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◆3-3

「ああ、なんてファンタジー……」


 竜が喋るなんて予想していなかった展開に、思わず心の声が言葉となって漏れ出た。

この言葉もつい最近使ったような気がする。

それ程までに私の周りはファンタジーに溢れているって事なんだろう。

私の漏れでた声を拾った目の前の竜が───意外に耳がいいらしい───『どうした?』と目で訴えてくるから、慌てて首を振ってなんでもないと誤魔化したけど。

あー、もうっ!

夢だと分かっていても全てを甘受する事なんて、意外に出来ないものなのよね。

思わず遠い目になりながらそんな事を思う。

今更って感じもするけど。

はぁーと内心で大きな溜息を吐いた。

それはそれとして……。

私は一体、今からどうすればいいのでしょうか?

流石に何時までも、竜と向かい合ってご対面ー!!のままでは気まずいし。

いや、気まずい以前の問題なんだけどね。

何せ、何時『パクリ』なんて状況になるのか分からないから、出来るだけ早急にこの状況を変えたいのだけど……。

でも私からこの状況を変える事なんて、到底出来ない。絶対無理!

夢だと分かっていたって、下手したら震えそうになる身体をなんとか押しとどめるのだけで精一杯。

私は勇者でもないし、スーパーガールでもない。

ごくごく普通の一般人。ゲームで例えるならモブ。ドラマで例えるなら脇役いや、台詞すらない通行人、その他大勢ってところだ。

そんな私が自ら状況を変える事なんて出来るだろうか? いや、出来るはずがない。

目の前に立って、ご対面しているだけでもかなり頑張っている方なんだから。

だから勿論、竜を直視する事が出来ません。

さっきはたまたま視線があったけど、それ以降私の視線は竜の顔ではなくその下、喉元辺りを彷徨ってる。

あの尖った歯とか変に想像してしまいそうだし、一度視線を合わすと今度は逸らす事が出来なくなりそうだから。

単純に私に度胸がないからというのもあるのだろうけど。

でも、未知の生物───竜という種族が分かっていてもその生態は謎なのだから、それは仕方ないと思うのよね。

なんて一人でうんうんと頷いていたら、竜に話しかけられてしまいました。


『先程から、一人で百面相をしているようだが……。何か考え事か?』


 ひゃ、百面相ってちょっと酷くない? しかもその言葉二回目よ、二回目!!

確かに色々と考え事はしていたけど、そこは実際そうだったとしてもオブラートに包んでやんわり言うなり、もしくはスルーするべきじゃないの?

女性──心は何時までも乙女ですが──なんだから、些細な事でも心は傷つきやすいのよ!!

思わずムッとして睨みつけそうになったけど、ハッとして慌てて表情を取り繕った。

相手は竜、竜だった。

ここで機嫌でも損ねて『パクリ』なんて事にでもなったら……。

危ない、危ない。

慎重にいかないとね。

とりあえず、訊ねられているから答えるべき、なのよね?

でも正直に考え事の内容を話すわけにはいかない。

それこそ、飛んで火に入る夏の虫よ。

何かないかな、上手い誤魔化しようは……。

えーっと、えーっと……。


「あ、あの、竜って言葉を話すんですね」


 考えたわりに出てきたのはなんの捻りもない言葉だった。

あー、もうっ!!

もうちょっとマシな返答はなかったの!?

自分ながらに情けなく思う。

本当は『うがーっ!』って頭を掻き毟りたいけど、流石に今はそんな事をするわけにもいかないので、心の中で思いっきり地団駄を踏むに留めた。

心の中なので、実際効果は何もないのだけれどとりあえず気持ちだけでも。


『言葉を話す、か……』


 感情が全く篭っていない声で呟いた竜に、あれ? と思った。

もしかしなくても、失礼な事言った……?

ツーっと背中に嫌な汗が流れ落ちる。

『どう見ても言葉なんて喋るように見えませんよー。あはは』と解釈しようと思えば出来る、よね?

