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War of emotional  作者: KAREHA
1/10

第一話 僅かな温もり




語り手 宿木 桔梗


━━━━━━━これは つまらない物語━━━━━━




1500××年○月○日



「朝――」


カーテン越しに差し込む日差しを手で遮りながらもう一度眠ろうとした

そのとき階段を上ってくる足音が聞こえた 続いてドアがキィーッと音を立ててゆっくり開く


「きーちゃん朝だよ〜 ほら起きて〜」


「……おはよう來さん」


「おはよう! 朝ごはん食べよっ☆」


私は 宿木 桔梗(やどりぎ ききょう)

私のことを“きーちゃん”と呼び 太陽にも負けないほど明るい笑顔を向けてくる彼女の名前は

鬼灯 來(ほおづき らい) ――私の母だ

彼女の料理はいつだってとても美味しい


「きーちゃん 今日天気いいからさ お散歩行かない?」


「……うん 行く」


口ではそう答えたけれど本当はあまり気が進まない

私はある出来事をきっかけに外に出るのが怖くなってしまった

そんな私を彼女は毎日のように色んな方法で少しでも元気づけようとしてくれている



この世界では人は皆 生まれながらにして能力を持っている

「固有能力」と呼ばれる主能力 稀に「副能力」も併せ持つ者がいる

そして ある条件を満たした者だけが「覚醒能力」を手にするらしい


覚醒能力を得た者には「世名(よめい)」が与えられる

少し中二病っぽいが要するに“覚醒者”としての称号のようなものだ(特に意味はないらしい)

とはいえ「世名を持つ者」=「覚醒能力者」――それだけで猛者であることの証明になる


そしてそんな世界で稀に“固有能力を持たない者”が生まれる

それが――私だ


ここでひとつ余談

能力を持たずに生まれた者の約四割が自殺する

理由は単純 周囲と違う 拒まれ笑われ軽蔑され・・・etc死にたくなるには十分なのだ


久しぶりの外出 私の曇った気分とは裏腹に透き通った空だ


「いい天気だねぇ〜」

「うん……あっ……」


視線の先に映ったのは魔法小学校に在籍していた頃に私を虐めてきた三人組

心臓がバクバクと高鳴る 思わず目を伏せ來さんの手を強く握った

幸い私は來さんの右側に隠れていたためか――彼らはそのまま通り過ぎていく

ホッと胸を撫で下ろした その時


「ん? おーお前 桔梗かぁ!?」


男モブαが振り返る

(ゲッ……なんで気づくんだよ)


