アクアマリン
天蓋付きのベッドで目を覚ます。
にしてもこの部屋はピンク色でフリフリで少女趣味すぎるぜ。
実際本当の少女だってここまで少女趣味じゃないんじゃないの?
こういうのなんて言うんだっけ?
そう『ゴスロリ』だ。
まあ、異世界にいる間だけの辛抱だ。
ここにいなきゃ異世界から脱出する方法は学べない。
僕が起きるとメイド服を着た『水の精霊』2人が「オハヨウゴザイマス」と声をかけてくる。
やっぱりカタコトだ。
どれだけ自然に行動出来るかは『僕の教育』だとさ。
AIみたいだ。メイド2人が寝間着の僕を着替えさせる。
いくら『人間じゃない』とはいえ『水の精霊』はヒト型だ。
2人の前に素っ裸を晒すのは恥ずかしい。
2人のメイドは素っ裸の上に『水の羽衣』を僕に着せようとする。
「ちょ、ちょっと待って!
透けて見えちゃう!」
「心配セズトモ魔力デ相手ノ視線ヲ反射デキマス」とメタルメナ。
うん、魔力があれば何の問題もないんだろうね。
マジックミラーみたいな視界効果なのかな?
でも僕が着てても相手は透け放題、見え放題なのよ。
「僕はまだ魔力がないんだ。
だから『水の羽衣』の下に何かを着ないと」
「デモ上着ハ燃エ残ッテ下着カラ下ダケ全焼ナンテコトモ有リ得マス」とクレア。
僕はテレビのニュースで見た『防火壁のマンションの内側だけ全焼』といういたましい火災事故を思い出した。
外側だけ防火でも火は防げない場合があるんだ。
・・・やっぱり着るしかない。
『水の羽衣』の下に『エッチな水着』を。
それもまた変態チックではあるけれど『素っ裸丸見え』よりは幾分マシだろう。
素っ裸にひんむかれた僕は精霊達に『エッチな水着』を着せられる。
青年漫画雑誌のグラビアでしか見ないような無茶苦茶際どい水着だ。
悔しい事にジャストフィットだ。
まるで『僕のためにある』ようなサイズ感。
後で「実はこの世界の装備はある程度装備者によって伸び縮みする」と知る。
しかしこの時は「この『エッチな水着』は僕に装備される運命にあるんだ」と思いこんだ。
・・・思いこまずには、やってられなかった。
幸い、服の下の『エッチな水着』はそこまで変態チックには見えなかった。
今日から修行のはずだ。
肩まで伸びている髪が鬱陶しくなる時もあるだろう。
黒髪をとかしてくれているクレアに言う。
「『ポニーテール』にしてよ」と。
「カシコマリマシタ」
これだけの何気ないやり取りだ。
後から考えたら僕が悪い。
生態系がまるで違う異世界に行くのだ。
馬がいるかどうかも怪しい。
ポニーなんて存在している訳もない。
だが奇跡的に『ポニー』という海の怪物が異世界には存在した。
『ポニー』は甲殻類だ。
深緑色だが、茹でると真っ赤に変色し、淡白な味で美味しい。
旬の季節と重なる事もあり、新年の食卓に上る事が多い。
『ポニー』は『伊勢エビ』を想像してもらうとわかりやすい。
だが、身体はカニのように横に太く、体高もある。
高い体高は『ヘルメット』のようで『ヘルメットエビ』などとも極東地域では言われている。
両手のハサミはまるで『モミアゲの縦ロール』のようにブラ下がっている。
『蟹の甲羅』が笑って見える窪みがある。
あの『窪み』が『ポニー』にもある。
しかしあの『窪み』は大きく、色が『窪み』だけ黄緑色で、まるで『カチューシャ』のようだ。
僕は髪の毛を後ろで束ねただけの仕上がりになると思っている・・・のに何故か時間がかかっている。
女って難しいな。
たかが『後ろで髪の毛を束ねる』だけだと思っても、これだけやる事があるんだ。
人にやってもらうんでも面倒なのに、これ、普通は自分でやれなきゃダメなんだよな。
有り得ない面倒臭さだ。
どうにか男に戻らないと。
そんなこんなを考えていると、ラングがやってきた。
「起きたのか?」
「うん、ラングも?」
「いや、俺は睡眠はそこまで必要ではないのだ。
寝ようと思えば何百年でも何千年でも寝れるんだかな」
コイツら・・・『食べない』『眠らない』で何が楽しくて生きてるんだろうか?
