Ж-52 乾 坤 一 擲 ~Second Impact~ ③
「おい!! いい加減にしろテメエ!!」
聞き慣れた怒声が樹々をビリビリと震わせた。
逃げろっ言ったのに(厳密には言ってねーけど)
アノ莫迦共が。
「無抵抗の女を一方的に嬲りやがって!
それが 『正義』 の! 男のやる事かッ!」
「姫、 酷い、 こんなになるまで……」
「もう止めてくださいですニャ!
殴るならファムを殴りなちゃい!」
チッ、 ミウのヤツも戻ってきちまいやがった。
おい顔舐めんな、 血塗れだぞ、 あとくすぐってーからやめろ。
外套の翻る衣擦れ、 当てずっぽうだが仰向けの状態で
その裾を掴む。
「お、 い? まだ、 死んで、 ねーぞ?
大人しく、 従って、 やるから、 手ぇだすな」
嘘だけどね。
でもこんだけ煽りゃあ充分だろ?
殺せない相手、 手つかずの仲間、 トドメの喀血、
イヤ三つめのはガチだけど 「条件」 は整っただろ?
殺さずに苦しませるっていう。
最後に思いっきり顔面踏みつけられたけどな。
「テ、 テメエ!!」
カリムが斧で斬り掛かろうとするのが解ったが
手間かけさせんな阿呆、
コイツ素早いし気弾的なモノ飛ばすんだよ。
だから外套の裾引っ張って軌道をズラしてやる。
大砲でもブッ放したみてーに無数の樹々が圧し折れる音と
爆発音、 オレがいなきゃどてっ腹に風穴が空いてたな。
任務は遂行する、 部下も守る。
両方やらなきゃいけないってのが幹部の辛い所だな、
ってオレはどこぞのオカッパ・ギャングじゃねーんだが。
「クソ共が――!」
外套の中に潜り込む腕。
瞼が腫れ上がってよく見えねーけど “泡沫” が
内側に縫い付けてあるのかね?
直方体だけど周囲に溶けた蝋が纏わり付いたみたいな
箱が握られてるわ。
アレがコイツの持つ “封具”
ようやくお目見えか。
込められた魔氣と共に周囲へ迸る光。
夜の太陽ってか白夜みたい、 イヤ現物見たコトねーけど。
≪CAUTIONッッ!!≫
アビスの警告を待つ迄もなく膨れ上がる巨大な魔那。
まぁ感じるまでもねーや、 事実オレが樹よりも高い
その頭上を見上げてるワケだから。
ってか元の世界にも居たな、 コイツ。
まさか大きさまで同じとは想わなかったが。




