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◆3-1

燦然と頭上で、自身の存在を誇示するかのように輝きを放っている太陽。

その太陽の姿を隠す雲はなく、それどころか一つも空には雲の姿は見えない。

見事に澄み切った青空だ。

どこまで繋がっているのだろうと思うほど、青空には終わりなど一切見えず。

ともすれば、手を伸ばせば触れられると思うほど空は近く眼前に広がり、だがけして触れる事は適わない。

そんな錯覚を感じられる程空は見事なまでの、青一色となっていた。

空に気を取られていればそよそよと優しく、まるで肌を撫でるように吹いている風。

その優しさから、自分に気付いて欲しいと主張しているように感じてしまうからどこか不思議だ。

太陽の存在で暖められていてもおかしくないのに、ほんの少しだけひんやりと冷たい空気を孕んでいる風は、何者にも汚された事がないのだろう。

清浄な空気の中に、緑の、自然の匂いを多分に含んでいた。

空から風へと意識を移すと、必然的に目に入ってくる瑞々しい緑。

若木だろうか。

太陽の光を存分に浴びて自身の枝葉を縦横無尽に伸ばしているその様は、生き生きとした表情で今ある生を謳歌しているように見えた。

まるで生まれ出でた事に喜びを全身で表している様だ。

そんな若木を中心に周囲を占めているのはどうやら草花や木等の自然のみで、人工物など欠片も見当たらない。

自然に出来たのであろう花畑は小さく可憐な花が色とりどりに咲いており、その可愛らしく咲き誇る様は間違いなく見る者に癒しを与える。

小さい可愛らしい花々はそよそよと風に揺れ、まるで会話をしているようだ。

人工ではないからこそ与えられるその癒しは、自然の恵みだろう。

何者にも手が加えられていない、いや、恐らく誰もこの場所に来た事はないのではないだろうかと思わずにはいられない程、全てがキラキラとして、この世界が輝き満ち溢れている。

───ここにいる生あるものは、生きている事に喜びを感じ、讃歌し、他者を愛し慈しみ、その生を精一杯生きているのだ。

だからこそ、ここはこんなにも穏やかで優しい。

温かく穏やかな自然に囲まれ、緩やかな時を全身に感じた。

まあ、それはそれとして、だ。


「ここ、一体何処なのよ……」


 胸中を吐露するかのように思わず零れ出た言葉。

小さな草花の自然の絨毯の上に、気が付けば仰向けになって寝転んで空を見上げていた。

目が覚めれば身に覚えのない場所にいたので、少なからず驚きはしたもののそれ程慌てていなかったりする。

多分、いやこれは間違いなく夢なのだ。

記憶をほんの少し遡れば、夕食後入浴しそれから素直にベッドで就寝した記憶が容易く思い出されたから。

だから夢だと簡単に思う事が出来た。それに……。


「姿が前の私だし」


 ゴロンゴロンと数度寝転がれば気が付いた違和感。

確認の意味を篭めて手を空へと翳すと、意味なくグーとパーを繰り返した。

私の意志通り動く手は間違いなく私の、三歳児であるフィアナではなく以前の───椎名結歌であった私の手だった。

右手の甲にある小さな黒子は結歌にしかなかったし、手の大きさも大人のものだ。

風に遊ばれるようにたまに揺れている髪は黒色だし……。

それに服装も、Tシャツにジーパンという前の世界の服装だ。

実際鏡で自分の顔を確認していないから『間違いないか?』って聞かれると絶対とは言い切れないけど。

それでもフィアナの姿をしていない以上、幾つか見覚えがある点から想像するなら私は以前の私としか答えを導き出せない。

これで全然違う容姿でしたってなると、どこへ突っ込んでいいのか分からない。

いや、夢だからなんでもありか……。

───夢、よね?

これで夢じゃありませんなんて言われた日には、本当立ち直れないわよ。

思わず辿り着いた考えに慌てて頭を数回横に振った。

嫌な思考を振り落とすかのように。

何時までもじっとしているから、変な考えが思いつくのよ。

ここは何も気にせずに、とりあえず夢を堪能する事にしよう!

私はそう決めると、勢いをつけて起き上がった。


「さぁ! レッツ冒険ター……」


 イムと続くはずの言葉は、残念な事に音となって紡がれる事はなかった。

ドキドキやワクワクといった楽しい気分は一気に霧散し、それどころか一歩、意気揚々と足を踏み出した格好で硬直をした。

なぜならば進行方向、距離にして五メートル程先に生まれてこのかた目にした事のない、それはそれは大きな生物がいたから。

一体何時の間に……。

よく気付かずに考えに没頭出来たものだと、自分を褒めるべきなのだろうか。

己の愚鈍さに頭を抱えたくなるところだけど、ここは出来たら目が覚めるまで気付かずにいたかった……!

