Ж-35 牙 刃 鳴 り ~Ambivalent Conflict~ ⑤
「だ、 旦那しゃま……」
「そういう事……」
周囲に視線を這わせつつ、 この状況を注視する者はいないようだが
異能が在る以上楽観は出来ない。
文字通り首の皮一枚の距離で、 私は口唇の動きを読まれぬよう
俯き加減でヒソリと囁く。
「すまぬが、 それ以上口にしたら私は君を斬らねばならぬ。
異質な剣士とハーフ・エルフを関連付けられるだけでも不味いのだ。
其れはさせぬでくれ。 そして私の事は忘れてくれ。
ここまでありがとう」
ゆっくりと緑翠の剣を外すと私は即座に背を向けた。
心が軋むのは思いなしであろう。
彼等は善い者達で在った、 其れで充分ではないか。
「それは違います! サンダルフォン様!」
敢えて 「名前」 を呼ぶ事で歩みを止めたか。
今の眦は尖っているだろう。
狭む視界に映る真紅と瑠璃の双色。
森の時は果実を想わせたが今は宝珠のように
燐とした耀きを裡に灯している。
情報の秘匿を条件に私を縛るつもりか?
為れば此方も巳む負えぬな?
君等と、 友と集落を秤に掛けるならば、
私は躊躇いなく 「後者」 を選ぶ。
本当に己はそうするぞ?
業を為す事を恐れ、 何も護れぬよりはましだ。
森の魔那を宿す、 刃が鳴いている。
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