Ж-79 逢 魔 ヶ 路 ~Devil Load's Road~ ⑲
意味がねぇ、意味がねぇ、意味がねぇ。
意味が在っても何にもならねぇ。
裸足の足が草を踏み拉む感触が
恐ろしく鮮明にそして虚しく脳裏に響くだけだった。
相方や他の人間がいれば、
この懊悩は誤魔化せる。
『だから精一杯生きる』 と元の世界じゃ聞いた事がある。
記憶も思考も受け継いでのその言葉か?
『転生』なんてしたくなかったよ。
するとしても【人間】なんかに生まれたくなかったよ。
少なくとも ❝心❞ は持ってたくなかったよ。
こんな宇宙の片隅の、ケシ粒みてーな惑星の表面に寄生してる
視えないような『微生物』に、一体何が出来るっていうんだ?
何も出来ない、贖えない、
足搔いても踠いてもスベテは無意味――。
《主……》
『お苦しそうですわねぇ~、此の魔皇サマはぁ~』
「 ❝転生❞ とかヤる奴ら、やっぱクソだわ。
【死ぬより辛い苦しみ】とか、全く以て考えてねー。
だから使えねーヤツは廃棄したり殺したり
塵扱いして蹂躙り尽くすわけか。
じゃあ取り敢えずソイツらから滅ぼせばいいのか?
一応『復讐の理由』としては成り立つわな。
ブッちゃけただの【八つ当たり】だけどよ」
王族、皇族、神官、女神、雑多に想いつく
『召喚者』の名簿を漁った。
ソイツら全員殺せば、少なくともこの世界に❝転生❞するヤツはいなくなるのか?
イヤ、無意味だ。戦争が根絶出来ないように
生物の【悪意】が在る限りどっかの莫迦がまた同じコトを始める。
しかも根本的な解決になってねー。
オレ、今死んだら、次は一体何処に往くんだ――。
ゾクッと背筋に氷柱を突き込まれたような瘧が走り、
矢も楯も溜まらずただ叫びながら駆け出したくなった。
「本当にそうしちゃうか?
今、おまえらしかいねーし、抜け出すなら絶好の機会じゃねぇ?」
我ながら滅茶苦茶言ってるのは解るけど
荒れた精神に思考も無茶苦茶だから理性的な結論なんて出るわけがない。
ヒス起こしたラノベ女じゃねーけど
まぁ誰かの所為にしないだけマシと自惚れとこう。
ちょっと前に爺ちゃんに「国創ろう」とか偉そうな事抜かしちまったケド、
オレが暴れて国の一つや二つ滅ぼせば
その「跡地」は誰がどうしようが自由だろ?
当然別の国の莫迦が略奪しに来るに決まってるけど
ソレも順次滅ぼしていけばいずれは誰も近寄らなくなる。
後はリュカかソフィアが来るまで待ってりゃ良いって話だ。
❝オレが一緒にいる❞必要は無い。
イヤ、 もういねぇ方が良いんだよ。たぶん。
いつまた今日みてぇに自暴自棄になって「暴走」するか
自分でも解らねぇし、今の自分が正気かどうかももう解らねぇ。
ってか完全にオレが【異物】じゃん、
英霊、賢者、人間、ハーフ・エルフ、奴隷難民ときて、
ソコに ❝魔皇❞ さえいなきゃ取り敢えずの【危険】は無い
万々歳だろ?
リュカだって人が良いから今までオレと一緒に居てくれたケド、
居ない方がよっぽど自由に楽に生きられるじゃん。
莫迦だ、何で気づかなかったかな。
最初からずっと一緒に居過ぎて、
いつのまにかスッカリ甘えちまってたわ。
「戦い」も女にやってもらう、
〇〇のラノベ主人公のコト笑えねー。
『帰りま、せんの?』
ふよふよ宙に浮きながらゆっくり後を付いてたドライアドが首を傾げた。
まぁ帰るんならおまえの異能かオレの宝珠ですぐに帰れるんだが、
ほんの数分前までソレが当たり前みたいに想ってたが、
あらゆる意味でそうする必要がねぇ事にいま気づいた。
「帰る、理由がねぇよ、その資格も必要もな」
ロクに関わってねぇヤツってこーゆー時便利だよな。
他のヤツにじゃ口籠る事も平気で話す事が出来る。
愛着も愛情も場合に依り寄りだ、
時には毒にだって枷にだってなる。
〇〇〇〇のおっさんの描いたラブコメじゃねーんだから、
劇的な出会いも別れも必要ねぇ。
今朝起きた時はまさかこんなコトになるとは想わなかったが、
当たり前が当たり前じゃ無くなるなんてのは、
もうとっくの昔に理解っていた筈だ。
じゃーな、莫迦四人、オレがいないからっていつまでも泣いてんじゃねーぞ。
長老の爺ちゃん見習えよ。
ソフィアとサーシャは、まぁ大丈夫だろうけど
問題はアノスライムか、しばらく相当うるせーかもしんねーが
ママは”出稼ぎ”だ、ちょっと早いけど親離れしろ。
来た道を引き返し『深淵』の境界の方へ眼を向ける。
思ったより足取りは軽やかだ、
足裏から伝わってくる感触も大分現実感が戻って来た。
でも、まぁ、な――。
振り返るつもりはなかったが、ナニカに引っ張られるみたいに
今までの足跡を反芻し、
「バイバイ、リュカ」
その一言が、女の吐息の所為か、
微かな甘さを以て口唇から零れた。
2話掲載の予定でしたが、
疲れたので続きは明日に致します。




