Ж-79 逢 魔 ヶ 路 ~Devil Load's Road~ ④
「へ、へへ、女の神サマが、帰って来た。
これで、おまえももうお終いだ」
麻痺で床に縫い止められたキョウコ嬢が、
苦笑しながら言葉を絞る。
それを一瞥して戻す視線、刹那の間に
「人の威を借りて粋るな、弱く見えるぞ、
どこぞのラノベ主人公みたいに」等と思考したのだろう。
「 ❝大精霊❞ ドライアド……!」
フム、ソフィア嬢は理解ったか、流石に博識だな。
背後から首筋に回されている黄金の両腕、
「肉」の質感とは明らかに違うので私も対処に困っている。
そもそも人の理で判断して良いものか、
美しい女性の姿をしているが体高は2mを優に越える。
「しかし我が伴侶に何を――!」
む、いかんな、そうして”敵意”を向けると――。
構えた錫杖に集束する魔氣、
パァンッ!
一抹、金色の霧が弾け彼女の風貌を漂う。
「こ、これは……『反射能麻痺香』……
不、覚……!」
杖を本来の用途で使い抗うがやがてコトリと膝がつく。
その魔力こそ秀逸だがやはり肉体そのものの抵抗力は弱いようだ。
珍しく冷静さを失っていたようだな、
卒無き者の瑕疵もまた憂いモノだが。
っと、いかんな。
「伴、侶……」
その躰が樹の床に伏す前に支える。
異能を遣うまでもない、
此処に至るまで私自身の「速度」も相当に向上っている。
「申し、わけ、」
「後は、 私に任せて貰えるか?」
賢明な彼女にならこれだけでも伝わるだろう。
微かに震える輪郭で一度コクリと頷いた後、そのまま瞳を伏せた。
麻痺以外にも鎮静や誘眠の効果も同時に複合しているらしい、
効果は偶発で異能の保持者にも制御不能だそうだ。
当人から聞いた話だが、彼女を両腕で抱えたまま、
樹内の窪みで造った長椅子に横たえる。
席に戻るまで友は両腕を組んだまま黙っていた、
何故かその隣も同じ体勢をしていたが。
「――オレとミウには掛からねぇ。
攻撃的魔氣に自動で反応する異能か?
お莫迦5人が麻痺ってんのが良い証拠か」
『まぁまぁ、なんともお珍しい。
ワタクシの存在を目の当たりにして、 何の感慨も示されないとは。
”攫う” ”襲う” 一文字でも想起すれば、
即座に 『樹精霊異能』 が発現致しますのに』
心底不思議、といった様子で光る指先を頬に当てる。
「おまえが誰か解んねーんだよこっちは。
即座に殺してもいいけど相方に免じて
手ぇ出さないだけ」
云った通り即座に麻痺の異能が眼前で弾けるが
友は暖簾をくぐるような感じであっさり避けてみせる。
”魔眼”ナメんな
一度視た異能ならコレくらい見切れるんだよ、
視線からそんな声が聞こえてくるようだ。
『まぁまぁまぁ――』
「で、何? コイツ 『味方』 ?
遭うヤツ遇うヤツ〇〇ばっかだったから、
いまいち信用出来ねーんだけど」
訝しげに宙に浮かぶ女性を親指で差しながら友は隣の席についた。
「別段、悪しき気配はしなかったのでな。
攻撃する気ならとっくに行っている筈。
一応警戒はしたが、余りに無垢で無防備な心性だった故、
此方も毒気を抜かれたというのが大きい。
そうだな、その娘の「最初の姿」に近い、
と云えば、少し解るか?」
『にゅふふ~☆ おやかたさまぁ~☆☆☆』
私が視線を向けると席を立ち、
背後の女性を無視して無垢な抱擁を寄せて来る。
友は終始嫌がるが、存外悪いものではない。
ソフィア嬢の顔が珍しく若干紅潮しているが
他意は無い、許されよ。
ちなみにファム嬢の方は盛大に眠ってしまっている、
「誘眠」の効力が強かったようだな。
『まぁまぁまぁ~。人間かと想いましたら
❝ダーク・コーラル・スライム❞ でしたのねぇ~?
でも「人型」に変貌出来るのは
希少中の稀少ですわぁ~。
そしてこの古大樹を精霊樹にまで『進化』させたのは
アナタ様ですのねぇ~。
”核”はほぼ死にかけていたのになんともまぁ~』
「セリフが長い、専門用語が多い、
あと論点「飛び」過ぎ。
ド素人のな〇うラノベ作家か」
『まぁまぁまぁ~、その“らのべ”というのは一体何ですのぉ~。
随分と浅薄で杜撰で、冗長な響きを覚えますわぁ~』
「――悪いヤツじゃねぇのか?」
本当に珍しく、友の瞳から猜疑の靄が一瞬で消えた。




