Ж-79 逢 魔 ヶ 路 ~Devil Load's Road~ ③
「魔薬」
ミウから取り上げた黒い腕をポンポン弾ませながら
隊長格の魔物に近づき魔導を施す。
以前と比べて闇の光が濃くなってるように視える、
直近コレばっか遣ってたからな、
地味にその練度が向上ってるのかも。
別に信じたわけじゃねぇ、いつでも裏切ってどうぞ?
後で余計に死に方が惨たらしくなるだけだ。
「な、なんという、邪気に充ちた魔導力!
片じけない、『深淵の魔皇』殿!」
おい、若干語弊のあるニュアンス感じたぞ今、
まぁ否定はしねーけどよ。
で、何? オワリ?
家にはツマミに餓えてるお莫迦5人がいるから
そろそろ戻らねーとな。
「新めて、初見を開示させて戴きます。
我々は、此処より南西の領域を統覇しております
【カイザー・グライフ・】
「興味ねぇ」
恐らく重要事項であろう魔物の言葉を喰い気味に遮って、
オレは手をヒラヒラ振った。
「おまえらの当初の目的は果たしたし、
ソコに魔皇がいるのは想定外だったんだろ?
会話の余地がもうねーよ。
実際おまえ自身が困惑ッてんじゃねーか。
二度とオレの前に面見せんな、次は殺す」
騒然とする魔物の群れを無視して
クルッと踵を返しその場を後にする。
「随分早く打ち切りましたね、
もう少し情報を引き出しても良かったかと」
『ミュ~☆ ママァ~☆
ミウねぇ~☆ はーぴーのうでがぁ~☆☆
たべたくなったのぉ~☆☆☆』
「 ❝精霊樹❞ って言葉が気に障った。
多分現状、虫が集まる外灯みてーになってんだろ。
計画色々練り直し、
ってか ”もう遅い” かもしれねー」
親の顔より見た「な〇う」のタイトルかよ、
ソレが自分に返ってくるとは想わなかった。
頼むぜ相方、 オレが戻るまで無事でいてくれ――。
フラグ? うるせー! 莫迦!!
「あ、あわわ……」
「な、何なの? 眩くて、眼が開けてられない!」
「……」
《畏れながら御屋形様! 此奴の所業、決して赦されぬ為れど
其れでも精霊の、む!? き、貴様! 我の精神領域にまで干渉を、
ぬ、ぐぐぐ……!》
『嗚呼呼、麗しい、 労しい、慈しい祖霊の長よ!
拝謁出来し誉れを、邂逅の悦びを、
ワタクシいま全霊で甘受しております!』
「其れは重畳」
私は手にした木の酒杯を傾ける。
「あ、兄貴! 俺達に構わないで逃げてくれ!
どう考えてもタダモンじゃねーこの魔物!」
「くそー! 身体が麻痺して動かねー!
おまえなんかなぁ! 女の神サマが帰ってくれば一発なんだからな!」
周囲は色々と姦しいがそのまま捨て置いた。
此れも 『英霊』の異能、というより”感覚”か?
その名の通り「霊体」や「精神体」などの
”形の無いモノ”の本質を正確に認識出来るらしい。
件の ❝この女性❞ が姿を顕したのは
盟友が席を立って僅か半刻後。
本当に何の脈絡も無く樹の中からいきなり現れた。
当然恐慌に陥る周囲の者達、
だが私だけは悪しき気配を感じなかった故、
そしてそのような感覚も魔物では初めてだった故、
少々皆には忍びない運びとなった。
『此処、『深淵』では数百年ぶりの ❝精霊樹❞
その魔那に惹かれ訪れてみれば、
まさか斯様な――』
「お、 遅かったあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――
―――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
友、 帰還す、 か。
夜分故に静かにな。
静寂の魔導は健在のようだが。
しかし当方を指差しながらその顎が床に接地するほど驚かぬでも良かろうに。