続いて女モブβ

「うっわ! ひっさしぶり〜!」


「あなた達……誰? 学校はどうしたの?」


三人目 女モブXが口を開く

「がっこ? サボり〜! てかさ二年で辞めた奴に言われたくねーし マジウケるんだけど〜w」


その言葉を聞いた時 來さんの顔つきが変わった

「あ……あっ……」

私はキョドりながら立ち尽くす


「行くよ」

いつもより強く私の手を引きこの場から離れようとする


「おい どこ行くんだよ……っと!」


男が來さんの肩を思いっきり引き寄せ 私も巻き込まれる形で倒れ込む

「へぇ……お前の親 いい体してんなぁ」


男は彼女の胸元を覗き込み 上着を乱暴に破く 豊満な胸が露わになった

來さんは頭を打ったのか 意識が朦朧としているようだった


「あっ……や やめろ!」


女モブ二人が私を抑え込み不快な笑い声を響かせる


「お前らよくやった さて……見せてもらおうか」


男モブの手が彼女の胸に触れようとしたその刹那 私の中で何かがブツンと切れた音がした


「やめろっつってんだろッ!!」


ドロリ――と黒い闇が私の体から溢れ出す

周囲は一瞬で闇に包まれた


闇の中から聞こえてきたのは男と女の断末魔━━━━━━━━━━━━━━━


意識が戻る


「ん……」

「きーちゃん! 大丈夫!?」


彼女が心配そうにこちらを覗き込んでいた 破れた上着を胸元にかけ隠している


「來さん……あの三人は……?」

「私の能力で帰ってもらったよ」


鬼灯 來 彼女の能力は 導く者(アザムクモノ) 相手に幻覚を見せ 思考や行動を誘導する力 あの三人には何かしらの幻を見せて追い払ったのだろう


「私は……何をしたの?」


叫んだ記憶はある だがその後の記憶は曖昧だ なぜか気分は清々しく晴れやかだった

――徹夜明けにテンションが上がってよくわからない高揚感に包まれるあの感じ

その清々しさに不快感を覚えた


「何もしてないよ」


彼女はいつものように微笑む

でもその笑顔にどこか違和感があった


「帰ろっか」

「うん……」


赤ん坊の私を拾って育ててくれた彼女を疑うなんて気が引けた

だから私は何も言わず 彼女と帰路についた


地面には――赤黒い染みが広がり蝿が群がっていた事も知らずに




この世界では毎年5月1日 0時0分1秒――

神が神城跡(かみしろあと)と呼ばれる建物に降臨する

そこは神が年に一度のみ訪れる いわば玉座の地


神はその場所で神言(かみことば)を発する

それはまさに神の言葉であり お告げである


私から言わせれば――茶番だった だが民は真剣だ


各国の代表たちは神城跡に集い 神の到着を片膝をついて待つ

民は神城跡の方角を向き それぞれのやり方で敬意を表す


――静寂の中 どこかから階段を降りる音が響いた


その足音は落ち着きと威厳を纏っていた

まるで“余裕”と“支配”を音にしたような歩調

イスの音 深く腰かけた気配 そして


神は言った――


〈神の権利を求める者たちよ 汝らに告げよう 生涯を賭し 最後の一人となるべく 生き残りの闘争を繰り広げよ 勝者には神の権利を授けよう この試練に挑む覚悟があるならば 汝の内なる魂の炎に触れるがよい 期限は本日まで 汝らが挑戦を決する時だ 汝らの参加を待ち望んでいる〉


そして神は間を置いて告げる


〈されど忘れるなかれ たとえ神といえど 死の理には抗う術なきことを〉




神の声は世界中の人間の脳内に直接響いた 戸惑う者 笑う者 欲に目を光らせる者――

人々はそれぞれ違う表情で それを受け止めた


そして私は――


「はよ寝よ」


驚いた そりゃ驚いたさ でも それだけだった あまりにも自分に当てはまらない 心底どうでもよかった


実力の無い者は 理不尽にふるい落とされて やがて絶望するだろう

私には――落胆すらない


それが当然のことだったから

だから私は ふてくされて イラついたまま眠りについた


数時間後━━━━━━━━━━━━━━━


朝 皮膚が痒い それに やけに眩しい 風が吹いている


「ん……」


目を覚ます そこは――

草が波打つ広い草原 そして私は 素っ裸で寝転んでいた


(……え?)


現実を受け止めきれず五秒ほど考えて もう一度五秒だけ目を閉じた

起きても現実だった


「なんじゃこりゃ!どこここ!?」




神の言葉を聞いた夜――

私は 眠った そして夢を見た




顔に靄がかかっていてはっきりとは見えない けれどスタイルの綺麗な女性 直感が 本能が告げてくる

「これは 私の母親だ」と


母親は私の名前を呼んでいる

でも私は動けない


母親は温もりだけを残していく

でも私は動けない


母親は――泣いていた

私は動こうとしない

私を捨てたくせに……!


