Ж-78 運 命 迸 流 ~Destiny Stream~ ②
朝食はハチミツとミルクを多めに入れたパン粥を振る舞った。
オレの“格納系”は『時識ズ』だから
生モンも腐らねーんだよ、
生きながらに腐ってる昨日の莫迦共とかもいるけどな。
予想はしてたけど相も変わらずの随喜と嗚咽の嵐、
奴隷っていう立場上今まで甘いモンなんか喰った事ねーのかもなこいつら、
相方が外で買ってきた菓子を口にしたハーフ・エルフの子供より
数百倍は反応が激しい。
パッと見ここだけ切り取ると何かのヤベー宗教みてーだよ
イヤマジで。
昨日と違ってどいつもこいつも泣きながらおかわり貰いにくるけど、
頼むから「かみさま、がみ゛ざま゛」って器掲げるの止めてくれる?
何かスゲー悪ぃ事してる気分、某海賊漫画の章ボス倒した後じゃねーんだよ。
ともあれ最大の厄介事はこの後、覚悟決めとくか。
全員を無造作に集めて取り出した紅い宝珠。
コレに魔氣を込めれば対象者にその個性に見合った職能、
『生業』を与える事が出来る。
戦いを日々の務めする「冒険者」には必須の要素、
そうでなくても金や地位で誰でも手に入れる事が出来る
異能や魔導の宝庫。
だが当然、差別を受ける奴隷、被虐民にその「恩恵」は与えられない、
与えられずに弱いままだから昨日のような悪行の捌け口にされる。
その、こいつらが今まで欠片も得られなかった
『神々の恩恵』を、魔皇であるオレが今から全員に与える。
元々集落のハーフ・エルフ達に施そうとしてた方策だけど、
“他人から与えられた力” は容易く傲慢や増長を生み出すから
今まで慎重を期していた。
阿呆なラノベ女や異世界チート能力って云えば大体解るだろ?
でもこの状況じゃ四の五の言ってられない、
キレイゴトってのは安全が万全に保証されて
初めて呆戯ける代モノなんだよ。
最悪こいつらが暴走して同士討ちやオレらに造反してきても
この際しょうがねぇや。
『生きる』事の最底辺に位置する者達に、
善悪説いたって何の意味ない。
もう一回云うぞ? 『情』じゃ腹は膨れねーんだよ。
「おまえらに、今から生きる為の『力』を与える」
まぁ一応最低限の説明くらいはするけどね、
でもあんま意味なさそーだな、結果見えてるもん。
「でも強制はしねーからまだ要らねーヤツはちょっとここから離れてろ。
何事も絶対ってのはねーけど、まぁ十中八九今より弱くはならねー。
解ってると想うが此処は『深淵』だ。
生きるには魔物を狩ってソレを喰わなきゃならねー」
何か言っててもう空々しく感じるな、
ラノベで云う処の「作者の設定説明」
ブッちゃけ朝礼の校長の話くらい中身が無い。
「オレもリュカも最低限の戦い方や武器くらいは用意してやるが、
最終的にはおまえらが自分でやるんだ。
知ってるだろ? 『かみさま』 は優しくねーんだよ」
ぶっきらぼうにそう云ったがやっぱり脱落者はゼロ。
疑うとかそーゆー次元じゃねーよなおまえら、
現状オレらの云う通りにするしかないもん、
多分「死ね」以外は何でも従うわこいつら。
なのでもう前置きは抜きでとっとと作業に入る、
オレも嫌な事はさっさと終わらせたいタチなんだよ。
~§驟雨 摧け散る瀝青§~
~§抱撫 畢業の断章§~
~§訣別の残香 想いひか倦ねども§~
一人、一人に順次面談してその意向や希望を叶えてやる時間は無い。
だからソレらの手間を『魔導』で一挙に解決させる。
此処にいる全員の大雑把な「適性」を瞬時に解析し
“宝珠”を介して自動的に『生業』を授受させる魔導。
無作為半強制型生業附与魔導。
~§帰還の卿に 兆を刻む§~
~§是切永劫生らぬ卒§~
『流 転 ス ル 遊 覧 篭!!!!!!』
~§Domine, quo vadis§~
~§ne vivam si abis.§~
~§Domine, quo vadis§~
~§ave Maria gracia plena.§~
廻る廻る、無数の光玉。
宝珠から溢れ出て無分別に、無作為に。
今まで一度も「恩恵」など与えられなかった者達に、
初めて魔の力を介してソレが無理矢理与えられる。
正直覚悟はしていたが、どうかな?
サーシャ一人でもオレの魔氣がごっそりと持っていかれた。
今度の数はその比じゃない。
冗談抜きで死ぬかもしんねーな、
まぁソレも『流れ』だ。
自分の事ばかり気にしてたら、
他人には結局何にも出来ねーんじゃねーの?
気色悪ぃおっさんの書いたラノベ主人公みてーに。
イヤ知らねーケド――。