精霊達も転移魔法は覚えている。
ただ地球に行った事がないだけで。
精霊は転移して果物をどっさり持ち帰ってきた。
この果物が今日の僕の朝御飯になりそうだ。
この娘らが地球に行ければ、地球に戻る方法も探せるかも知れない。
今のところ『誰かを連れて転移する』という方法はないんだが。
僕がここに来れたのは、神社の賽銭箱の力とリウムの力を合わせて、それでもやっとだったらしい。
それでも『本人じゃない人を転移させた事は奇跡』らしい。
もう一度奇跡を願うんじゃなく、僕が『本人』になって転移するしかない。
その前に男に戻らないと。
今、この状態で日本に戻ったとしても「アンタ誰?」である。
地球に戻るだけじゃなく、男に戻る方法も探さなきゃいけなくなっちまった。
男に戻る方法をラングに聞いた。
『水、火、風、土』陣営のトップになり、その上の『光、闇』陣営のトップになれば一つ願いが叶う。
要はこの世界のトップに近い存在になれ、と。
・・・アホか、という話だ。
僕の『へっぽこぴー』さを舐めるなよ!
高校時代の柔道の授業、女子担当の体育先生に「選択授業、創作ダンスもあるわよ」と言われた。
選択授業なんて形だけ。
『男は柔道』『女は創作ダンス』って決まりだろ?
いくら僕が小さくて相手を担ぐ筋力も体力もないとしても、創作ダンスを勧めてくる事がないじゃんか。
姉ちゃんが体育の先生と同級生で、男の担当の体育の先生に『このままじゃ、アイツに柔道の単位をあげる訳にはいかないって泣きつかれた』って聞いた。
どうにか救済策として『女子柔道部』の女の子らに頼み込んで選択の柔道の授業に移ってもらって、その中に僕が入ってなんとか単位修得、という形にした。
おまけもオマケだが。
経験者ほど投げられるのが上手いのだ。
だから僕は女子柔道部員しか投げられなかった。
そんな僕が『この世界のトップ』に君臨しなきゃ男に戻れない?
無理ゲーにも程がある。
「しかし個性的な髪型だな」とラング。
「え?
普通でしょ。
『ポニーテール』だよ」
「『ポニーテール』か。
成る程。
確かに『ポニー』のようだ。
不勉強だった。
似合っている」
少し照れながらラングは言う。
可愛いところ、あるじゃねーか。
しかし鏡が必要だな。
自分の姿が見れないのは不便だ。
「今日はリウム様の弟子の一人をタバサに紹介する」とラング。
「タバサ?
誰だ、それ?」
「貴様だ!」
そうだった。
僕の異世界での呼び名はタバサだった。
僕が「面倒臭せー『タバサ』で良いや」と言ったんだった。
「弟子の一人『マリン』だ。
数人しかいない『タバサ』の同性だ」とラング。
この野郎!
僕が元々男だった事、知ってるクセに!
しかし我慢だ、我慢。
修行して、このへっぽこぴーな状態をどうにかしないと。
地球に帰る、どころか『異世界で生き抜く』事も出来ない。
僕が強くなったら覚えてろよ?
人差し指の第二関節までぶちこんだカンチョーしてやる!
「にしても『アクアリウム』『アクアラング』『アクアマリン』・・・名前の傾向が見えて来たな」
「何か言ったか?」
「いや、何でも。
それはともかく、紹介の『マリン』さんはどこにいるのだ?」
「どこ、ってタバサの後ろに」
僕が首をグリンと後ろに向けるとそこには小学生高学年ぐらいの女の子が立っていた。
ダークエルフと言うんだろうか?
耳は尖っているが、ラングより浅黒く日焼けしているようだった。
「タバサにしてみたら『少し歳上』ぐらいの認識かもしれないがな。
ダークエルフは『長命種』だ。
こう見えて『マリン』は百歳は越えている」
やっぱりエルフは長生きなんだな。
・・・そんな事より僕が『見た目マリンより少し歳下』ってどういう事だよ?
マリンが僕の服の裾をキュッと握っている。
この娘は内気なんだな。
100歳越えてようが、ダークエルフとしては子供は子供だ。
精神性が育ってないのかもな。
僕の『お兄ちゃん心』がムクムクと出てくる。
いや、この場合『お姉ちゃん心』か。
僕はキュッとマリンの手を握る。
ガタガタ震えてたマリンの手の震えがピタリとおさまる。
「大丈夫!
お姉ちゃんが貴女の事を守ってあげるからね!」マリンが僕の手を撫でながら言う。
『お姉ちゃん心』がムクムクと出てきてたのはマリンもだった。
「怖くない、怖くない」
マリンは僕を抱きしめた。
人間でも数年しか寿命がないハムスターなどか『一歳』と言われても大人か子供かわからない。
マリンも僕を大人として扱えば良いか子供として扱えば良いか悩んだ挙げ句、子供として扱うと決めたようだ。
「今日のタバサの修行の師匠はこのダークエルフ。
マリンだ」とラングが何か気まずそうに言う。




