ボート
「レベル上げって具体的に何するのさ?」と僕。
「モンスター狩りよ」とマリン。
うん、思った通りだ。
「でも良いの?
『水神』は『慈愛の神』なんでしょう?
こちらから積極的に殺生するような真似してさ」
僕の言葉を聞いてマリンが苦い顔をする。
あ、聞いちゃいけない事だったかな?
「確かに『水神』の教えに無駄な殺生の禁止はあるわ。
しかし『戦争』は必ず相手がいる。
こちらが『戦争はしない』と言っていても、一方的に攻め込まれる事はある。
『無駄な殺生を禁じている国』『中立国』ほど、兵力を必要とするのよ。
何故なら『味方してくれる大国がない』からよ。
中立を貫き通す、という事はそういう事なのよ。
自分らで自身を護るしかない。
『攻め込まれました。負けました』で話は終わりにならないのよ。
だから『水の軍勢』も『モンスターの間引き』と称して、定期的にモンスター狩りを行っているのよ」
マリンは『不戦』を是とする者が武器を持たざるを得ない矛盾に思うところがあるみたいだった。
でも『一方的に攻められて、先ず傷つくのは民衆』という事もわかっているようだ。
『理想と現実は違うところにあって、理想なんて真っ先に打ち砕かれる』そんな事はわかっているから武器を取る。
それを僕が理解するのはそう先の話ではない。
『闘いたくない』と思った僕はモンスターに話しかける。その時に僕はモンスターに襲われて死にそうになる。
『闘いたくない』と自分が思ったところで、その意思が相手に通じるか?
相手も『闘いたくない』と思っているのか?
そんな事は今はどうでも良い。
とにかくパーティ構成を確認する。
【前衛】
マリン。
【後衛】
クレア、メタルメナ
【おまけ】
タバサ
おいこら。
何だよ、【おまけ】って。
「最初、ゴ主人様ヲ本気デ闘ワセタラ【秒】デ絶命シマス。
ゴ主人様ハ私ノ前二出ナイデ下サイ」
な、何を大袈裟な。
「最初からどれだけ強いモンスターを狩ろうと・・・」
「イエ、狩ルもんすたーハ最弱デス。
ゴ主人様二ハ最弱ノもんすたーヲ狩ルトコロカラ始メテモライマス」とクレア。
「だったらそこまで慎重にならなくても」
「タバサちゃんには現状の理解が不足しているようね。
良い?
今から倒す『アナゴイナゴ』は細長いバッタみたいなモンスターで群れになった時に少しだけ脅威になるモンスターよ。
でも群れを作るのは決まって秋の収穫期。今の時期なら農民の子供でも、小遣い稼ぎに『アナゴイナゴ』の死骸を神殿に持って来るわ。
『アナゴイナゴ』は最弱のモンスターよ。
でも間違えちゃダメよ!
『アナゴイナゴ』はタバサちゃんより何倍も強いわよ!
タバサちゃん、貴女はとにかく『レベル0』を目指しましょう。
レベルマイナスな状態をなんとかしましょう!」
衝撃だった。
『レベルのある世界』と聞いて「僕のレベルはいくつぐらいかな?」と考えていた。
「高くはないよな、レベル3ぐらいかな?」と。
まさかレベルマイナスだったとは。
「『アナゴイナゴ』の体力を1~2、残すわね。タバサちゃん、必ずとどめ刺してね!」とマリンが僕に言う。
どうやらとどめ刺した人に多めに経験値が入るらしい。
ファイアーエムブレムみたいだ。
しかし過保護過ぎじゃない?
最弱モンスター相手にこの厚遇はバカにしすぎだろ?
弱いのが悪いのか。
でも女の子の子供に変えられたんだよ?
それは僕のせいじゃないでしょ。
今に見てろよ!
すぐに強くなってやるからな!
防具は最強に近いんだ。
そこまで危険もないだろ。
・・・そう思っていた時期が僕にもありました。
転移した異世界は春~初夏。
この季節に『アナゴイナゴ』はあまり群れてはいはい。
しかし『アナゴイナゴ』が住んでいる位置はかたまっている。
「この時期『アナゴイナゴ』は森の中に潜んでいるのよ。
で、今の季節のうちに『アナゴイナゴ』の数を減らしておいて、秋に大群が出ないようにするのよ」とマリン。
なるほど。
湖の真ん中に『神ハウス』がある小島がある。
小島から小舟に乗って湖の外を目指す。湖の外側は鬱蒼とした森が広がっている。
今の季節に民衆達はとにかく『アナゴイナゴ』を狩る。
狩らないと秋に『アナゴイナゴ』が大量発生してシャレにならないという。
『水の精霊』2人が小舟の後ろ側に乗る。すると小舟がジェット噴射のような素早さで湖の外側を目指す。
オイコラ!死ぬかと思ったぞ!
でも小舟に乗っている他の連中はドイツもコイツも『水の加護』を受けている。
小舟から落ちてもどうという事はないし、そもそも落ちない。
『小舟から落ちる事』を怖がっているのは僕1人だった。
湖の上を跳ぶように進む小舟、僕は小舟のヘリに掴まって『南無阿弥陀仏』と繰り返し唱えている。
良く考えたら、僕も『水の加護』あるんじゃないの?
でも25メーター泳げない『水の神』っていうのもおかしなモノだな。
結構湖は大きい。
僕の感覚的には『鳥人間コンテスト』をやる湖と同じぐらいの大きさがあるんじゃないかな?
なのに『水の加護』のおかげか、5分もかからずに湖の外側に到着した。
ぶっちゃけチビった。
しゃーなくない?
出そうな時に、どこに力を入れれば良いかわかんないんだから。
男だった時に「あー!もう漏れる!」って時に棒に力を入れた事、結構あったのよ。
その棒がなくなった時に『どこに力を入れれば良いんだろうか?』と悩むよね?
悩んだ結果、踏ん張りきれなかったとしても、誰も僕を責めれないよね?




