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◆1-4

強烈な光が視界を埋め尽くす。

あまりの強さに、目をぎゅっと固く瞑った。

その光が徐々に弱くなった頃、固く瞑っていた目をそろそろと開ける。

目に見えるものが自分の部屋であります様にと、ささやかに願いつつ。

そうして開けた先に見えたものは、私が想像していたものとは違った。

いや、ある意味同じだったのかもしれない。

そんな事を頭の隅で思いつつ、ただ素直に現実を受け止めた。

これが夢なんてオチは流石にもう、ないだろう。

何せさっきの立て続けにおきた、黒や白一色の空間よりも、こちらの方が遙かに現実味もそして生活感もあったのだから。


──目に入ったのは見知らぬ天井だった。


距離がかなりあるようなので、天井の模様は見えないが、白一色なのは間違いない。

染み一つ見えない、綺麗な白色の天井。

照明器具は見当たらないけど、壁面にでもついているのだろう。

デザイン重視だったらそういう事もあるだろうし。

照明はまったく見えないが、部屋には光が溢れていた。

その光は人工的なものではなく自然なもので、私の位置からは見えないが窓から射しこんでいるのだろう。

ただ、その光が朝なのか昼のかは全くわからない。

何せ視界には時間を表すものが、なかったから。

部屋の中に赤みが射していないので、夕方でないのは分かるけど。

そこまでの観察を終えると、今度は自分の状況が気になった。

どうやら私は、仰向けに寝かされているらしい。

今の状態ではこれ以上の情報は手に入らないと、周囲に視線を向けるために首を動かそうとするけど、思うように動かない。

固定されているわけではないとは思うけどと、念の為に両手と両足を動かしてみる。

とりあえず動く。

動くけど、思った以上には動かない。

拘束されている感じは受けないのに、あまり身体の自由はきかないようだ。

今度は一体どういう状況なのだろうと──混乱しているのか、それとも慣れてしまっただけなのか。思考に耽る事にした。

何せ身動きが取れない以上、天井をただ見るという事しか出来ない。

そうなると考える事ぐらいしかやる事はない。

そうしてただじっと天井を睨んで、答えの出ない──出るわけない。考え事をしていた私の視界の隅に何かが動くのが見えた。

この状態になって初めての変化で、私はその動くモノに焦点を合わせるべく視線を動かす。

身体があまり動かないので、見える範囲には限りはあるのだけど。

その動くモノはどうやら人らしく、頭が何度か見えた。

ただ、顔も身体も見えないので性別も、年齢も──それこそ種族も。分からなかった。

間違いなく言えるのは見知った人物ではないという事だ。

何せ私の知り合いには髪の色が『白青』なんていう人物はいなかったから。

染めたんだろうか・・・・・・?

だとしたら、なんて独創的な色を選んだのだろう。

私もたまに染めたりするけど仕事上そんなに派手な色を選ぶ事も出来ないから、無難にブラウンや明度を落とした赤が精々。

そんなどうでもいい事をつらつらと考えていた時、その髪の持ち主がこちらにやってきた。

相手が近寄ってきてくれたおかげで、外見は分かった。

男の人で外人さん、らしい。

爽やかショートって感じの、若干襟足の長い髪とブラウンゴールドの瞳、肌の色は白。勿論健康的なという言葉がつくけど。

年齢は、うーん・・・・・・。

分かりづらいんだよね、外人さんって。

個人的見解としては二十代後半から三十代半ばという感じかな。

表情には笑顔──嬉しそうなと付け足しておく。があるので、私に対して悪意めいたものは感じられない。

相手を観察する前に、自分の身の安全を考えるべきだったなあ。なんて今更ながらに思った。

男の人は私の傍までやってくると、行き成り両脇の下に手を突っ込み、そして私を抱き上げたのだ。


「っ!!」


 予想もしてなかった展開に、叫び声をあげる事なんか出来やしなかった。

なんでそんな軽々と持ち上がるの!? とか、人も断りもなく抱き上げるなんて失礼でしょうっ!? 等の文句は思い浮かんだけど。

そのどれかの文句を私が言う前に、あろう事か男の人は嬉しそうに頬ずりまでしてきたのだ。

いや、ちょっと待ってよ、落ち着いてっ!!

見ず知らずの人にそんな事される覚えも謂れもありませんからっ!!

半ばパニックを起こしながら、それでも抵抗しようと手足を動かしても、全然相手には堪えた様子もなく。

それならばと声を上げれば、その声は残念ながら言葉になっていなかった。


「あー!!」


 出てきたのは、聞こえたのは、迫力も何にもない一音、ただそれのみ。

勿論、自分の中ではちゃんと言葉にして喋っていた。

でも出てきたのは言葉なんてものではなかった。

その事実に、背中がヒヤリとする。

まさか、そんな。

私の内心の不安をよそに、男の人はますます笑顔を浮かべると何の前触れもなく『チュッ』と軽い音を立てて頬にキスを落とした。

──しかも何度も。

思わず身体が硬直する。

まさかそれ以上の行為はしてくれるなよ、なんて心の中で必死に思っていた。

その祈りが通じたのかはよく分からない。

男の人は満足したのか、キスを止めると首を横に回し誰かに向かって話しかけていた。

いや、話しかけていたと思う。

残念な事に私には、男の人がなんて話しているのか分からなかったから。

分かったのは、その言葉が日本語ではなかったという事ぐらい。


『アルテナ! 私を見て笑ったぞ! この愛らしい笑顔はまるで女神のようじゃないか! いや、私にとっては女神そのものだよ!』

『あらあら。シュトラスってば、まるで子供のようよ』


 ふふふ。という女性の笑い声が頭上から聞こえてきた。

男の人と会話をしていたのはきっとこの女性なのだろう。

まっすぐサラサラなストレートのブロンドの髪に、優しい眼差しを浮かべたアジュールブルーの瞳。

歳は男の人と同じぐらいか、少し若いのかもしれない。

本当、外人さんの年齢は分かり辛い。

そんな事を思いながらも視界にはいる二人を見て、間違いなく一枚の絵になるなぁ、なんて事を暢気に考えてしまった。

何せ二人とも、顔の造詣が整っている──美人さん達だった。

美人さん達二人の顔には幸せいっぱいという笑みが浮かべられていた。

その幸せそうな表情を浮かべている二人の視線の先には、言うまでもなく私が居るわけで。

状況的に考えても、やっぱり間違いないのかもしれない。

本当は信じたくなかった。

でも、先程何気に動かした視界の端に捕らえた私の手。

あれは間違いなく・・・・・・。


──赤ちゃんの手だった。


あの少年との出来事は夢なんかじゃなくて・・・・・・。

告げられた内容は真実だったのだと。

現実を突きつけられて、ただ愕然とした。

今からでも喜んで夢オチを受け入れられるなんて心からの願いは、叶う事もなく。

絶望を感じている私の心とは裏腹に、私を抱いたまま二人は幸せそうに何時までも微笑んでいた。


──それが私が生まれ変わった世界で迎えた、最初の日だった。

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