Ж-8 曝 魔 鳴 動 ~Annihilation Break~ ⑥
は?
何言ってんの?
オレは見捨てろっつったんだよ!
なのに何で?
何、 で?
クソッ、 上手く怒れねぇ。
口籠るオレに、 ソイツは変わらぬ表情のままのうのうと宣う。
「彼奴らは、 私より強かった。
一人なら兎も角四人同時ではな。
本気になられて異能も魔導も解放されたら、
諸共にヤられる可能性が高い。
だが君はヤツらにとって 「人質」 ではあっても
「敵」 としては認識されていなかった。
故に君からの反撃、 其れによる狼狽を待っても遅くはない。
どうやらすぐに殺す気はなかったようだしな。
確実に危機を脱するため、 その 「機」 を利用させてもらったのだよ。
余り買い被らんでくれたまえ」
おい、 マジか。
あの突発の、 予測のつかない不条理の間に、
そんな事まで考えてたのか?
確かに今オレは 「女」 で、 慰みモノにした後
売り飛ばそうとしてたんだから 「傷モノ」 には出来んわな。
少なくともこの場で殺される可能性はかなり低かった。
でもそんなの結果論で、 そんな先の事態まで予測も分析も出来ないから
オレは感情のままにブチ切れるだけだったのに、
アンタずっと冷静にこの状況を俯瞰してたってわけ?
「それも、 異能?」
「『武芸者』 と呼ばれる異能だ。
「あーつ・おぶ・ろーど」 とも云うらしいが。
戦で重視されるのは個々の武勇ではなく、
全体の統率力と戦況把握。
少し我慢すれば勝てるのなら喜んでそうするさ。
結果として、 私は戦わなくて良かったのだからな」
あぁ、 なるほどつまり、 その異能の常時発動で、
戦いの 「洞察力」 とか 「判断力」 とかが向上ってたから
わざとヤられてたって事?
オレは単なる勘違い?
でも、 その 「落としどころ」 も異能の所為とも言えるよね?
戦は勝って終わりじゃない、 「その後」 が一番大変だから。
フン――!
まぁこれ以上引きずってもしょうがないから
これで手打ちにするよ、 兄弟。
「ウソツキ」
掴んだ襟元を離して直しながら、 それだけは言っておく、
何か悔しいから。
≪CAUTION……≫
ん?
何だよ、 小さな声で、 いつものあのウザさはどこにいった?
それとも何? さっきのオレのブチギレにドン引きしてんの?
あ~あ~、 悪かったね、 オレも自分で若干引いてるよ、
自分自身の兇々しさに。
で、 何?
≪も、 申し訳ありません、 主。
そして大変申し遅れましたが、 主は此度の戦闘に 「勝利」 なされました。
通常の者はその 「経験」 と 「実感」 が、
身体の魔氣と魔那に影響を与え力となるわけですが、
主は今目醒めた 【魔 皇 種 源 泉】 による特性、
【號魔異能】 『貪喰』に拠り
その者の肉体、 精神、 果ては魂魄に至るまで 「吸収」 する事が出来ます≫
吸収、 って、 ヤツらもう死んでるじゃん。
≪YES、 ですがその者達の残留魔氣、 根源魔那、
及びソレに蓄積された 「情報」 は肉に宿ります。
主ならばその深奥に接触し修得する事も可能。
勿論、 不要な情報はこのアビスが取捨選択し、
万全な適応をお約束致します≫
つまり何? アイツらの異能なり魔導なり 「奪える」 ってコト?
≪YES、 コレはこの全星界に於ける主のみの特権であり、
斃した者ならば勇者、 英雄、 神ですらからも異力を奪えるとされています。
御身は未だ生誕なされたばかり、 是非とも≫
「要らねぇ」
嬉々として語るアビスの声をオレは冷たく遮った。
困惑した声が頭で響くが
オレは赤黒く染まった硝子の山を一瞥して背を向ける。
「本当に必要とされねぇヤツは、」
あのクソ共の存在、 一欠片だけでも身体に入ると想うと吐き気がする。
「死んでも必要とされねぇのさ」
視線の先に、 聳える樹海。
昏い森の牙が、 オレ達を呑み込もうと顎を開いているように見えた。
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