Ж-31 吼 牙 天 翔 ~Phantom Extream~
白い、 少女だった。
その髪も、 纏っている法衣も、 手にした長杖も、 被っている帽子も。
色彩こそ逆なれど、 元の世界では正に 『魔導士』 と称された姿。
仲間内では “ソフィア” と呼ばれていたか、
相づちは打つが殆ど言葉を発しなかった少女。
その様相とはまた裏腹に、 左右非対称の虹彩、
元の世界では 『ヘテロクロミア』 と云われる双色の瞳、
“オッド・アイ” と何が違うンじゃ! と友は一人キレていたが
鮮やか過ぎるその双眸は宛ら真夏の果実のようだ。
沙呈、 正直如何したものか、 去れと言っても去らぬなら
言葉による説得は薄いだろう、 その暇もない。
為れば以降の責は自分で負って貰おう、
私に出来るのは精々その距離を空ける事のみだ。
外套を翻し風穴が開いた岩山へと疾走を開始する、
彼女が狙われる可能性も在る故 “深草踏歩” は遣えぬな。
その代わりに魔氣を精神と呼応させて生み出せる
“闘氣” を解放する。
先刻までは抑制を余儀なくされたが
こうなってはもう隠す利点は無い。
しかしいつもよりも発動が滑らかだ、
修練は欠かしていないが
此れ程の練度には未だ至っていない筈。
≪畏れながら御屋形様。
先刻の娘の魔導が御身の彗絡を練磨し、
潜在する御力を活性させたと存じます。
亜の娘、 若き身生れど稀なる遣い手。
特例として無礼は不問と致しましょう≫
「左様か」
――ッ!
前方より激烈な魔氣の集束を確認。
布都と思考が交叉した。
眼が眩むほどの怒りに任せた破れ瘡れの攻撃、
故に効果範囲と機の予測が付かぬ。
咄嗟に身を翻し反転、 加速が功を奏しほぼ垂直の横移動を可能とする、
直後に横面からの波濤を認識。
『竜咆哮』 とか呼ばれるモノか、
まるで雪崩だな。 正確には吹雪と氷雪の累乗だ。
気候は初夏だというのに、 第二合の戦線地帯が凍土と化している。
直撃を受ければこの躰とて只では済むまい、
木偶の氷像と化した後、 跡形も無く砕き散らされるのが眼に視えるな。
――奇妙な感覚だ。
私は、 今、 微笑って、 いる?
≪畏れながら、 御身の特質異能拠り、
『武装異能』 “暴虎馮河” の発現を確認致しました。
死地故に略式にて失礼申し上げます。 御屋形様≫