口だけが動いた気がする 心の声だったのかもしれない 母親の影に問いかける


「どうして……私を捨てたの?」


「ほ〇〇〇に〇〇〇ね。あ〇たを〇〇〇〇〇……」


言葉は歪んで聞きづらいけれど 意味は分かった


その瞬間 私は願ってしまった

「神の権利によって 私の父と母の過去の記憶を見たい」と


願わずにはいられなかった 知りたかった



私は 目を閉じて――

自らの内なる“炎の魂”に触れた



そして目覚め今へと至る


「……私 馬鹿か?野垂れ死ぬだけじゃん」


見渡す限りの大草原 空を見上げてぼんやりと考える

自分に呆れる いつも衝動的なくせに 変なところで用心深くて

結局 自分のことなんか何もわかってない 本当に自分が嫌いだ


(本当に…)


空を見つめてたその時 草むらから「カサッ」と音がする


「なに?」


音は一つじゃない あちこちから 囲むように複数 しかもどんどん近づいてくる


「なになになになに!?やばいやばい!」


息が詰まる 一瞬だけ見えた白黒の縞模様 豹のようなしなやかな体

図鑑で見たことがある……これは――


「狩りだ……あの模様 シマガラトラ!」


シマガラトラ――

豹に似た身体に縞模様 群れで獲物を狩り 肉も骨も食い尽くす害獣

主に家畜を襲うが 空腹時は何でも襲う獰猛性


私は全速力で走り出す


「あああぁぁっ! こっち来るなぁ!!」


必死に逃げる でも草が足に絡まり うまく走れない 足裏に石が刺さって痛い しかし命の危機を前にその痛みは些細な事だった

「ハァッ…ハァ……ッッハァッ」

息が切れてくる 弱っている獲物を集団で連携を取るように囲われる 横から一匹が襲いかかってきた なんとか避けたけど転んでしまう


「うっ……くそっ ふざけんな……!」


体が限界を迎える 這いずりながら逃げようとする

今度は正面からヌッと現れる 喉に絡むような唸り声を上げて


心臓がキュッと音を立てた気がした

(ああ……終わったな 案外呆気ないもんだ)


最後の最後 塞いでいた気持ちがこぼれた


「うぅぅ……死にたくない 死にたくない!!!誰か助けてぇ……!恋も!キスも!手も繋いでない!エッチもしてないぃ!美味しいものも食べてないぃぃ!!」


我ながら意味不明すぎて 何言ってるか自分でもわからなかった


その時 空気が変わった

一発の銃声 弾丸がシマガラトラの眉間を撃ち抜く


「へ……?」


続いて二発 三発……合計十五発

すべてが正確に シマガラトラの眉間を貫いていく


呆然とする私の前に 一人の男が現れた


「おい……お前 こんなとこで何してる?」


これがホトユリ・イドラとの出会いだった


(なっ……なにこの顔面偏差値……!白馬の王子様じゃん!)


普段から人の顔色を伺ってたせいか 私は観察力だけはあった


(身長……180以上 服越しでも分かる割れた腹筋 紫の瞳に つり目髪は……)


分析していると――


「おい 聞いてるのか」


「あ いや……起きたら……裸で……」


男は次の瞬間 私の背後に回り銃を頭に突きつける


「お前 プレイヤーか?」


(プレイヤー!?殺し合いに参加した人の事か?なんで分かった!?)


「俺も 廃棄された小屋で目覚めた 裸でな」


あーもう最悪だ…口は災いの元 私自身が災いみたいなもんか 腹を括った


「それで……殺すの?」


「いや 俺の下につけ お前みたいなのは敵の注意を引かずに動けるし 裏切ったらすぐ殺せる」


一瞬 グサッと来た 言い返そうとしたその時――


「神の権利が目的か?それとも 遊び半分で来た馬鹿か?」


私はついにブチ切れた


「うっせーよ!ばーかばーか!死ね!ファッ〇!!この顔だけ神に愛されイケメン野郎がッ!!」


子どもよりも子どもらしい頭に浮かぶ限りの悪口を連発した


「うるさい!!」


銃の柄で殴られ 私はそのまま気絶した


「品の無い……騒がしい女だ」




ホトユリ・イドラ


主能力 武器人間

体を本人の把握する武器に変形する 変形した武器のステータスに応じて闘気を消費する

副能力 地雷虫

地面に這う型と空中型 どちらも複数出現可能 衝撃や自身のタイミングで小さな爆発を起こす




第2話 この世界

私は今 埃をかぶった木造のボロ小屋を掃除している

なぜかって?それは──


 


