Ж-11 ミエナイチカラ ~Invisible One~
「ミラクルゥ~♪ ふぁいとで~♪」
と、 箸にも棒にも掛からぬ歌を、
要所要所でハモりながら 「アンタ、」と
セリフまで入る現実逃避をし終えた後、
オレは得も言われぬ虚脱感に包まれた。
初戦の牛さんを皮切りにそれを丸呑みにしたワームから逃げて以来、
逃走に次ぐ逃亡、 どこのDr・テ〇マだと頭を抱えたくなる。
「あの最終回納得イカンよなぁ~」
「うむ、 好意的に取りようがないからな」
アレから、双頭で咆える灰色の狼、
頭上から巨大な鉤爪で強襲する飛竜、
そこらの大木を片手で持ち歩く一つ眼の巨人etcetc、
初見のオレらを完全に殺しにかかってくる鬼畜共と
何度も出くわした。
その度にリュカの異能に頼り
辛うじて難を逃れているといった次第である。
オレ単体なら多分5,6回は余裕で死んでる。
人間に助けられる魔皇ってどうよ?
既にして終わってるンじゃないの、 ストーリー的に。
そんなカンジで自虐モード全開のオレに
スッと差し出される果実。
リュカがいま凭れ掛かってる樹から
捥ぎってきてくれた。
「 “ラクュの実” というらしい。 疲労回復に効果があるそうだ」
「うれしー、おなかぺこぺこだったのぉー」
某天空の城ヒロインのセリフを棒読みで返すオレ。
洋梨の色違いといったカンジだが、
果皮の薄い実をシャクリと齧ると全然甘くない。
でも水気が多くて歯触りが良いのでなんかクセにある味だ。
こんなカンジで、 度重なる逃走劇を繰り返しながらも
腹はそこそこ充ちている。
その要因は当然、 リュカの特質異能 『武芸者』 の中の一つ、
“数寄者” に拠るモノだ。
どうやら 「鑑定」 と 「解析」 を同時に行えるスキルで、
主体の目的に対する執着が深ければ深いほど
効力を発揮するらしい。
この常態発動が有れば食べられる物と食べらないもの、
その品質まで 「目利き」 が出来るようになり、
更に含まれている成分まで解析して
適切な摂取法、 生でイケるかどうかまで解るらしい。
オレ達にとって飢えは直近の最優先懸案事項、
魔皇でも英霊でも喰わなきゃ死ぬらしいから
街で食料が買えない現状では非常にありがたい能力である。
なので今までの逃走道中の最中、
ボトム・ヤムの珠芽、 オーガイバラシオデ (アスパラみたいな味がする)
ブラッド・リリィの鱗茎、 剣笹のお茶 (球状に固定した水の中で煮出す)等、
様々な食材を提供してもらっている。
そこらの葉っぱを編み込んで、 ちゃんと使えるカップまで作ってしまうのだから
大したものだ。
オレはただ簡単な魔導で洗ったり炙ったりしただけ。
リュカはオレがいなければ食べられなかったとageてくれるが、
近くに沢もあるし彼の技量なら自分で火を熾す事も容易いだろう。