第九話 敗れて尚燃え尽きぬ
「時に狼 お主は何故闘う?」
「家族の為だ」
「あーつまらんもういい そりよりお主の罪が気になる 過去に何をしたんじゃあ?」
悪戯に笑うヘル
「教えろ どうせ死ぬんじゃから」
「いいだろう 冥土の土産にしてやる お前を殺したらな」
両腕を連射式の銃に変形し撃つ
「ここで終わらせる気じゃな!」
鎌による斬撃で弾を切り裂いていく しかし距離を詰めなければ斬撃は当たらない 楽に避けれるほどに距離が空いている
(とは言え このままでは闘気を使い切るか出血多量で死ぬ なら…)
イドラは覚悟を決める ヘルの絶対領域へ 両脚を散弾銃に変え撃った反動で前に飛び出る
「覚悟を決めたか!切り刻んでやるわ!」
イドラが選んだのはシンプルで狂気の沙汰 威力では散弾銃の方が強い だから近づいて撃つ ある程度のダメージを負っても
斬撃を受けながら前に前に出る ヘルもイドラの策略に気付く しかしヘルもまた 一歩踏み出す 狩られるのではなく狩る為に 逃げたら狩られるのが掟 だから退けない
「決着じゃあ!イドラ!」
「あぁ そうだな」
二人の距離はあと3メートル ヘルは斬撃を最短で回収出来る距離 あと三歩近付けば致命傷を与えれるイドラ 互いの血は 心臓は 高鳴っている これでもかと言わんばかりに
「ギャハハハ!」
踊るように舞い射程内に入れぬよう鎌先の届く範囲で闘うヘル 極力躱しある程度のダメージを許容し前に出るイドラ 体が切り裂かれ血が飛び散る 腕を変形した厚い刀で受け止め 前に 前に
一瞬ピタリと空間が止まる 射程距離だ 右腕は既に散弾銃に変形している ヘルは反射的に鎌をイドラの腕に向けて振る 切り落とす為に
そして切り裂かれるより早く 散弾銃は放たれる
「ぎゃあ…」
致命傷を受けるヘル しかし位置は狙う方向よりやや下 それはイドラの変形してない肘の部分が半分切れているからである
「クソ…少し遅かったか」
腕を抑えその場に倒れ込んでしまう 目先には大の字に倒れている姿が 体から血が溢れ咳き込み血を吐いている
「ギャハハ…動けん 少し休んだら逃げるかのぉ 痛み分けじゃ 狼」
目は獲物を狙ったまま離さない それはイドラもまた同じ
「いやここで殺す」
左腕を 闘気を絞り一丁の拳銃に
「ガハハ…そうだな わしも…」
鎌を杖代わりに上半身だけ起こす
「最後の一振 かけてみるのもいいかものぉ」
また空間が止まる 互いの視点が鋭く交差する中でイドラが一つ溜息をつく
「俺は少し休む 回復するまでそこにいたらお前を殺す」
「ガハハ そうさせてもらうかのぉ」
イドラVSヘル 引き分け
「鏡の理屈はもう分かってんね」
「僕 天才だから」
「分かって尚 対処しきれんのが鏡や」
鏡像は実物が鏡の中に全て収まる場合鏡像となる 鏡の枠から出たら鏡像は消える
「対処出来ない?面白い!ゲームは全攻略してこそ いざ!」
「ほなペース上げてこか」
感覚の狭い鏡 鏡像との挟み撃ち
(鏡像と本体はリンクしているなら…)
しゃがんで本体の攻撃を躱しカウンター のはずだった
「ッ…!」
「攻略 出来へんやろ」
地面から急に鏡像のナイフ出てきて肩に突き刺さる 鏡が真上に ナイフを上空に投げ反射 地面下から鏡像のナイフがレオを襲った
「でも また一つ攻略の手掛かり…鏡像が当たったら実物もそこで止まる そして止まったら鏡像は消える」