え? まさか自爆しちゃった……?

私が一人内心であわあわしていると、再度竜に訊ねられた。

訊ねるという事は、今すぐ『パクリ』となるわけではないと思っていいのよね?

ううっ。

そうとでも思わないと会話なんか到底出来ない。


『竜に会うのは初めてか?』

「ええっと……」


 私は返答に窮した。

初めてと言えば初めてだけど、ここは夢の中。───現実の出来事ではない。

でもここで嘘をついたところで意味なんてないだろうし。

それに嘘をつく必要性も感じられない。


「初めて、です。絵とかでは見た事ありますけど……」


恐怖心がどうしても拭えないので、思わず敬語になってしまったけど素直に答えた。

本当はプラスしてテレビや映画でって付け加えようかとも思ったけど、通じないような気がしたので絵と濁した。


『そうか……。

 我が眷属は、そこまで数が減っているのか……』


 ん? それって一体どういう事?

思わずといった感じで、ポツリと零された言葉に首を僅かに傾げてみたものの私の疑問に気付かなかったのか、それとも敢えて気付かないふりをしたのか……。

竜からはその事に関しての説明はなかった。

代わりに最初の問いに対する答えのようなものが返ってきた。


『なれば、我ら竜が言葉を解するという事を不思議に思っても仕方がなかろう。

 一つ訂正させてもらうが、我らは言葉を話しているわけではない。直接汝らの頭に語りかけているのだ』

「直接頭に……?」

『そうだ。その証拠に、我の口は動いておらぬだろう?』


 その言葉に、渋々ながら視線を上げて竜の口を見る。

僅かにしか視線は上がっていないけど、それでも視界の半分は竜の口で埋められていた。

これだけ見えていれば十分確認できる筈。

竜が言ったとおり確かに動いていない。───と言うより今は何も喋ってないから動いていないのは当たり前よね?

私の心の声が聞こえたのか、それとも視線に気付いたのか、竜が再び話しかけてきた。


『どうだ? 動いておらぬであろう?

 我ら竜は、自身の思いを直接相手の頭の中へと送り込んで会話をしているのだ。

 何せ我らの口では、人の韻を発する事は出来ないのでな』


 確かに、竜の口は動いていなかった。

完全に、綺麗にピッタリと閉じられていた。

ならば竜の言うとおり、直接頭に話しかけてきているのだろう。

そうじゃないと説明つかない。

それにあの大きな口や歯では言葉を話すのは些か、いやかなり難しそうだし、声量もかなり大きなものとなる筈。

しかし直接頭に話しかけるって、テレパシーって事なのだろうか?

竜がいるぐらいだから、それぐらい出来たって不思議じゃないわよね、うん。

それにしてもテレパシーって言うと、ファンタジー要素が極端に薄くなる気がする。

竜とテレパシーという単語の組み合わせが妙に可笑しくて、思わずクスリと笑みを一つ零した。


『ん……? どうした?』

「いいえ、別に何でもないです」


 竜の言葉に慌てて笑みを引っ込める。

そこでふとした疑問が浮かび上がった。

話しかけるのは直接頭にだとしても、会話の成立には言葉の理解が必要な筈。

そうなると、人の言葉を分かっていると言う事なのよね?

そういえばさっきそんな事をチラッと言っていた気がするけど、驚き要素が他の部分の方が強かった為、完全にスルーしちゃってた。

聞いても、いいのだろうか?

いきなり機嫌損ねて『パクリ』なんてやられないだろうか?

でも幾ら夢だといっても、気になる事はなるし。

ここまできたら、食べられても夢だと思って割り切るしかないか。───間違いなく割り切れないと思うけど。


「あの、今更ながらに質問なのですが、いいですか?」


 恐る恐る、竜の機嫌を窺いながら訊ねる。


『我で答えられる事ならば』


 結構快諾をとれたんじゃないでしょうか?

