解決編~ 今そこにあるもの
いくら歩いても歩いても二人が元の道出ることができなかった。
なんてことは起こらず、二人は当たり前のように駅への道に戻り、さらに電車が故障した、親切ではあるがどこか怪しげな人の家にとまるなんてこともなかった。
「つまんな〜い! なんなのよ!!
拍子抜けよ。なんでこんなに何もないわけ?」
呪いの湖から帰ってから数日後、駿に呼び出された茜は開口一番そう叫んだ。
「何事もなくてよかったじゃないか」
「よかないわよ。これじゃホラーじゃな……もとい、全然目的が達成できていないじゃない!」
「目的?」
「呪いの湖の謎を解くことよ!」
「ああ、それね」
「『ああ、それね』じゃないわよ。何のためにあんな遠くまで呪いの湖を見に行ったと思っているのよ。それなのに駿は水を採取しておわり。その上、道に迷うでも不思議なことが起こるでもないなんて!
こんなことしてたら怒られるわよ!」
「怒られるって誰になんで怒られるというんだろうか。
ま、それはそれとして、呪いの謎なら解けたよ」
「へ? 解けたの」
「うん、解けた。呪いの正体はこれ」
駿は茜に1枚の写真を見せた。その写真にはグニグニとしたゴミのようなものが何個が写っていた。一つには紐みたいなものがついていた。
「なにこれ?」
「この間の池の水から検出されたやつ。
学名、ネグレリア・フォーレリ、全長数マイクロメートルの原生生物。
別名、脳食いアメーバ」
「の、のうくいあめーば!?」
茜の声が裏返った。
「そ。鼻孔から脳に侵入して脳を溶かして食べる恐ろしい奴だよ。
死亡率97%とも99%ともいわれている原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)を引き起こす。
症状は頭痛、めまい、嘔吐、幻覚。発症して数日で人を死に至らしめる」
説明を聞いているうちの茜の顔色は真っ白になる。
「そ、それじゃ。3人は……」
「おそらくあの湖で泳いだ時にネグレリアに曝露して、PAMを発症したんだろうね」
「な、な、なんでそんな恐ろしいもんがあそこにいるのよ!」
「いや、普通に日本にも存在するらしいよ。こいつは暖かい淡水とかに生息するんだ。
インドとかアメリカのフロリダとか暖かいところでは年に何件か発症例がでてるみたい。
日本では今までは数例しか発症例はないみたいだね。
インフルエンザとかコロナと初期症状が似ているんで正しく診断するのは難しい。特に日本だと症例が少ないからなかなか難しいんじゃないかな。おまけに迅速かつ正しい治療ができないとあっという間に死んでしまう。
あの湖っていうか池って、どこからも川とつながっているところがなかったじゃない。
おそらく地面から地下水が湧き出てあそこの溜まっているんだと思う。だから、水温も上がりやすくて、ネグレリアの生息に適しているんだろうね。
最近の猛暑とか温暖化の影響で生息域が広がっているのかもしれないね。
日本は温泉大国だからもしかしたら、今後こいつの症例が増えてくるかもしれない。
何年か前に話題になってデング熱みたいな感じでね」
「マジ?」
「マジだよ。
こいつは、今もそこにいるし、なんなら日本中どこにでもいるかもしれない。
今になっては、手遅れでどこにも逃げ場なんてないんだよ。
そう考えるとさ、これって結構ホラーだよね」
駿はカンカンと音がしそうなほど広がる青空を眩しそうに見上げた。
2025/08/24 初稿