Ж-12 樹 海 ノ 異 図 ~Disaster Of Green~
≪CAUTION! タイラント・タイガー・Dッ!
SUDDEN ASSAULT! R・ランク/B!
JUST A RUNAWAY! 我が主よッ!≫
まただ。
また全ッ然気づけなかった。
先刻から、 いつ下からバックリ口を開くか解らない巨大ワームに
お持ち帰りされなくても済んでたのはリュカの異能、
“常住坐臥”に拠るモノ。
常に戦闘神経を過敏にしておく事で、
相手の殺意や奇襲を逸早く察知するコトが出来るんだって。
頼っちゃいけないと想った矢先にコレだ、
心のどっかで相方が傍にいるから大丈夫とか臆面もなく思ってたんだ。
『グルゥゥオォ……この深淵に、 若い人間とは珍しい。
まだ子供ではないか』
「し、 喋った!?」
たいがーたいがーじれったい (ry とこの期に及んでも莫迦なコト考えてた
オレは、 今更なカンジでもやっぱ驚いてしまう。
≪CAUTION! 魔獣の中でもクラスの高いモノは、
人語を解し操る事が出来ると云われています≫
って事はアレだよね。
話が通じるってコトだからいきなり 「戦う」 はオカシイよね?
オレなんも変なコト言ってないよね?
自分の言ったコト反故にしてないよね?
……こんなコト考えてるからダメなんだ。
「当方に、 敵対の意志は無い。
貴公の縄張りに許可なく踏み込んだというのなら、
非礼を詫びたい」
そう言いながらも相方は槍の構えを崩してはいない。
問答無用で攻撃してきたんだから、 交渉の余地は恐ろしく狭い。
『グフゥゥゥ、 威勢が良いな小僧? 我と相対して一切臆せぬとは』
眼の前にいる真っ黒な虎。
毛皮は刃のように尖って、 四肢の鉤爪は妖しくギラつき
長い尾の先は青白い燐光を灯している。
顔より長い剥き出しの牙を微かに動かし
咢が笑みのように歪んだ。
『――虎跋閃ッ!』
不意の突風と凶暴な金属音、
ソレが飛び掛かってきた鉤爪とリュカの放った槍技の
激突だと知ったのは、 両者の残心を後方で確認した時だった。
『ヌフゥゥゥ、 良き異能よな。
命中れば我の獣肉すらも裂けそうな切れ味だ』
「 “闘氣” を、 貴公の 「属性」 に合わせて変化させ
切っ先に纏わせて有る」
『ホゥ、 若くしてここまで闘氣を扱えるとは。
貴様、 “魔剣士” の中でも相当高位の 「種属」 か?』
「敵に手の内を明かす様相でもあるまい」
『フッ、確かに』
そこから先は、 正直理解が追いつかなかった。
両者ともオレの存在なんか無視したように視界の全域、
大地、 岩、 樹木、 蔓、 凡そありとあらゆるモノ、
折れた枝すら足場にして異次元の空間戦闘を間断なく繰り広げる。
オレが魔導で援護する隙間なんか無い、
フレンドリーなんちゃらで絶対リュカの邪魔になる、
それほどのスピード差でただ爪と槍の衝撃が火花と共に弾けるだけ。
穏やかな陽光の中なのに、 原形を失くして崩れていく光景、
ソレは正に魔獣と英霊の熾烈なる争覇で、
オレなんか只の傍観者、 否、 その背景にすら成り得ていなかった。