目の前の生物はどうやら眠っているようで、二つの目は綺麗に閉じられている。

眠って、いるのよね……?

流石に起きているかどうかなんて調べる勇気は持ち合わせていない。

例えそれが夢の中であっても。

私は恐々と、目の前の大きな生物を観察した。

本当は脱兎の如く逃げ出したいけど、変に音を立てて目が覚められても困るし、ほんの少しぐらいなら観察してもいいよね? なんてちょっとした好奇心が沸き起こったからだ。

見るからに固くびっしりと生え揃っている鱗に、四本の手足の先についている爪はそれぞれが太く、しかも鋭く尖っている。

爪も鱗同様固そうで、容易く折れる様な気がしない。

こんな爪で襲われたら、間違いなく一撃死だ。

固く閉じられている──と、信じたい──口の中は恐らく鋭い牙が生えているのではないだろうか。

鋭い爪を持っているのに歯が丸いなんてそんな事ないだろう。

だとすると、肉食?

確認出来ない為、絶対とは言い切れないが一生確認する事がなくても私は一向に構わない。

いや、それどころか謹んでご辞退申し上げる。

私は食料になる気など更々ない。

それが例え夢の中であっても。

目の斜め後ろ上にある、身体に似合わず小さな二つの耳は時折ピクリと動いているような気がするのは───目の錯覚であってほしい。

そして頭の上にあるのは、瘤? にしては形がおかしい気がするけど、なんだろう、あれは?

そのまま視線を滑らせる様に背中へともっていけば、背中の上にこんもりと見えるあれは───羽? いや、翼なのか。

ちゃんと折りたたまれているみたい。

大きな身体をこじんまりと丸めて眠っている様は、見る人が見れば『可愛い』なんて言うかもしれないが、命の危機を感じずにはいられないこの状況ではとてもそうは思えない。

身体と同じ様に鱗で覆われている太い尻尾は、丸めている体の前にまるで投げ出されているかのように無造作に置いてある。

その余りにも無造作な様子に、尻尾は急所ではないのだろうか? と、思わず心配してしまったほどだ。

そんな事を考えた自分に自身の命の方が遙かに危機的状況なのに暢気なものだと、苦笑を浮かべてしまったけど。

しかし、この姿……どこかで見た事があるのよね。

一体どこだったかなぁ……。

こんな全身金色の生き物、流石に一度見たら忘れられないと思うんだけど……。

うーんと考え込んでも金色の生き物なんか蛇ぐらいしか思い浮かばない。

系統的には似ていない事もないのかもしれないけど、残念ながら翼や羽は蛇には生えていない。

それ以前に手足がないけど。

第一、こんな大きさで翼が生えた生き物なんか、思い付くとしたら恐竜ぐらいしかない。

ん? 恐竜……?

その言葉に自分の中でカチリと何かが符号した。

色は違うけど、でも姿形は似ている。

最近見たアレに。

もしかしなくても、やっぱり……。


「竜?」


 驚きと共に思わず声に出してしまったけど。

いやはや、まさか絵姿を見せてもらったその日に夢で見るなんてよっぽど印象深かったんだろうなぁって、人事じゃなく私自身の事だった。

でもなんで同じ色じゃなかったんだろう?

私の無意識下では、竜は金色じゃないと嫌だとでも思ってるんだろうか? 

───なんて考えても仕方ないか。

だって夢だし。

しっかし、夢の中で夢について考えるなんて可笑しな話よね。

クスリと笑いつつ思考を中断して、意識を竜へと戻した。

戻したのだが……。

その視線はバッチリと、これでもかというぐらい見事に竜と合っていた。

嫌な事に。

瞬間全身に緊張が走る。

大きな二つの目はパッチリと開いておりその瞳は、肉食獣を思い出す───、例えるならライオンと言ったところか。

瞳の色は身体と同じ金色で、これが命の危機を感じないならもっとじっくりと見たいと思えるぐらい綺麗なのだけど。

な、なんで起きているのよっ!

さっきまで綺麗に閉じられていたのに!!

もしかして、さっきの私の呟きの所為!?

あー! 馬鹿馬鹿私の馬鹿っ!!

思いっきり自分を殴りたい心境に駆られたけど、今はそれよりこの危機的状況を打破する事にしないと。

そうして私が一人で焦っている事になんか気にも留めず、竜はゆっくりと起き上がりだした。

視線を一切逸らす事無く。

ここで少しでも視線を外してくれたら、全身に走る緊張は若干緩和されたのに……。

私は蛇に睨まれた蛙のように動く事など出来る筈もなく、ただ竜が完全に起き上がる姿を見ているしかなかったのだった。

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