Ж-10 英 霊 盟 約 ~If I'm Enveloped By Tenderness~
眩暈。
ぽっかりと開いていた森への入口は、
「蜃気楼」と同じようなモノだった。
その「境界」に足を入れた瞬間、
エレベーターの気圧差を数百倍不快にしたような
倦怠感が襲い、 次いで貧血と脳震盪が同時に起こったみたいに、
周囲の風景がドロドロに融けていく。
時空が歪んでるというのは本当らしいな。
視えていた場所は数㎞、 或いは数万㎞先にある別の景色、
存在はするが眼の前じゃない、 場合によっては星界を跨いでいる
可能性すらある。
まぁアビスの受け売りを補足してるだけだがね、
そんな最悪に気分の悪いエントランスを抜けた先、
最初に眼に入ったモノ、 は。
(……)
デカイッ! 顔! アレ? 森の、 中?
≪CAUTION! 『ヴァリアント・ブル』
ENCOUNT! R・ランク/C!
IT’LL BE WITHDRAWN IMMEDIATELY!
我が、≫
「出オチやん!」
アビスの警告が終わる前に踵を返し脱兎の如く逃げ出す!
即座に発動、 “疾風迅雷” !
当然ヤツは追いかけてくる!
背後に森の入口はない! その代わり有る筈の無かった獣道が
遥か先まで続いている!
行き着く先幾つか予測してたけど、
まさか牛のアップと鼻息に出喰わすとは想わなかった!
何でダンジョン入った一歩目でこんな
喰われる感ハンパない目に合わねばならんのか!
牛っつっても顔だけで既製品の5倍は有った!
でもってその面支えてる横に平べったい胴体から生えた
規格外のブッ太い脚!
曲がりくねってるのに尖端だけ異様にギラついてた二本の角!
無理無理無理無理絶対無理!
序盤で出現するレベルじゃない!
何このクソゲー!?
昨日作ったんか!
全力でダッシュするオレの隣を
異能も使わずリュカが平然と付いて来ている。
ベタなランニング走法のオレと違い
空気を切るような前傾姿勢は忍びの者を想わせる。
元の地力が違うンだろーね、
オレが魔導主体なら彼は戦闘主体と云った処か。
背後からは変わらず牛さんが地響きと土煙を巻き上げて猛追してきてる!
「肉屋の牛の看板って矛盾してるよねぇ~!」
「何で!?」
「オメー喰われンのに何で笑ってるんだって話で!」
「成る程!」
それを掛け声に相方がオレの腰に手を廻して跳躍、
重り付きで世界記録の3倍は飛んだ後
樹の幹と岸壁を次々に蹴り付けジグザクに飛翔し
岩山の上へ着地する。