Ж-77 声 亡 き 聲 ~Nameless Demi-Huma~ ⑦
この近くに裸の人族以外はいない。
魔導による“強制転移”みたいなモノか。
速度と精度は無い代わりに大勢を一度に運ぶ事が出来る。
状況から察するにこいつら“奴隷”かそれに準ずる賤民なんだろうけど
「奴隷の首輪」が無いな。
もうその必要が無いからか――。
「おねいちゃん、 “どれいがり” の、 ヒトじゃないの?
わたちたち、 ころさないの?」
樹の葉っぱでミノムシみたいになった獣人の幼子が、
オレの顔を伺うように言った。
声はか細く身体と同じく小刻みに震えている。
立派な「ウサ耳」だな、 と想った瞬間素早く後方へと引っ張られた。
先刻の「人間」の少女が抱え込んでオレを睨みつける。
ウン、君が正解。 オレみたいな眼つきの悪い奴に、
迂闊に近づくモンじゃない。
異能、『思考超加速』で状況把握+整理。
まぁ、莫迦でも理解出来るような現況だがね。
「……なるほど。 冷静な相方がキレるわけだ。
おまえたち、 「子供」だから
遠くの方に飛ばされて制限時間もらってんのか?
すぐに捕まえちゃゲームが面白くない、 とかそんな理由で」
「どこから来たの?」「君たちは誰?」「あぁ、かわいそうに」
とかこの場合は言わない方が良い。
命辛々逃げてるヤツには関係ないから。
寧ろヤツらが 『言いたくても言えなかった事』 に誘導してやった方が良い。
まぁ【奴隷狩り】の一言で大体察しはついてんだけど。
てかな別に助ける義理も理由もねーけどな、オレ一応魔皇だしぃ~。
他人の不幸なんぞどこ吹く風で口笛さえ吹きそうになってた
オレの前でようやくさっきの娘が憤懣を吐き出す。
「クソッ! クソォォォッッ!!アイツら! アイツらぁ!!
『サジタリアス』 の貴族、王族だからってヤる事が滅茶滅茶だ!
こんな小さな子供を甚振って殺す為に!
わざわざ森の “深い” 方に魔導で送り込んだんだ!
ここならギルドも無いし冒険者も来ない!
死体は魔物が始末してくれるって、 わざわざ「放つ」直前に教えやがった!」
そう叫ぶ少女の髪は黒髪だ、 元の世界と違ってこっちでは大分新鮮に映る。
「幾らアタシ達が“奴隷”だからって! この子達が「亜人」だからって!
こんなの! こんなのあんまりだ!!
どんなに辛くても、苦しくても、皆でずっと堪えてきたのに!
それが気に入らないって……!
虫ケラが、 人間みたいな真似するなって……ッ!」
「……どうした? もっと言えよ」
両腕を組んだまま続きを促す。
“虐げられる者” の気持ちなら、 オレも多少は解る。
何を言っても否定されるし何をやっても罵倒されるし
最後は存在している事すら【害悪】だと勝手に決めつけられる。
人間の皮を被った屑共に。
その内何が正しくて何が間違ってるかすら何も解らなくなるのさ、
【悪】しか周りに存在しないなら、 『正義』 は存在しないのと同じだ。
「本当に、 本当に、 何にもしないのか?アンタ……
アイツらが仕掛けた、 “罠” じゃないんだよな……?」
震える輪郭でオレを見るが、手を差し出してくる事は決して無い。
もう「助けて」 って言葉すら云えなくなってるんだよな?
最低最悪の状況で今まで誰も一度たりとも助けてくれなかったんだ、
今更意味ねーよな、 そんな言葉。