鏡像は消え空中にあったナイフが落ちてくる それを掴み取り懐に忍ばせる
「良かったやん で 攻略できそう?」
「難易度が高い程楽しいってもんさ」
「その前に命が持ったらええな」
「攻略してみせるさ!」
走って近距離戦に持ち込む 後ろに下がる満月 その間に鏡が一枚 レオは瞬時にしゃがんだ 自分の真後ろに現れた鏡像の蹴りは空を切る
「アハッ♪あっぶねー」
泡で足元まで滑り込む そのまま突き上げるように蹴りを叩き込む しかしここで入れ替わり
「入れ替わると思った」
「おぉ…やべっ」
入れ替わり先には既に泡が足の裏に配置されていた 体が後ろに倒れる間に近づく
「なんてな」
真上に鏡を一枚 入れ替わり そのままパンチを空ぶったレオに鏡像と本体のダブルパンチ
を喰らう前に闘気を拳に纏い鏡像を破壊 そのまましゃがんで攻撃を躱す
(このガキ…センスあるわ それに)
「ははっ 今の動きは良かった」
ニッコリと笑っている 戦闘狂だ
「時間かけるとやられるわ」
鏡を複数 レオとの間にも後ろにも 長距離にも 入れ替わりを駆使し闘うが徐々に適応していくレオ
しかしそれと同時にレオのダメージも蓄積していく だが満月もまた防戦一方になっている 人々のいる狭い町を家中を駆け回る
「どうしたのお兄さん 逃げ腰になってるよ」
「ガキが ただ逃げ回っとるわけないやろ」
逃げながら集めたナイフを上空にばら撒く 鏡の反射で地面下から鏡像のナイフが
(大丈夫 鏡のない場所に行けば…)
「残念」
避けた先には鏡像の車が一台 目の前に
「しまっ…」
跳ねられて吹っ飛ばされる 辛うじて闘気を纏いダメージを最小限に抑える
遠くから来てた車を反射 運転手は急に車が凹んだため驚いている
「お前みたいなやつはこの世にいたらあかん 死ね」
壁にぶつかり項垂れるレオ 鏡像の剣でトドメを刺しに来る
「ん"ん"ん!!!」
刺される前にギリギリ回避 必死に作った 大量の血を含んだ泡を破裂し目眩し
「うわっ なんや 血か!?」
先程のナイフを太腿に刺す
「ッ…!」
片膝が崩れる満月 蹴りを入れ追撃を行おうとするが…
「ありゃ…もう立てないや」
そのまま気絶してしまう
「ほんま 頭の回る子や 今の一瞬で…いやいい はよトドメを…」
鏡像の剣が振り下ろされる…
「闇剣」
闇の剣 スタンダードタイプ 重力の発生した場所は少し空間が小刻みに揺れている?ように見える とはいえ見えにくい
「ふぅーーーー…」
呼吸を整え右足を踏み出す が 左足が重くて転けた
「這い蹲るのが趣味なのか?」
このクソアマ イライラさせやがる
「一生私には近づけない これが重力だ」
重力はかなり強力だ そして急に現れる 見えてからではもう遅い 相手が出す位置を予想しなければならない
(まず私がやる事 ①とにかく走り回る②更に走り回る③闇を付与+僅かな闘気の付与で更に走り回る これに尽きる!)
限界まで加速する 左右に動きながら相手の周りを駆け回る
「速いな その足で逃げんなよ」
「誰が逃げるかよ」
闇剣で擦り傷を与える
(クソッ 浅かったか もう一回…)
縦横無尽に動き回り右を向いた瞬間左側から攻撃に移る
「うぉぉ!!」
また再び地面に伏せ これが結構痛い
「言っただろう 私には近づけない」
頭を砕こうと右足を上げ下ろす
「ぬぉぉぉお!」
気合いで頭だけ右に逸らす スレスレ真横で地面がメリっと凹む
(足で踏んづけただけでそんなめり込むかよ!?)
