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 ――ホーホー ホーホー ホーホー


 それから奇妙なことが起こった。四匹の反応が分かれたのだ。


 食う食わないの議論が平行線(へいこうせん)をたどっているのを見て、ここぞとばかりにキリギリスは言った。「俺を食わないなら行くぞ。いいよな?」「ああ待て待て」


 おっかないお奉行(ぶぎょう)(さま)が彼を呼び止めた。


 そこで折衷(せっちゅう)(あん)が出た。致し方ないが、ここはキリギリスの六本の足のうち四本をいただき、各々で分けることにしよう。歌はまあ、それほど悪くなかったし、今日のところはそれで許してやろう。「ということでどうかな?」実に柔和な笑みを見せて、お奉行様はキリギリスに提案した。


 これをキリギリスは受け入れたか? 

 

 うううーむ。キリギリスは考える。いいや駄目だ。足の四本? いやなものは嫌だ! キリギリスは四匹の隙を突くと、空高く飛び上がった。ぴょーんと一跳ねでネズミたちの頭上を彼は越え、闇夜の中へ紛れてしまう。


 アッ逃げたぞ!


 もう我慢(がまん)ならん。食っちまえ!


 おら腹が減ったよう。


 もうじきの我慢だ。あいつの頭をくれてやる。


 おら、むな肉が欲しいな。


 駄目だ。そこは俺が食うんだから。虫はどこへ行った? 俺たちは夜目が効くぞ。


 ぴょん。ぴょん。キリギリスは彼らを撒くように、高く高く、飛び跳ねていった。彼は傍にあった水仙を飛び越えた。月が夜空に、煌々と光っている。「逃げちまうよ!」泣き虫ネズミが言った。


 「逃げてるんだよ!」キリギリスは返した。そして羽根を広げると、運よく風を大きく受け、そのまま川のほうへ飛ばされていった。後に残ったネズミたちは「どこへ行った?」「いねえ!」「あっちに蛙がいたよ!」などと様々に呼び合い、こんどは蛙のほうへ、向きを変え、突っ走っていった。キリギリスは肝を冷やしたが、こんなこと、それこそキリギリスにとっては、日常茶飯事のようなものだ。川を流れるうちに、彼の記憶も風化していった。そしてキリギリスがその夜のことを忘れたころ、川辺に夜が来た。


 ああ、なんてきれいな朝日なんだろう。キリギリスは川に登る、朝の太陽を見て思った。それから何かを決意したように歩き出した。



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