導入編~ 呪いの湖
「こいつは、今もそこにいるし、なんなら日本中どこにでもいるかもしれない。
今になっては、手遅れでどこにも逃げ場なんてないんだよ」
「ねっ! 呪いの湖って信じる?」
と、秋山茜は言った。
「呪いの湖って、もしかして今噂になってるあの事?」
春川駿は、一瞬まじかって表情で茜の顔を見たが、次にはうんざりするような顔になった。
「そ、そ、それ! それよ!
夏休みに旅行にいった仲良しグループが次々死んじゃったってやつ!!」
「うちのクラスの増田飛鳥さんも関係してるんだったよね」
「そうよ、そうなのよ」
「……でも、飛鳥さんは生きてるんだよね。ずっと学校休んでいるみたいだけど」
「うん。わたしはあんまり知らないんだけど、珠美が知り合い、小学校からの付き合いっていうか、そもそも今回の仲良しグループってのが小学校からの知り合いなんだってさ。
実はさ、珠美もその事件の発端になる旅行に誘われてたんだよ。
ま、珠美は都合が悪くて参加してないらしいんだけどね。
だからなのかな、珠美も結構落ち込んでてさ。親友としては力になりたいわけよ」
「力になりたいってももうどうしようもないよね」
「冷たいなぁ。そこを何とかしてやりたいってのが本当の友達でしょ。
それに問題は珠美よりも飛鳥の方なんだよねぇ……」
「増田さん、調子悪いの?」
「う〜ん。悪いっちゃ悪いけど、どちらかと言うと精神的にかな。
呪いの湖の話。
自分も呪われて死ぬんじゃないかって怖がってて、食事や睡眠も上手く取れないみたい。もう、すごくやつれてて見てらんないの」
「ふ、ふ〜ん、そりゃ難儀だねぇ」
駿は生返事をしながら目を泳がせ、あからさまに茜を視界から追い出しにかかった。
「そこでよッ!」
だが、茜は素早い身のこなしで駿の視界の真正面に割り込み、高らかに宣言した。
「呪いの湖の謎を解いて珠美たちを安心させてやりましょう!」
「あー、なんていうのかな。
『やりましょう』ってなんで2人でやるように言い方なの?」
「なんでって私と駿でやるからでしょう?なんで私にそんな呪いの謎なんて解けると思うわけ?」
「いや、いや、いや、いや、いや。僕だっておんなじでしょう。
僕は別に霊能者でも視える人じゃないんだから」
「そこをなんとか。 ね?」
「ね? じゃないから」
駿は空を見上げながら、ため息をついた。
「これさ、ジャンルなんだろうね」
「ジャンル?」
「ほら。これジャンルがミステリーならいいんだけど、ホラーだとさ、危ないフラグだよね。これ。好奇心で首突っ込んで、主人公たちにも呪いが降りかかってきて必死に呪いを解かないと駄目な状況になるパターンじゃない?」