Ж-76 魔 隷 創 成 ~Crimination Orb~ ⑫
「行きますよ! ミウちゃん!」
『ミュ~☆☆☆』
それから数日は、 拍子抜けするくらい物事がすんなり運んだ。
今、サーシャが手にしているのは “ケルベロス” の牙から造った
【煉獄】
前に造った “銀嶺” と合わせて氷炎一体の武器ってわけ。
『二刀流』 も【暗黒魔剣士】の基本特性に有ったみたいだから
大した訓練も必要無く自在に振り回せてる。
正直ここいらの魔物だったらもうオレとリュカはいらないくらい、
ソフィアは努力家だから一緒に戦闘入ってるけど、
その 「横」 にいるヤツが正直反則級だから
いまいち活躍が覚束ない。
『ミウミウ☆バスタ~☆☆☆』
可愛らしい声とは裏腹に、 飛散した魔物の残骸が四方八方にバラ撒かれる。
あまりに破壊力がデカ過ぎて骨は粉塵に肉は半液状に血は霧となって散華する。
こいつ本当に元は「スライム」かよ、
眼前の惨状を無視して片手で“大金槌”を軽々と抱えながら
『ママ~☆』と無垢な笑顔で手を振っている。
運動会か、 戦闘中はよそ見すんなって言っただろ。
あれいや、これいや、とこっちが若干キレ気味になるほど
提案を無視され本人の要望のみで
造ったのがコレ。
それは、「武器」 と呼ぶにはあまりに大き過ぎた――。
というモノローグが始まりそうな超巨大鈍器、
【極重轟鉄槌】
材料は深界層主の爪だの骨だの使ったけど
単純に山ほどあった甲冑の大半を要する程に鋼を消費した。
(あ、 『界層主』のも使ったわ、そーいや)
創る難易度は【煉獄】の方が遥かに高かったけど
単純に重てーから魔氣の消費はこっちのがかかったわ。
……ヤベ、 この武器ごと抱きつかれたら
今度こそ死ぬわオレ。
『GYEEEEEEEEEEEEEVAAAAAAA
GUUUUUUUUUUUEEEEEEEEEEEEE
―――――――――――――――ッッッッッッッッッ!!!!!!!!』
《CAUTION!!
『界層主』 “デッドリー・クローサル・オーム”
BREAK DOWN!!
UNBELIEVABLE ACCLIMATIONッッ!!
我が主よ!!》
悍ましき断末魔と共に超大型の躯体が土煙を巻き上げて斃れる。
頭部は殺ぎ飛ばされ節は幾つか輪切りになってるのに
まだ捻って蠢いてるのがかなりキモイ。
正直、 二人がここまでの強さになってるのは想定外だった、
如何に今まで自分とリュカしか見てなかったのかがよく解る、
ソフィアの魔力も見誤ってたしね。
嬉しい誤算、 って云って良いのかな?
強くなればなるほど、 余計な災厄を招き寄せる感じがする、
この世界では――。
ってなわけでたった今、 三体目の 『界層主』 を討伐した。
三番目じゃなくて【深界層主】から数えて三体目。
ヤバげならオレと相方も混ざったけど
サーシャとミウの二人でも余裕でイケたな、
強さが最初のと大差無いってのもあったけど。
『成長』っていうのか? コレも。
二人ともなんだかんだでハードな人生送ってるし、
ミウなんか一回死んでるからな、
これくらいの“恩恵”があってもいーんじゃねーかとは想う、
『神』はそんなモンくれなかったからな。
コレで結果として村を「転移」出来る場所が三倍になったし、
ランダムにそこを移動してれば
もう他のヤツに見つかる事も無いだろう、
一個は結局使えなくなっちゃったからね、
近くに怪しい“ダンジョン”あるから。
『国』って呼ぶには小さ過ぎるけど、
バレないに越したこたないからね。
天下統一にも世界征服にも興味ねーから、
まぁこれくらいで上出来ってトコでしょ。
さて、 これでオレらの異世界の旅路ももう終わりだ。
大分呆気なくて打ち切り漫画の最後みてーになってるけど、
現実はこんなモン、 ドラマティックな展開なんて求めちゃいねーさ。
他のヤツは「チート無双」でも「異世界ハーレム」でも
勝手にヤってくれ。オレはコレで十分。
これからは皆で静かに時を過ごす。
おまえらはまた『新たな敵』を見つけ、
戦い続けるがいい――。
本気でそう想っていた、 “あんな事” さえ起らなきゃ……
NEXT PHANTASM…Ж




