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 「ぼさっとしてんな!」キリギリスの後ろから声がした。そしてカサカサと草のこすれる音。何かと思い、そちらを振り向くと、黒い、自身とよく似た虫が、キリギリスのほうをちょこっとした目で向いているのだった。「おい、そこのお前! 早く逃げないとヤバいぞ。やつに捕まったら、ひどい目見るぞ!」


 「君は?」


 「コオロギだ。来い、俺のねぐらに案内してやる」


 キリギリスが何かに気づいたようにコオロギに呼び掛けた。コオロギが上を向くと、先ほどまで木の枝に止まっていたはずの百舌(もず)が、すぐそこまで迫ってきていた。キリギリスも、この鳥の(うわさ)だけは知っていた。もずという鳥は捕らえた虫を木の枝で(くし)刺しにして保存(ほぞん)しておくのだ。もちろん、彼はそんな死にかたはしたくない。「隠れろっ!」コオロギが叫んだ。そういうとコオロギはサッと音を立て、素早くその場から姿を消してしまった。虫たちの中にはまるで木の葉にでもなったように音を消してしまう連中がいる。コオロギもその一匹だ。


 百舌がおり立ったのは、キリギリスからそう離れていない位置だったが、どうやらキリギリスには、まだ気づいていないようだった。キリギリスはもたもたしながら、ぴょんぴょん跳ねて、鳥から距離を取ろうとした。百舌がすぐにそれに気づき、とっとっと、と跳ねるような動きで、彼のもとへやってくる。


(にげろ。逃げるんだよ。)草かげからコオロギが手を振ってキリギリスに合図(あいず)する。だがもう遅い。キリギリスはそう、思った。


 それからは一瞬の出来事だった。空から弾丸のように大きな鳥が落ちてきたかと思うと、それが爪を使って、百舌をさらっていった。百舌は空高くつれさられ、地面にはぽっかり血のあとだけが残されていた。



 陽が沈み、空にきれいなお月さまがのぼると、コオロギはついて来いとばかりにキリギリスの先に立って走り出した。空からは白いものが降り始める。つめたい何かだ。コオロギは昼間よりうごきが鈍くなっていた。あまり物音を立てず、彼は小走りにぴょんぴょん駆ける、少し進むと停まってしまい、それからまた走り出すを繰り返した。だがそのうごきもすぐ止まってしまう。


 「おいらはもうだめだ」


 「こらえるんだ」


 「俺、寒いと動けなくなるんだよ」


 「バイオリンを弾く。何かあったまりそうな曲を……」


 「気休めだよ。楽にさせてくれ。見ろよ。みんな死んでる。じゃなきゃどっか行っちまったんだ」


 「でも、でもっ! 少しでも長くいきたいだろ!」


 「じゃあ一緒に弾くか?」


 「弾けるのか」


 「ああ」


  一年が巡り

 森に冬がやって来た

  寒さに虫たちは倒れ

 木々は枯れる

 短い命

 虫ははかない



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