Ж-12 樹 海 ノ 異 図 ~Disaster Of Green~ ⑥
『貪喰』
ぶっちゃけ声に出す必要はないのだが
何となく威力が上がるような気がしたのでそうしてみる。
実際すんなりと異能が発動したように想える。
【魔 皇 種 源 泉】 【號魔異能】 の中の一つ。
この異能は、 簡単に云えば己の魔氣で悪魔を創造し身に宿らせるという異能だ。
と言っても当然眼の前に 「実体」 が現れるわけではなく
厭くまで概念上、 想像上の中での話。
肉体強化、 魔力増強、 そして死体吸収等の基礎的な異能を
魔氣と想像を透してヴァージョン・アップさせるモノだと
解釈して良い。
翳した掌、 ソコから異能が迸り六つの頭と首が浮かび上がる。
早贄も刺さった杭が消え去り風穴の開いた骸がこちらに引き寄せられる。
やがてソレら生命の残骸は、 ゆっくりと攪拌するように廻転し始め、
融けるように混ざり合った刹那、
夥しい血飛沫を捲き散らして一斉に爆ぜた。
痕に遺るのは骨も臓腑も生命の宿す魔氣さえも喪失くした、
純粋な魔那の凝塊。
ソレが呼び水のように、 オレの躰へと流れ込んでくる。
「フ~ン、 なるほど。 コレが、 レベル・アップとかいう感覚?
全身の細胞が剥がれ落ちて入れ替わる?
イヤ、 それから別のモノに書き換えられていく、
っていうのが一番近いかな?
内臓までそうのはチトこそばゆいがね」
「私の場合は、 勝利感に伴う陶酔と充足が心を満たしたが、
ソレとは違うのか? 痛みなどは?」
「ウン、 今の処ない。
あとレベル・アップって言ったけど、
厳密には違うみたいね。
あくまで異能に拠る魔那の吸収だから、
「成長」 っていうよりは 「変質」 に近い。
レベルは0のまんまだよ。
魔皇は 「生長」 しないンだってサ」
「うむ。戦うコトに由り、 その過程で魔氣が成長するから
レベルという概念が向上していく、ソレが基本。
しかし私と君は、 やはりその理からかなり外れているようだ。
今のところ不利益はないようだが」
「要するに、 そっちが 「王道系」 オレが 「異端系」 ってコトでいんじゃない?
そっちは 『友情・努力・勝利』 で成長していく。
オレは手段を選ばずブチ殺したモノの数だけ強くなる。
あとは 「計画どおり!」 とかほくそ笑んどきゃいーよ」
「う、 む。 友情、 努力、 か」
ありゃりゃ考えこんじゃったよ。
色々話し込んでると彼もオレと同じで王道系よりは
マニア向けの作品の方が好きみたいなんだよね。
だから気が合うンだろーけど根が真面目だから
いきなりヒーロー! ってのは抵抗あるんだろうね。
奥床しい。 奥床しい。
時代劇も王道モノより異端モノが
好きらしいし。
でも君じゃこんなの抵抗あるんじゃないの?
「な!?」
珍しく狼狽の表情を見せる。
フフフ、 オレの 「爪」 がいきなり伸びたからね。
「 “エビル・クロー” って異能だよ。
今の虎のボスからブン奪った。
あ! エビル・クロー! 取った、」
「やらんでいいから続きを頼む」
槍を掲げて叫ぶセリフをさりげなく止められる。
せっかくだから最後まで言わせて欲しかった。
おのれ濱〇め!
黄〇伝説で検索すると昔の聖闘士のゲームがヒットするのは止めて欲しい。
趣旨がブレてきたので閑話休題。
「 『貪喰』 でソイツの存在を啖らうと、
相手の異能を奪えるらしーンだよ。
勿論全部じゃないし、 相手が強いと異能も奪い辛くなるらしーけど。
厳密には相手の根源魔那に個有魔氣が長い間影響して
情報が蓄積されてるらしーけど、
詳しくは解ンにゃい」
取り敢えず他の異能も奪えたけど、 常態発動以外は
無視して自分の魔那の裡に保留してある。
自覚の無いヘタレみたいにアレもコレもと欲張って手を出せば、
絶対使い熟せなくなるだろうし
選択肢が多いと戦闘ド素人のオレは間違いなく混乱する。
だから奪った中で気に入った+使い勝手の良さそうなモノを
セレクトしてみた。
「噛みつき」とか 「咆哮」 とか、 正直今のオレじゃ無理。
『異世界転生・噛みつき少女が魔王を倒す!』
誰が読むんだそんなモン!
ってな事を脱線しながら小一時間、 相方に語ってたら
日が暮れていた……orz
樹海が駆け抜けた軌跡。
幾つもの亡骸を散らして。
異能を奪掠っても。
安息に憩うには早過ぎる。
太陽はまだ沈んでいないのだから――!
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