気絶してから数時間は経っただろうか 目が覚めると 後頭部がズキズキと痛む


(漫画とかで後ろから殴られて気絶とかあるけど…あれマジなんだ)


「イテテ……ここは?」


見回すと 窓が一つ 外では草が風に靡いている 中は古びた木造の部屋 ベッドは今にも壊れそうで ギシギシとうるさい


「……って 裸じゃん!?私 裸じゃん!?!?」


もしかして──見られた!?私の私!?包帯巻かれてるし!?

ってことは……ってことは──!??


一人でよからぬ妄想をしていた時 扉が開いてあの男が戻ってきた


「起き──」


「変態!えっち!!」


瞬きの間に 彼の腕が銃に変形 赤いレーザーが私の眉間を正確にロックオンする


「すみませんでした!!ご手当て 誠にありがとうございました!!」


即土下座 命あっての物種だ 彼はひとつ溜息をついて自己紹介をくれた


 


「俺はホトユリ・イドラ 元の世界じゃ辺鄙な村の出身だ……お前は?」


「わ 私は宿木 桔梗 えっと…シィズル国出身えっと」


「お前の能力は?」


「い 言わない!バカじゃないし!」


「……なるほど じゃあ死ぬか?」


「話します!もちろん喜んで!その代わり 私と言う生物の話もちょっと聞いてください!」


 


私はこの世界に来た経緯 元の世界でのこと 自分がどういう人間か──できる限りかいつまんで話した


「悪かったな 色々言いすぎた」


「いいよいいよ 慣れてるし!」


彼は 思ったより素直でいい人だった 少しだけ彼の過去のことも聞いた

──家族のためにこの殺し合いに参加したらしい


 


「えっと……ここは 私のいた世界だよね?」


「知らん だが……多分“神が創った世界”だ」


「神が……創った……世界?」


「おそらくだがな “参加者”は裸でランダムにこの世界に配置されたんだろう 俺はそれをプレイヤーと呼んでいる」


「ふーん……で このボロ小屋は?」


「俺はこの近くで目を覚ました お前の衣服も この小屋にあったものだ」


ボロボロの布切れ一枚の装備……とりあえずパンツ欲しい あとブラ


「これからどうするの?」


「この世界の情報を集める 他にも 衣・食・住を整えなけらばいけない まずは命を救った分働いてもらう」


「……私は 何をすればよろしいでしょうか」


 


──というわけで今 私はボロ小屋を掃除してる 玄関の扉が軋んだ音を立てながら開いた 彼が帰ってきた


ホトユリ・イドラだ



「おかえり えっと……イドラさん?」


「呼び捨てでいい 俺もお前を桔梗と呼ぶ」


そう言って彼は 調理台に大蛇とウサギをドンと投げ置いた

ついでに どこからか調達してきたらしい──私の服も置いていく


「うわ 蛇……よく持てるね しかもデカい ウサギまで……これやっぱ食べるんだよね?」


「可哀想か? それとも“上品なお食事”じゃないと不満か?」


「いや別に でもさ いただくものは大事に扱わないと」


彼は何とも言えない顔でこっちを見る

(……悪かったなって顔してる)


「あと 服 ありがとう」


彼は黙々と蛇とウサギを捌き薪をくべ火を焚く 手際よく下処理を行い焼いていく 最後にスパイスのようなものを振りかけ 食卓に並べる


ぶつ切りにした肉を皿に盛り 私に差し出す それから小さく呟くように──


「いただきます」

私も続いて

「……ごはん ありがとう いただきます」


正面に座り初めて蛇肉と兎肉を食べ始める あまり抵抗は無かった 黙々と食べるイドラ 私も少し躊躇いながら口に運ぶ……気まずい


「桔梗 これからお前は 俺の下で働いてもらう」


「私が死なない程度に扱ってね……どうせ死ぬなら できるだけ悔いなく死にたいし」


「頑張れよ 桔梗」


「よろしく イドラ」


 


