Ж-8 曝 魔 鳴 動 ~Annihilation Break~ ⑤
「フ、 ゥ――」
漸く口唇から漏れた吐息。
生まれて初めて、 人を殺した。
激高もあったが、 あくまで純然たるオレの 「意志」 として。
でも、 不思議なほど何も感じない。
寧ろ爽快感に近い気持ちが、 胸の中で吹き荒れている。
元の世界じゃ、 どんな人間のクズでも殺せば、
罪悪感に押し潰されそうになるとか
悪夢に魘されるとか言われてたけど、 ありゃあ嘘だな。
まぁ個人差あるんだろうけど、
ただそう想い込みたいだけだ。
人間は、 厭きもせずに殺し合いばかりヤってきた種族。
ソレに一々罪悪感で苛まれてたら、 とっくの昔に滅亡してる。
「復讐は何も生まない」 とか 「殺されていい人間なんていない」 とか
〇〇みたいなセリフ、 死ぬほど嫌いだしね。
じゃあこの場合リュカは死ぬまで嬲られて、
オレは輪姦されて奴隷にされればよかったのか?
巫山戯けるな、 腐れ偽善者共が。
ハァ、 まぁいいや、 「自己満足」 が他人の生命より上に来てる
元の世界の阿保のコトなどどーでもいい。
大体人間 「平等」 じゃないんだよ、 「精神」 に於いては。
オレが助けた女の子と、 この屑共が 「同列」 か?
もう一回巫山戯けンな!
そんな事より――
眼前に四つ出来た薄汚いガラスの山に背を向けると、
オレは地に伏した状態でこちらを見る者へ掌を翳す。
「魔薬」
何となくだが一番近い表現で浮かんだ魔導を
そのまま施す。
名前だの詠唱だの関係ない、 感覚的には撫でるに近いから
意識する方がメンドクサイ。
一方的な暴行を無抵抗で受けていたにしてはダメージが少ないが、
それでも擦過傷や口を伝う血を見ると怒りがぶり返す。
火でもつけて炙ってやろうかあの屑山、
もう死んじまったか、 忌々しい。
「すまな、」
そう言って瞳を顰めるリュカの襟を、
オレは思いっきり掴んで引き寄せた。
「誰に言ってるんだ? えぇ!?」
額と額がブツかる位の至近距離で、
その蒼い双眸を睨み付ける。
半ば逆ギレだってのは解ってる、
でもああなったのはオレのミスだ、 オレの責任だ。
ちょっと魔導が遣えるようになったからって、
浮かれて調子こいて油断しまくってたオレの所為だ!
なのになんで頼みもしないのに庇ったりした?
一人残らず殺っちまえばよかったんだ!
何で見捨てなかった!
リュカに非がないのは解ってるから言葉が出てこず
歯を軋らせるだけのオレに、 そいつは何故か優しく微笑む。
「君が、 助けてくれると想ったからな」