Ж-34 至 宝 の 一 玉 ~Primal One~
腕を拘束されたまま暫し歩くと視界が開けた。
街という程ではないが人々の集まり、
冒険者達の駐屯地、 ベース・キャンプと云った処だろう。
簡素ではあるが幾つかの露店、 青空で売っている所もある。
此の 『深淵迷宮』 にも在るのか、
人の商魂とは逞しいモノよな。
多種多様な人の群れ、 文字通り一目で分別が付く、
中には人の原型を留めてない者までいる。
話している言語が同じなのが異様に想える程だ。
元の世界の感覚が抜けていない、
この世界では此れが当たり前の光景なのだろう。
む――。
簡素な店舗に並ぶ質の良い武具は眼に止まらず、
『探索』には直接関係ない嗜好品を扱う店に
視線は釘付けとなる。
華美な装飾など無い、質素な飴玉や焼き菓子の類。
まず最初に魔皇の顔が浮かんだが、
「オレ甘いモンはあんま好きじゃない。
どこぞのラノベ女じゃねーし。
ってかフツーにデブると思うんだよね。
作者のおっさんみてーに」
という言葉が甦ったので打ち消し、
後に集落の子供等の姿が浮かぶ。
深淵の辺境という過酷な境遇にもめげず
皆々笑顔を絶やさなかったが、
集落から出られない故、 斯様なモノは
今まで食した事がないであろう。
狩猟は安定した食料の供給が出来ず、
農耕は人数に対して作付面積が少な過ぎた。
痩せた躰で私の外套を掴み覗き込んできた
瞳の色が脳裏を過ぎる。
「御免――!」
突如発せられた言葉に纏わり付いた二人の少女が
ビクリと素肌を震わせた。