今日の会話はこれだけで淡白に終わった こうして私たちの “殺し合う世界”での生活が始まった


 


この世界で目覚めてから およそ3ヶ月が経った 今は夏 季節の移ろいは 元の世界とほとんど変わらない

私はこの世界に 少しずつ慣れてきていた


イドラとは 意外と上手くやれている


 


今日の献立は 鴨肉と米


「ねぇ 神言(かみことば)の件だけど 隠れて寿命で勝つってパターンもアリだよね?」


「そうだな」


「それか 片っ端からこの世界の人間殺してくとか?」


「どうだろうな」


「てかさ 神様でも死には抗えないんだって聞いて なんか“神様”って 皆が想像してるような存在じゃないんだなーって思った」


「ああ」


「……ねぇ なんでそんな素っ気ないわけ?」


「恐らく何かが起きる 皆が殺し合うように仕向ける“スパイス”が加えられるはずだ」


「その根拠は?」


「焼いた肉だけじゃ味気ないだろ そこにスパイスを加えるんだよ」


(……ああ 肉の話ね ほんと肉好きなんだな)


──それくらいしか 感想が浮かばなかった


 


私も最近は ちょいちょい外に出ている


普通に国があって 村があって 店があって──

“創られた世界”とは思えないくらい普通の“世界”だった


 


「桔梗 外に出るぞ 視察だ」


「りょーかい」


2人で出かけることもある

狩りで手に入れたものを売って 生計を立てている 今日は食材の買い出しだ



「ねぇイドラァ これ買っていい?」

目を輝かせながら チョコクッキーを差し出す


「ダメだ」


「ケチドケチ! けっこう仕事頑張ってるのに!」


「生計立ててるのは俺だ」


「その言い方 嫌われるよ?」


彼はめんどくさそうに溜息をつき 渋々と──


「……分かった いいだろう」


「ありがと♡」


 


帰り道 クッキーを頬張っていると──


「ねぇ そこのお兄さんとお嬢さん」


糸目の男が話しかけてくる いい面だ


「誰だお前」


イドラは誰に対しても 変わらず素っ気ない


「少し あっちで話せるかな?」



人気のない場所へ連れてこられた

そこは何もない荒地だった 乾いた風がヒュウと吹き抜ける


「初めまして 僕の名前はフルファイ 賭け事が大好きなんだ どうぞよろしくね」


そう言って 男は爽やかな笑顔で握手を求めてきた

私も応えようと手を出しかけた その瞬間──


「桔梗!触れるな!」


イドラの鋭い声に驚き ギリギリで手を止める


「な なに!? どうしたの!?」


「そいつ 透明な薄手の手袋をしている……その手袋 何を塗ってる?」


確認すると手袋が濡れているのがわかる

フルファイルは笑みを崩さず ゆっくりと手袋を外した


「あ〜あ 残念 君ぃ 鋭いねぇ これは“ドクシロン”浅花を絞った猛毒だよ」

私はすぐさま退く

「な……なんてことするの!? もしかして あんた……プレイヤー!?」


“浅花”──紫の綺麗な花

その花を絞ると猛毒“ドクシロン”ができる 皮膚に触れただけで 放置すれば死に至るほどの毒 解毒剤がなければアウト


「あー プレイヤーって呼んでるんだ なるほどね そう 正解」


頭をかきながら間延びした口調で喋る

しかし その笑顔の奥の瞳だけは一切笑っていなかった

その目を見て ゾワッと寒気が走る


──何がこの世界に慣れてきた だ!

ここは “殺し合いの世界”なんだ……!!