これなら行き成り『パクリ』とやられる心配をしなくても大丈夫よね?


「一応確認なのですが、あなた方竜族が話す言葉と私達人が話す言葉って違いますよね」

『無論。我ら竜族には竜独自の言葉が存在しておる』

「私が喋っているのは勿論人の言葉なのですが、解るんですよね?」

『ああ。少なくとも我は理解しているつもりだ。

 現に汝と会話が成立しているので、問題ないと思うが?』


 ちょっと機嫌を損ねている気がしないまでもないけど、気にせず一気に質問する。

本当に聞きたいのはここからだから。


「私は直接あなたの頭に話しかけるなんて芸当は出来ませんから、言葉をそのまま外に出しているわけなのですが、私の言葉は人の言語として聞こえていますよね?

 そして直接語りかけられている言葉は、私は人の言語として認識していますが、竜の言語ではなく人の言語で話しかけているのですか?」


 質問の仕方が下手で本当に申し訳ないと思うし、きっと取るに足らない質問だと思う。

それでも気になったものは仕方がない。


『要するに、汝が話、人の言語を我が耳で聞き理解し、人の言語で汝が頭に直接語りかけているのかを知りたいのだな?』

「はい」


 迷いなくきっぱりと肯定する。


『そうか。ならばその問いに対する答えは是とも言えるし否とも言える』


 肯定と否定。

そうなると、どちらかは正解でどちらかは不正解という事よね。


『汝ら人の言葉を我らの耳が確りと捉え、理解している。

 しかし、語りかける言葉は我らの言葉とも、人の言葉とも言えない』


 意識して話していないとなると、普通は自分がよく使う言語じゃないのだろうか?


『我らは思いをそのまま、思念を直接相手に送って会話を成立させている。思念を音声として外に出していない為、それが果たして言語と同じなのかどうか……。

 我は思念と言語はまた別物だと、思う。未だ嘗てそのような事を考えた事がないのでな、それが正解かどうかは分からぬ。

 だから今言える事は、我等が思念は言語であるかもしれない、だがそうでないかもしれない。

 よって、『否』とさせてもらった』


 そう言って申し訳なさそうな視線を送ってくる。

いや、送ってきていると思う。

相変わらず視線を合わす事はしていないので、雰囲気がそんな感じなのだ。


「あ、いえ。その……。こちらこそすみません」


 なんとなく謝らないといけないような気になって、思わず謝ってしまった。


『何故謝る必要がある?』

「え、いや、あの……。なんとなく……」

『なんとなくで謝ってしまうほど、我の姿は恐ろしいか』


 この状況で「はい」なんて肯定、誰が出来るというのだろうか。

「いいえ」なんて答えても明らかに嘘だと分かるだろうから迂闊に返答も出来やしない。

なので、無言回答とさせていただきました。


『初めて会うのだから、そう思われても仕方がないだろう』


 私の無言回答にも特に気を悪くした様子もなく、それどころか苦笑と共にその言葉はもたらされた。


『……。話を戻そう。

 我は先ほど『人の言葉を確りと捉え理解している』と言ったが、正確には汝の言葉は我の中で人の言葉としては認識されていない。

 どう伝えればいいか、説明は難しいな。そうだな……。

 我の耳が人の言葉を人の言葉としては捉えているが、その中身を頭で理解する頃には人の言葉という括りは既になくなっているという事だ』


 脳が認識した頃には、既に竜の言葉に変換されているって事?

それって所謂、自動翻訳?

これもファンタジーのなせる業って事?

夢だからなんでもありっていえば、ありなのよね。

だったら、そんな真剣に私が思い悩む必要は無いって事か。

気になったから聞いただけなんだから、別にいいと言えばいいんだけど。

もっとスッパリ、キッパリ、竹を真っ二つに割るぐらいの勢いの回答を期待していただけに、ちょっと消化不良。

まぁ、夢だもんね、仕方ないよね。

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