Ж-9 深 淵 迷 宮 ~Chaos Sphere~ ③
「洗って貰えるかな?」
「水」
オレがパチンッと指を弾くと、 水風船が割れたくらいの量が
ザー、 と雑草を捧げ持つ両手に注がれる。
人間二人を余裕で飛ばせる 「風」 や、
手練れであろう冒険者を屠れる 「刃」 まで
生み出せる魔導力だ、 力場の無い水を出すくらいわけない。
何でも 『全属性』 らしいから。
朝日にキラキラと無駄に輝く草を
リュカが口に入れて齧った。
そのまま残りを勧めてくるので何となく従う。
「……甘苦い、 けど食えなくはないね」
「あぁ、 美味いとは言い難いが」
状況が状況だからオレもそこまで望まないよ、
ウチの婆ちゃんもよく雑木林に分け入って
野生のヨモギとか毟ってたけど、
コレはその凄いヴァージョン?
多分 『武芸者』 の異能で 「山籠もり」 の時とかの
狩猟採集スキルだろうけど。
でも想わず、
「大念〇さん……!」
と、 ある寿司マンガの伝説的寿司職人を思い出し
ヒシッと寄り添ってしまう。
「光栄だな……」
彼も好きなのか否定せず、
モシャモシャと野草を咀嚼しているのが実にクールだ。
ダディクー、 いや何でもない。
≪CAUTION! “ティエラ草”
回復薬の主原料となる野草であり、
生で食しても多少の回復効果は潜在します。
群生地以外の見分けは不熟であるため、
他の草本と区別が付き難く統計約1000分の1と概算されます≫
良し、 取り敢えず食料の目処はついた。
無いよりマシって程度だが人間、
水さえあれば3日は余裕っていうからね。
断食道場なんてのもある位だしね。
立ちはだかる巨大な森を前に、 拳をグッと握る。
「異世界転生! 『人跡未踏、 魔の樹海でサバイバル0円生活』!」
脳内で壮大に流れる某海賊のテーマをバックにしながら、 そう叫んでみる。
「……だ、 だっりぃ~」
すぐさまその難易度の高さに、 四つん這いになるのを禁じ得ない。
その肩にそっと手を置いてくれる相方はやっぱり良いヤツだ。
「絶対、 今井 (雅俊) 班みたいになるよねぇ~。
蜘蛛の巣? 蟻?」
常識ある大人なら絶対口にしてはいけないモノを、
嬉々として食べる隊長の姿を思い浮かべながら愕然とする。
「まぁまぁ、 ロー〇班とかでも何とかなったじゃないか」
「アレは色々持ち込み過ぎ」
風呂にも入れず化粧も出来ない場所で、
何故かモデルクオリティーの顔を保ち続ける
TVの七不思議は置いといて、
銛、 ではなく槍を片手に入口へと立つ。
「はぁ、 オレ絶対、 濱〇より使えないと想うよ」
「私も、 有野課長ほど器用には動けまいな」
「ホントに良いの?」
「付き合うさ、 今こうして共に居るのも、 何かの縁だ」
もうここまで来たらしゃあないな、
四の五の考えず、 男だったら腹括ろう。
なら最初の最初位カッコつけるか、
どうせ苦労するの解ってるンだし。
だから――
「後ろは任せた、 英霊」
「前だけ見てろ、 魔皇」
戦場への一線を踏み越える決意で、
オレ達は共に 『深淵』 への第一歩を踏み出した。
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