Ж-6 原 初 魔 導 ~Everlasting Stories~ ③
自然と言葉が、 口唇をついて出た。
途端手を翳したその延長線上、 感覚的に近くも遠くもない
場所に気流が巻き起こり、 柔らかな旋風と成って着地する事なく
オレ達は再び宙へと舞い上がる。
無論気流や風に色も形も無いが、 オレには視えた。
具体的には、 本来存在しない筈のモノを感じ取った。
優れた音楽はその情景が脳裏に浮かび、 小説は話し声が聴こえ、
絵画は熱や匂いまで想起させられる。
つまり、 どちらかといえば 『錯覚』 に近い。
ソレを実際に具現化するのが 『魔導』 という概念で
その概念が今、 「実感」 となってオレの身体を駆け巡った。
「名前」を呟いたのは、なるほど、実際に口に出した方が
イメージ を鮮明にし易い。
オレらの世界でも昔、 読書は 「音読」 が主流だったそうだ、
書かれている内容を、 より明確に感じ取るために。
ともあれオレは、 生まれて初めて 『魔導』 というのを使ってみた、
というより赤子が這ったり立ったりするのと同じような感覚。
能力自体は最初からオレの裡に潜在していて、
ただ使おうとしなかっただけなのだ。
「今、 のは?」
「 【原初魔導】 とか云うらしい。
オレの精神、 記憶、 起源、 更にはその深層にまで遡って異能、
『創造者』 と 『万魔殿』 を連繫させ、
この世界に存在しない独自の術式を構築する。
私が一晩でやりました! 褒めて褒めてご主人様!
と、 頭の中のアビスちゃんが申しております」
「フム、 私の場合と同様の事象が、 君にも起きているのか。
どこか落ち着ける場所で意見交換をし、 情報を統合する必要があるな」
≪CAUTION! ワタシの解析を同時通訳した挙句、
改竄しないでください!
ABSURB TO YOU! 我が主よ!≫
『思考超加速』 とやらの影響か、
笑〇の 「やあねぇ~」 くらいにはハモれるようになった。
オレが脳内で流れる声を実況中継したのが気に入らないらしい。
褒めてやったんだがね。
でもそのやり方が問題 「大」 らしーねオレの場合。
鮮血のように真紅い月に照らされながら、
オレ達は異邦の大地を飛ぶ。
もういちいち気流を地面に当てなくても、 周囲に纏わせて
空中を移動できるくらいには使いこなせるようになっていた。
なんで腕が動くのか、 足が動くのか、
詳細は知らなくても実行出来るくらいの、 自然な感覚。
おそらくコレが、 魔皇の地力。
自分でも何故出来るのか解らない、
寧ろ出来ない方がオカシイとさえ想える、 容易な事象。
体内に、 細胞の裡に、 果ては精神に至るまで、
全ての生命には魔氣というモノが渦巻いていて、
更に大気には大地には、 何もない真空にさえも
魔那という力場が形容や属性を変えて
存在し続けている。
『魔導』 とは、その力場を操作、 制御、 或いは支配し
想い通りに動かす術。
魔王、 魔皇という存在は、 その魔導の力を極限を超えて
究めるコトが出来る者。
各星界が禁忌召喚まで遣って、 形振り構わず手中にしようとするのも理解る。
現在、 この世界に存在している全ての術式は、
嘗て、 魔皇と呼ばれた者達が生み出した、
膨大な魔導大系の 「副産物」 に過ぎないのだから。
新たなる魔皇の誕生は、 新たなる魔導大系の誕生でもある。
己の術式は知られているにも関わらず、 相手の術式は一切解らない、
何が生まれるかも解らない。
冗談抜きで世界の形容を変えかねない、
威力も範囲もソレが何かすら解らない 『爆弾』 が、
世界の何処かに埋め込まれたようなモンだ。
正直、 ヤバイ。
今でも、 無数の術式が脳裏を駆け巡っている。
今にも、 脳髄を喰い破って表へと這い擦り出してきそうになる。
ずっと響いてた (今でも) アビスの 「警告」 を
ざっとでまとめるとこんなカンジか。
一体これから、 どうなるのか解らない、 解りようもない。
死んだら、 異世界に生まれ変わって、 囚われの身になりかけて、
城から逃げ出して、 そして今、 魔法で空を飛んでいる。
ハッ、 何だよ? この状況。
序も破もスッ飛ばして、 余りの急展開の連続に最早自嘲するしかなくなる。
眼前に、 真紅い月。
傍らに、 同じ境遇を強いられた少年。
何処に寄る辺も無い、 異界の漂流。
始まりも終わりもない、 異邦の彷徨。
でも。
それでも――!
オレ達の戦いは、 これからだ――ッ!
【完】
“オレ達は決して諦めない! この狂乱ったゾディアックを破壊すまで!”
沙波羅先生の、 次の作品に御期待ください!
~小説家になろう/編集部一同~