Ж-7 寄る辺無き者達 ~Unknown Unknown Unknown~ ②
このような具合に、彼はこの世界に於いては不知に等しい私に対して、
懇切丁寧に状況へ応じた情報を与えてくれている。
異世界転生と呼ばれる禁断の儀式の事、
この世界の概要、 及び今現在の居場所。
更に異能と呼ばれる不可思議な力が存在する事、
挙げ出せばキリがないが、 私が 『英霊』 と呼ばれる 「種属」 からなのか、
元の世界の価値観では理解不能の膨大な情報も
砂が水を吸い込むように定着し実感となっている。
有り体に言えば、 そういうモノかと疑念も葛藤もなく
受容出来るといった処か。
そんなわけで彼には感謝している。
彼から齎される情報がなければ、
今頃訳も解らぬまま拘束され、 “封具” とやらの
術具で虜囚の身となっていたかもしれない。
そして――
「諸行ぉ~無常ぉ~♪」
転生、 異世界、 ソレ以上に不可解と想われるのが、
いま私の眼前を歩く少女だ。
「S〇MURAI G〇OST G〇RL!
K〇LL! K〇LL! K〇LL!」
妙に巻き舌で、 手にした鉄の槍に腰を入れてブンブンと振っている。
元世界の有名動画サイトで聴いた記憶のある曲だが、
歌い慣れているのか妙に巧い。
歌い手も確か、 若い女性だったか。
まぁ槍は刺突の兵器で斬る事には不向きなのだが。
「因果ぁ~応報ぉ~♪」
澄んだ肌、 桜色がかった銀の髪、 背は私とさほど変わらない。
この少女が、 自分と同じ転生者で 【魔皇】 と呼ばれる種属だと云うのは……
まぁ、 解るような解らないような話だ。
これまでの言動と布都の進言から総合するに、
身体は女性でも精神 (魂?) は私と同じ 「男」 であるらしい。
ただ、 異様に緊張感が皆無というか、
この状況で楽しむというか、
ずっと巫山戯けているようにさえ見える。
冷静に考えるならば、 布都の憂慮も的を得ている。
何しろまた、 曲のサビに合わせて槍を振っているのだから。
「ほよ?」
私の視線に気づいたのか、 彼女 (?) が首だけで振り返る。
その琥珀が溶けたような菫色の瞳を見る限り、
魔皇等という禍々しい存在にはとても想えぬのだが。
凄烈な風貌、 繊細な輪郭、 しなやかに均整のとれた四肢。
芸能に詳しくはないが、 これほど迄に美しい少女は、
元の世界でも稀で在っただろう。
私の無知を除いて、 客観的な視点でも。
「知らない? 東〇・EUROBEATとか聴いてなかった?」
YO〇TUBEでと付け加える。
「知ってはいる。 余り詳しくはないが」
「そ」
くるりと自然に前を向いて続きを歌い出す。
なので何故か私も横に並び、 一緒に槍を振ってしまった。
コレが魔皇の 『魅了』 なのか、
それとも元が異常に人誑しなのか、 判別はつかぬが。
状況を察すればこのような事をしている場合ではないのだが。
私の異能と彼女 (彼?) の魔導で王都より逃れたは良いが、
今は城下よりかなり離れた街道を当ても無く歩いているといった状態だ。
彼女が魔導に変化をつけ、 直線的に逃げたわけではないため
すぐ追手に付かれる事はないと願いたい処だが。