「女の子は傷つけたくない主義なんだけど……この世界に来たからには仕方ない 死んでもらうよ」


「なら まずは俺を殺してみろ そんな汚い手でしか殺せないのか?」


「男は受け付けてないんだよねぇ 賭け事(ギャンブルズ)!」


パチンッ と指を鳴らす

瞬間 視界が歪み 巨大なドームが出現した 色とりどりの光が空間を覆う


「……えっ 何これ!? ここ……カジノ!?」


「桔梗 落ち着け これはこいつの“能力”だ」


「これが……能力……」


ド派手なカジノの空間

イドラとフルファイルが対面して テーブルにつく


「ようこそ 僕のカジノへ」


「お前の能力は見たまんまだな おそらく 賭けに負けたらペナルティを与える能力……さっさと始めろ」


「ふふふ 焦らない焦らない」


頭上に浮かぶパネルがクルクルと回転し──

「ババ抜き」で止まった


「ババ抜きね じゃ ゲームスタート!」


イドラの手札には ジョーカーと♤の1

同じ♤の1が フルファイルの手にも現れる


(体……動かない!? 声も出せない……この空間では行動が制限される!? かろうじて 目線だけ……)


「さて 僕が引く側だね どっちかな〜? こっち? それともぉ〜こっち?」


探るように揺さぶりをかけてくる

でもイドラは表情ひとつ変えない 無表情を貫く


(残り時間10秒……賭けが終わるまで見てることしかできないのか……でも イドラすごいな 全然動じない)


「ん〜君さ 今瞬きした時 一瞬目線が右に泳いだよね? 君から見て左──もらった!」


フルファイルが左のカードを取る 引き当てたのは──ジョーカー

「釣られた…やるねぇ」


直後 彼の姿が5秒間消えた カード配置のタイム

そしてイドラのターン フルファイルが姿を現すと同時に右のカードを取る


引いたのは──♤の1


「上がりだ」


「いいね!」


負けが確定した瞬間 カジノの空間は弾けるようにして消えた 行動制限も解除される


「その程度か? ギャンブラー」


「調子に乗るのは早いよ 狼ボーイ」


「お前……」


理不尽な再戦(リ・ギャンブルズ)!」


再度指を鳴らす

再び広がるカジノの空間 ババ抜き さっきとまったく同じ状況


「リベンジマッチだ」


今度は直感に頼る

イドラから見て左のカードを取る


引いたのは……♡の1


「僕の勝ち♪」


イドラが舌打ちする 巨大ルーレットが遥か上空 逆さに出現する 回転し 重力を無視し弾かれた玉が「POWER HALVING(パワー半減)」のマスに入る


カジノ空間が消え 行動制限が解除された瞬間

イドラは反応が遅れ 一発重い拳を食らって吹き飛ばされる


すぐに態勢を立て直し 右腕を銃に変形させ乱射


「危っ……!私に当たるんだけど!!」


「知らん 避けろ」


銃弾はフルファイルの肩や腕をかすめ 次第に傷が増えていく


「それが君の能力か なかなか物騒だ」


(銃が重そう……さっきの能力 “パワー半減”のせいか)


「蜂の巣にしてやるよ」

不敵に笑うイドラ


(……いやいや 完全に私のこと忘れてない?)


そう思いながら 私はとりあえず距離を取って見守ることにした

イドラとフルファイルの戦いは 徐々にヒートアップしていく




フルファイル

主能力 賭け事(ギャンブルズ)

指を鳴らすことで 自身を中心に広範囲の“カジノ空間”を展開 選択した1対1の相手と強制的にギャンブルを行う 勝利時 自身にバフ・相手にデバフをルーレットで付与 敗北時 能力は即終了 ギャンブル中は攻撃不可 また空間内の第三者は賭けが終わるまで行動制限される


副能力 理不尽な再戦(リ・ギャンブルズ)

賭け事(ギャンブルズ)で敗北した際 一度だけ再戦を強制できる ただし再戦にも負けた場合 しばらくこの能力は使用不能となる


特徴 身長172cm 糸目で真っ黒な瞳を持ち 何にでも賭けたがる生粋のギャンブラー 飄々とした口調の裏に冷徹な思考と好戦的な性格を隠し持つ














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