Ж-36 漠 た る 光 芒 ~Darker Than Darkness~ ④
「コレを、 私に付けろ、 と?」
白い首、 今は洗練された造形の装飾品で彩られている。
「申し訳ありませんが、 ソレ以外に忠節の意向を示す術が想い浮かびません。
私はアナタに命を救われた恩義を返したい。
そして、 戯れとお考えでしょうが、 伝えた想いも嘘ではないのです」
「待てよ!」
狼人のガルフが割って入る。
当然の反応だな、 仲間を奴隷すると言われて黙っていられる道理は無い。
「確かソレ、 一個じゃなかったよな?
俺にもくれ! 恩人を裏切るくらいなら、 死んだ方がマシだぜ!」
――おい?
「私にもちょうだい、 ハーフ・エルフを狙ってるようなヤツ等、
冒険者として見過ごせないもの!」
「ファムは既に身も心も旦那しゃまのモノですニャ!
首輪でも足輪でもなんでも来い! ですニャ!」
いや、 待て、 何故そうなる?
困惑する私の肩に置かれる浅黒い手。
「皆、 アンタに惚れちまったのさ。 俺もその一人だ。
おっと変な意味じゃないぜ。 男として一人で竜種属と渡り合えるってのは、
やっぱ憧れるからな」
そう言って涼やかな視線を向けてくる。
「私達の覚悟、 どうか受け取ってくださるでしょうか?
アナタに護りたい者が在るのなら、 全霊を以てお支え致します。
そうしたいのです。 サンダルフォン様」
白絹のような手に乗せられた、 無数の首輪。
布都の説明に拠れば魔氣を込めるだけで、
内部に施された術式が発動し 「契約」 が結ばれるらしい。
後は首輪の種類にもよるが、 呪い(の魔導) で全身を縛り付けたり
首輪を収縮させたり爆発させたりして命を奪うコトも可能らしい。
ソレによって相手を支配する、 正に卑劣そのものの魔道具。
全く、 見ず知らずの私を何故そこまで信用出来る?
どうしてその躰をも差し出せる?
本当に、 どうしようもない大莫迦者達だ――。
脳裏に浮かぶ魔皇の姿。
巳む負えまい、 か。
夕闇に浮かぶ少女の姿。
風に靡く銀桜色の髪が落日に燦然と煌めいている。
存在を感じ取ったのか振り向く風貌。
黄昏時はまた一段と蠱惑的だな。
「おぉ~、 お帰り相方ぁ~!」
陽気だが間延びした声でブンブンと腕を振っている。
肩に留まるスライムと周囲に群がる子供達、
だが暫し待て、 其の手に握っている悍ましいモノは何だ?
一応子供等に配慮して桝目状の光学迷彩で覆ってあるが
「光の魔導」 の無駄遣いだ。
其の美醜相俟った姿に背後の者達は絶句しているが、
容貌は私の贔屓目ではなく普遍的で在るらしいな。
「嘘……」 「信じられニャイ」 「負けた――」
可憐な三女が愕然としているし、
二人の青年の顔が紅潮しているのは斜陽の所為ではないだろう。
恐らく人の皮と想われる迷彩をズルズル引き擦りながら
傍まで来た魔皇が云った最初の一言。
「で、 何? こいつら殺せばイイの?」
首輪をしていない5人に向けた微笑みは、
何よりも無垢で何よりも邪悪に歪んでいた。
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