ。
「あってもそれが何だかわかってないでしょ?」とマリン。
何が言いたいかわからないけど、おそらく『目の前にF1マシンがあったとして、それがいかにモンスターマシンだとしても、どうせアンタは乗れないでしょ?鉄屑と同じでしょ?』というような無礼なニュアンスの説明をされた気がする。
不愉快な事この上ないが、着ている『水の羽衣』も『エッチな水着』も『濡れる事を前提に作られている』優れものだ。
多分着ていたらパリッと乾く、多分。
岸から森は徒歩2秒といったところか。
岸はグルッと湖を一周するように大型の獣が通れる一本の通路になっている。
その外側は鬱蒼とした森だ。
その森の中に『アナゴイナゴ』はこの季節に小さな群れを作っているらしい。
「さあ、狩りの時間だ!」と格好つけて僕が言う。
「タバサちゃんは後ろに隠れててね!
闘おうとしちゃダメ!」とマリンに怒られてしまった。
・・・つまんないの。
森をしばらく歩いているといた。
『何が?』ってアナゴイナゴに決まってるじゃないか。
アナゴのように頭は大きく胴体は細長い。
そして胴体から六本の足がはえている。
後ろ足は『殿様バッタ』のように大きく、後ろ足でピョンピョン跳ねるんだろう。
羽ははえているっぽい。
羽を広げていない状態じゃ羽は全く目立たない。
形状と色と大きさは女児の握り拳と前腕を想像してくれればわかりやすい。
僕の前腕より少し大きい感じか。
僕の身体は小さすぎるんだよね。
あんまり参考にならない。
この異世界の防具は装備する人の体格に合わせて伸び縮みするから参考にならないし。
じゃなきゃ『エッチな水着』なんて僕が装備出来る訳なんてない。
「『エッチな水着』は過去にJカップの人でも着ていたし、タバサちゃんみたいなAAAカップの人でも問題なく着れるわ」とマリン。
そんな話はこの際どうでも良い。
問題は一目見た『アナゴイナゴ』が卑猥すぎる事だ。
色も形もウネウネ具合も・・・。
僕が失ったモノに『似ている』などと言ったら見栄の張り過ぎだし別物だ。
僕が失ったモノは小さいし、細いし短いし、先がかぶって・・・やかましい!
とにかく『アナゴイナゴ』は、頭の先っちょが『アナゴ』とか『ウナギ』みたいな子供に見せられない形状なのだ。
どうやら『戦闘初心者といえばアナゴイナゴ』、ましてや『この季節のアナゴイナゴはあまり大きな群れは作っておらず、気性も穏やか』だから僕の『初戦闘』に『アナゴイナゴ』は欠かせない。
でも『アナゴイナゴ』の見た目があまりにも『18禁』なので、マリンは僕に『アナゴイナゴ』をあまり見せたくないらしい。
そこまでガキちゃうぞ!・・・と言いたいが、実年齢で言ったら僕はマリンの1/8ぐらい。
ここら辺が種族の違いの面倒臭さだ。
マリンは「色を知るにはタバサちゃんは250年ぐらい早い」と思っていたようだけど、よく考えたらマリンだってまだ250歳になってないじゃん!
つーか250年経ったら僕、間違いなく寿命じゃん!
「気をつけて!
『アナゴイナゴ』は粘膜を狙って跳んでくるわ!」とマリン。
「って事は『目を狙って』!?」と僕。
「いいえ。
『アナゴイナゴ』に限らず、モンスターは『目と目を合わせる』という事を極端に嫌うのよ。
だから『目を狙う』事は滅多にないわね。
『目をめがけて』跳んできたらイヤでも目と目が合っちゃうから」とマリン。
「だったら鼻!?」
「いいえ。
『アナゴイナゴ』の頭は鼻の中には入れないほど大きいわ。
同じ理由で耳の中にも入って来ない、というか『来れない』わ。
『アナゴイナゴ』が狙って跳んで来るのは『口の中』・・・」
「最低だ!
最低に下品だ!」と僕は喚く。
そう言っていると『アナゴイナゴ』が僕めがけて跳んで来た。
流石モンスター、弱点を狙うんだな・・・誰が弱点だ!
僕の口の中に『アナゴイナゴ』が入ってくる!
直前にクレアが僕に跳びかかってきた『アナゴイナゴ』の手足を全て『水の刃』で切り落とす。
おぉ!正確な名前は知らないが『ウォーターカッター』と心の中で呼ぼう。
手足をもがれた『アナゴイナゴ』が地面でウネウネしている。
うわー引くわー、完全にアレじゃんか。
「トドメヲオ願イシマス」とクレア。
そう言えば、とどめだけ経験値高いんだっけ?
僕は地面の上でウネウネ動いている足のない『アナゴイナゴ』に『果物ナイフ』を突き立てる。
キン!
何!?
かわしただと!?
なかなかやるじゃないか!
もう一度とどめだ!
キン!
コイツ、すばしこいぞ!
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結局、僕が『手足をもがれたアナゴイナゴ』を一匹倒す間に、僕らのパーティは『アナゴイナゴ』の小さな群れを全滅させた。
(こんなに戦闘のセンスがない子、生まれたての子でも見た事ないわ!)マリンは喉まで出た驚きの言葉を何とか飲み込んだ。




