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◆3-4


「もういい加減、他の話題にしない? 俺、そろそろ飽きてきたし」


 そんな飽きてきたといきなり言われても、他に話題なんて思いつかないし……。

竜との共通の話題なんかどう考えても浮かばない。

それなら自分から話題提供してくれたいいのではないかと思った私は、間違いではない筈だ。


「まぁさ、何話していいのか分からないってのは分かるけど、だからって延々と言語について話していてもつまらないだろ?

 それとも何? 君って竜の生態か何か調べているわけ? 研究者か学者を目指しているの?」


 いや、そういうわけでも・・・・・・。

ただ単に話題がないからそうなっただけであって。

第一私、そういうコツコツとした事性に合ってないし。


「仮になりたいとしても、竜はお勧めしないね。

 こいつら頭凝り固まっていて、全くなーんの面白味もないからね。

 どうせ研究するなら、うーんそうだなぁ……」


 なんて考え込まれたわけなのですが……。

そんな事よりも、とても気になる事がある。


「あなた、誰?」


 今更な質問な気もするけど、中々口を挟めるタイミングがなかったので仕方がない。

気が付いたらそこに、竜の右後方に一人の男の人が立って居たのだ。

違和感を全く感じさせず自然に会話に参加してきたから、漸く初めてその存在に気付いたのだ。

もしかしたら、私が竜に気をとられすぎて気付いていなかっただけかもしれないけど。


「あっれー? 気付いていなかった? 俺、最初から居たのに……」


 首を傾げるオプションまで付けて、言ってくれました。

あー……。

やっぱり、竜に気をとられて気付いていないパターンだったか……。

申し訳ないと思うけどでも、それも仕方ないよね。

だって目の前に竜がいたのだもの。

どうしたって目の前の脅威に意識は行ってしまうから、他の事なんて気にしている余裕なんてないし。

なんて思わず自分自身に言い訳をしてしまったけど。

それよりもと、逸れそうになる思考をなんとか軌道修正し、男の人へと改めて意識を持っていく。


──身長は百八十センチ前後で、スラッとした細身体系。でも痩せているという印象は受けない。

所謂、モデル体系とでも言えばいいのだろうか。

ショートカットで襟足を少しだけ伸ばしたライトブラウンの髪は、癖もなく真っ直ぐストレートで指通りは滑らかそうに見えた。

ただ、フェルハントと比べると目の前の男の人が若干劣ると思う。───贔屓目ではない、勿論。

顔の造詣はというと、その体躯から想像したとしても全く問題ないと言い切れるぐらい、期待を裏切らないものだった。

のっぺりとしたと良く表現される日本人の顔ではなく、彫が深いと一般的に評される西洋の顔立ちである。

スッと高く通った鼻筋に、不満を表現している唇は程よい肉厚を持っていて、どうしてか色香を感じてしまうのは艶のある唇の所為なのだろうか。

くっきりとしたラインの入っている切れ長の二重は、髪と同じライトブラウンの瞳だ。

その目はほんの少し垂れてしまっているが、逆にそれがいい感じに作用していた。

一瞬きつく見えてしまう顔も、その目のおかげできつさが幾分か緩和されている。

だからといって可愛いというわけではなく、間違いなくカッコイイ部類になるだろう。

そのままモデルや、芸能人になったとしても違和感は感じない。

頬から顎に向けてのシャープなラインは子供にはないもので、外見から推定するに二十代といったところだろうか。

ただ西洋の顔立ちは年齢の見極めが難しい為、それが本当に合っているかは本人に確認してみないとなんとも言えないけど。


「そんなに熱心に見つめられると、照れちゃうなぁ。

 まぁ、俺に見惚れるのは仕方ないとは思うけどね~」


 なんて一人でうんうんと頷いてくれちゃっているのですが。

確かにじっと見ていた私も悪いかもしれない。

でも、冗談として言っているというよりも本気にしか聞こえないのはどうしてなのだろうか。

もしかしなくても───ナルシスト?

確かにこれだけの容姿だったら、そうなっても仕方ないかもしれないけど……。

でも今は、彼がナルシストだろうと、そうでなかろうとどっちでもいい。

そんな事より、さっきの私の質問の回答は?

綺麗さっぱり、完全無視ですか?

答える気がないのか、もしくは全く聞いていないか……。

うーん…。

なんとなくだけど、後者の人の話を聞かないタイプのような気がする。

我が道を行く? そんな感じのタイプ。

そうなると会話のキャッチボールは望めないかもしれない。

だからといってこのまま放置というのも、ねぇ?

まあ実際名前を告げられたからって、それからどうするというわけでもないのだけど。

じゃあなんで誰何を問うたかと言うと、完全な成り行きとしか言いようがない。

情けないことに。

でもきっと大半の人が私と同じような状況に陥れば、問いかけたと思う。

なんていうか……。会話の糸口よ、うん。そうよ。

だから誰何は必要な事で、そこから色々な話へと発展していくはず、なんだけど……。

初めから失敗しているこの状況では、この後どうすればいいのか何も思いつかない。

さてどうしようかと思わずため息を吐きそうになって、そういえばと視線を竜へと移した。


───瞬間、再度男へと視線を戻す。


えっと、何て言いましょうか……。

生命の危機を感じたとしか言いようがない。

急に無言になった竜の様子が気になって視線を向けた事を、心底後悔した。

表情が乏しく、感情なんてきっと読み取り辛いだろうと思っていたのに。

先ほどチラリと見た竜の顔は怒りに染め上がっていた。

一体何故?

何時、どのタイミングで?

竜の機嫌を損ねるような行動も、会話もした記憶はない。

さっきまで普通だったのに。

ああ、ついにガブリと食べられるのか……。

半ば諦めの気持ちで覚悟するしかないかと思っていた私の頭に、突如響き渡った竜の声。

それは怒りを全く抑えるどころか憎しみまで感じさせられるものだった。

その声が私に向かって穿かれたものではないと分かっていても、自然と身体が震えだす。


『どうして貴様がここに居る。フィリップ・フラップよ』


 竜は首を擡げると、剣呑な光を宿した瞳を後方に立っている男へと向ける。

男は突如動き出した竜を気にする事無くしかもその視線を真っ向から受け止めると、心底可笑しそうに口角を上げたのだった。

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