Ж-77 声 亡 き 聲 ~Nameless Demi-Huma~ ⑨
何故だ――。
何故貴様等は――。
どうして――。
「お、 おまえ! どこの “家” だ!? 『王族』か!?
殺して良いのは 【奴隷】 だけだぞ!! がっ!?」
「殺り過ぎてイカレやがったのか!!
人間と奴隷の区別も付かねーのかよ!! ぐぁっ!?」
――何だ?
――何を云っている?
――『人の言葉』を喋れ。
――聞こえない。
――『人の声』以外は何も。
此処は“地獄”か? 否、地獄とされる場所でもこのような光景は見た事が無い。
老若男女種族を問わず、特に年端もいかない子供が――。
「や、やめ、 て……たすけて……」
足元で這い蹲る魔族と思しき幼子。
四肢は捥げて羽根は千切られ背に無数の矢が突き刺さっている。
この娘などまだマシな方だ。
英霊の聴覚で察知した方角に駆け、
最初に眼にした光景に比べれば――。
聴こえる。
世界に見捨てられた者達の、 “声亡き聲”が。
誰にも、届かない。誰にも聞こえない。
此処にニンゲンはいないのだから……
《畏れながら御屋形様!!》
其処から先の記憶が無い。
ただ、 罪無き者に群がるヒトの形をした塵芥を
斬って斬って斬り棄てた感触のみが在る。
狂乱のその最中、 辛うじて布都の声が頭蓋に響いた。
だが其れは今の己にとって何ら意味を為さなかった。
《些か正気を逸脱していると存じまする!
此が塵芥共の所業に御心乱れあそばれし候が、
此のままでは御名を穢せし“忌み名”が、うぐっ!》
黙れ、 己に異見するか?
為れば主従の契りも無い、 即刻袂を割かって下野するが良い。
心を棄てた仮初の王になど、己は成る気は無い。
「ぐぎゃっ!」
「がっ!」
「は、疾っ、げぶ!」
生温い。
出来れば一太刀で屠るなどしたくはない。
可能な限り永らえて、地獄の責め苦を与えてやりたい。
“声亡き者”に感謝しろ、今は即死にさせてやる――!
「エル……」
己に殺戮す事は出来ても救う事は出来ぬ……!
「ノエルウウウウウウゥゥゥゥゥ―――――――――!!!!!!!!!!」
ただ叫んだ、渾身の想いで友の名を。