直ぐ様その場から離れ体勢を立て直す
「そう言えばイドラ言ってたな」
ファニィ・アルテミア・ムーンハートと闘う前 アース王国での修行中…レオは木陰で涼しい顔して寝そべっている
「桔梗 固有能力ってのは核だと思っていい あくまで例えだがな」
「核?」
「例えば俺の核は武器だ 主能力が核を軸とした体の武装化 副能力はその副産物みたいなものだ」
「なるへそ じゃあフルファイルだと核が賭け 主能力がそれを具現化して遊ぶ 的な?」
「そんな感じだ そして今から大事な話をする 闘う上で相手の核を知る事は最重要事項と言っていい」
「ふむふむなるほど それは何故」
「真面目に聞けよ 核を知る=闘いのパターンを考えれるからな 仮に桔梗 敵の核が泡 主能力は何と考えられる?」
バリバリレオの事じゃねぇか 敵って言ってるよこの人
「私だったら泡を出現だったり 泡を分裂したりとか考えるかな」
「そうだな そしてどんな攻撃パターンをしてくると思う?」
「泡で滑ったり 泡でツルツルしたりヌルヌルしたりかな」
「そうだ 幾つものパターンを考えろ 手の内を相手が晒したのならば確実に頭に叩き込んでおけ」
「そんな事分かってるよ ちょっと私の事甘く見すぎ 何が最重要事項だよ」
「いや重要なのは今からだ」
「今からかよ!!!」
「能力の核と共に生きてきた人間はその核に適した体になる 元の世界の研究チームは核の能力に影響され人格まで変わるとも言っていたな 定かではないが」
「それがどうしたのさ」
「泡使いは最初から泡が ギャンブラーは最初から賭け事が出来るか?違う 年を重ね経験し知識を得て使い方を学ぶんだ」
「成程!だからイドラは筋肉質な訳か!銃の重さや反動にも耐えなきゃいけない体になる訳ね」
「一つずつ相手を紐解いていけ そして頭に叩き込め 闘いのセンス 知識 etc 全てを総動員して勝つんだ その点はレオが優れている」
「まぁ〜ねぇ〜」
「ゲッ…レオ起きてたのかよ」
「ゲッってなんだよ!」(原神:パイモン風)
栞那由多 こいつは重力に耐えれる体を持ち合わせている 力は強い だがスピードは遅い 逃げるなって言ったのはスピード勝負じゃ負けるからだ
「イドラ ありがとう 勝ってみせるよ 必ず」
深く深く息を吸い込む 体を揺らし脱力する
「準備運動とは随分余裕だな 宿木」
「お前 よく喋るな」
私のやる事は変わらない ひたすらに駆け回り攻撃を与える 頻繁に重力は使えないはず
「喋れる余裕 無くしてやるよ」
「やって見ろよ ゴミ女」
栞那由多
主能力 重力の檻
形を宿す重力の空間を発現する 大きさの分だけ闘気を消費する
覚醒能力 重力の彗星
重力はより一層強力になる また重力がかかる方向を選ぶことが出来る
第十話 "怒"
覚醒能力とは 激しい感情の起伏が一定のラインを超えると能力が覚醒する 能力の核ごと変えてしまう 過去に覚醒能力を発生させようと悲惨な事件が起きた事も…
(覚醒能力…重力がより一層強くなっている そして重力の方向も変えれる 厄介だ)
走って走って走りまくる 加速して加速する
「私の能力が覚醒したのはフルファイルが死んだ時だ あの時の"怒り"は今でも鮮明に覚えている」
「痛ア゛ア゛ア゛!」
また転けた 地面に沿うように重力が発生している そこに足を踏み入れたら踏み留まりそのまま前にずっこける
(いやアホか私!転ける前に闇で後ろに引っ張ればいい)
追撃が来る前に立ち上がり再度加速…ってあれ?私左に落ちて…ドゴッ…と鈍い音
「おっえぇ…」
脇腹を思いっきり蹴られる 骨が軋む音
「っ…闇槍」
槍を突き出すが武器を今度は落とされる
「くそっ もう一回!」
しかし何度動いても 上下左右に 重力がのしかかる そして重力に囚われる度に私はアザが増え血が流れる 次第に私は青ざめていた 痛みでは無く 彼女の全く変わらぬ冷酷な目に
「どうした 顔が青ざめているぞ」
冷徹で冷酷で冷淡 増える傷と痣と血 心がキュッと締め付けられる
(無理だ…どう動いたって 急に現れる重力に対処が出来ない)
一歩下がって また一歩下がって…どんどん恐怖が満ちていく これが 死
