Ж-32 紅 い 陽 炎 ~Crimson Blaze~ ③
≪グレイシァー・ワイバーン! 単騎討滅!
【称号】 “竜殺し” “一騎当千” “不撓不屈” を修得!
比類無き武勇に御座りまする! 御屋形様!!≫
轟音を立てて大地に激突する、 凍てついた首無し胴体。
霜が降りた草叢に布都の歓呼が響き渡る。
「過程の事も無し……」
言った良いが躰が造反し片膝の力が抜ける。
両膝でないだけマシか、 流石に二度も死ぬわけには往かぬ。
帰りを待つ者もいるのでな。
『高位治癒魔導』
総身に纏わる神秘の光。
またか――。
逃げよと申しても他者を治すため死地に居続ける。
徒に叱りつけるわけにもいかぬが此方も素性を明かせぬ身、
今は宙に浮く長い金属杖に腰かけて見下ろしているが。
“飛翔系” の魔導か、 友なら遣えそうだな。
何れにせよ長居は無用。
礼も言えぬが赦されよ、 御令嬢。
「ショフィア~! ご無事ですかニャア~ッ!」
遠方からの声が一気に近寄って来る。
凍てついた大地に土煙を上げながら。
先刻の猫人族の少女、
しかし足場が不安定なため派手に素っ転んで顛倒してしまう。
如何、 と想った時は躰が動いていた。
霜とはいえあのスピードでは顔が切れる、
小柄で華奢な身を外套で包むように受け止める。
「ほぇ?」
凍った地面との激突に際し堅く瞑られた眼が開く、
本当に猫のような、 扁桃型の円らな瞳だ。
「乱りに走ると此処は危ない、
気をつけねばならぬぞ」
柔い頬に裂傷が走る処だった故、
些少鋭くそう示唆する。
そのまま体勢を整え立たせようとした処だった為、
次の行動は完全に虚を突かれた。
「旦那しゃま~♡♡♡」
本当にごろごろと猫撫で声を発しながら
全身で私を抱え込むように纏わり付いてきた。
は――。
死地に於いても途切れなかった思考が、
其処で初めて白く染まる。
「ダメ」
長杖から降りてきた双瞳の少女が静かに近づいてきた。
すまぬが頼む。 私の力では乱りに引き剥がすわけにも往かぬ。
しかし彼女は私の前を通り過ぎ、 横に並び立つように膝を付いた。
「此の方は、 ワタシと結婚する、 予定」
そう言って絡められる細い腕。
……
魔皇よ、 扶けてくれ。
私は一体、 どうすればいい?
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