「さっきの威勢はどうした宿木 それともやっぱり逃げるか?」
恐怖で思わず逃げてしまう…結果安直に後ろに逃げてしまう
「逃がすかよ馬鹿が」
「ああっ…うわぁぁぁあ…」
上に浮かんでいく もの凄い速さで
「重力は左右上下 闘気の消費量に比例し大きさや存在時間を伸ばせる」
地面に複数の重力が散らばっている 空中にも 目を凝らしたら見えるが無理だ 走り回ってちゃ対処出来ない
「そのまま楽に逝け」
かなり上空まで飛んだ 急に上がるのが終わった 変わりに下に落下する
「クソッ クソが!高すぎる これは死ぬ!!」
落ちる中で思考を巡らせる 垣間見えた走馬灯 僅かな期間だが楽しかった 私は死にたくない まだ死にたくない やっと 私が 私の人生が 動き出したんだから
(桔梗 お前はもう少し非情になれ)
分かってるよイドラ この甘さは命取りだ
(桔梗ちゃん頭硬い もっと柔らかく ね♪)
レオは天才だからね 私には無理だ
死んだらきっと來さんにも会えない 会いたいなぁ 彼女が朝起こしてくれる夢を見る 今ここで死んだらもう…会えない そうだ どうせ どうせこのまま死んでしまうなら…
僅かでも生き残れる方に賭けてやる
地面に落ちる直前闇が溢れクッションになる
「グゥ…ガァ…ゴロズ…ぶっ殺…」
30%までは制御できる30%までは それ以上は感覚が蝕まれ制御が効かなくなる 特訓中それが感覚で分かった
「あの時の…!」
ゆっくりと立ち理性を失った怪物を見て 栞の脳裏に再びあの日が浮かぶ
「またお前はそれに頼るのか 本当に下衆の極みだな 宿木!」
「ガァァァア!!!」
衝撃が生まれるほどの雄叫びを放つ
「躾のない犬だ まずはお座りだ」
一方 トドメを刺される直前のレオ 雄叫びで目が覚め真剣白刃取りで抑える
「ぬぉぉぉぉ!」
「クソッ 大人しく斬られろや」
「ぐぬぬぬ…嫌だ!」
一発の銃声が満月の距離をとるキッカケになる イドラだ
「おやおやイドラ君 あの鎌女 さては逃げたな?」
「ああ 動けるようになった途端逃げていったぞ お前達の負けだ」
「どうやろ 君達手負い二人 僕でも殺せそうやけどなぁ」
「レオ立て まだやれるだろ」
レオの手を取り立ち上がらせる
「イドラこそ 途中へばんないでよね」
手負い2名VS嘘月満月 再び
「ガァアァアァアァ!!!」
目の前の敵 獲物を 骨まで喰らい尽くす為に 闇は主の主導権を握り暴れ回る
「お座り」
真っ直ぐ突っ込んでくる安直な行動に重力を被せる
「ヴゥ゛ゥ゛…」
両膝から崩れその後両手を地面に着く 闇がウネウネと溢れ動く 重力が発生してる最中 ゆっくりと立ち上がる
「お座りもできないのか 悪い子だ」
再度重力をかける 重力が消えるその一瞬を抜け出し突っ込んでくる
「なっ…」
闇が触れた寸前で重力を発生
「チッ…化け物が」
再度膝をつく化け物 足元から闇が重力の外に這い出ている それを視認した頃には闇の針が体目掛けて延び突き刺す
「っ…!」
急所は避けたものの腕や足 肩に針先が貫く
「お前えぇ!!!」
桔梗の顔をした怪物はニヤリと笑った その表情は栞の火に油を注ぐ行為だった
「ぶっ殺す」
蹴り飛ばし針を抜く そのまま上空に 先程より高く上空に持っていく が 闇で地面に根っこのように突き刺し留まっている
「そんなに上空が怖いか?ならもっと高くしてやるよ!」
地面ごと宙に持ち上げる 怪物は為す術なく体を闇で覆い落下に備えた防御形態に移行
「いいのか?その程度の護りで」
遥か上空 今度は下に叩きつける為に重力を下にかける
「堕ちろ」
物凄い速さで落下し地面に衝突 衝撃波が発生 怪物は動かない 歩いて近付く栞 近くまで来た途端怪物は体を大きくし包み込むように襲いかかる
「汚い奴だな」
後方に重力で引きずられそのまま家諸共 ぶち抜いていきやがて崖に放り投げられる
「死ね」
壊れた家の中にあった槍を手に取り重力を使って化け物目掛けてぶん投げる
腹部に槍が貫き桔梗を纏っていた闇は海に落ちると同時に消え そのまま深い海の底へ沈んでいく
「ここが墓場だ 宿木」
勝者 栞那由多
宿木 桔梗
???闇