Ж-30 氷 刃 双 牙 ~Double Fang Shock~ ③
『高位治癒魔導』
突然、 私の周囲を不可思議な光が包み躰に纏わった。
神経を苛む激痛が緩和していく。
殺気がないので完全に虚を突かれた。
先刻の一団の一人、 無口で殆ど喋らなかった少女が
やや離れた距離で装飾の入った金属杖を両手で翳している。
回復魔導か。 私にも治癒系の異能は在るが手間が省けた。
感謝はするがこの場合は半分だな。
「去ねよ」
一瞥しそう告げ再度前方へと進撃、
間を置かず地を踏み締めた薙ぎ払いと冷気の咬断が刃と噛み合った。
激重の衝撃、 怒り任せの上空からの急襲なら当然か。
抑える気もない魔氣の流れで予測は出来ていたが
威力なら兎も角、 斬撃の速度差では牙が閉じる前に
顎を裂かれると感じてか即断に奇襲を抗戦に切り変えた。
実に野性の本能とは畏れ入る。
“隻眼” の不利は人間ならば如実だが
竜相手には然程でも無いらしい、
狙いも追尾も恐ろしく精確だ。
「む、 う――!」
刃と牙の奇怪なる鍔迫り合い。
殺傷力は桁外れでもこの戦形ならば利は在るまい。
竜の剛力と云えど頭部迄は十全に及ばぬ、
首が長いため四肢の爪は此方に届かぬしな。
友が与れた魔導の剣に感謝だな、
他の武器では既に砕かれている筈だ。
其れでも押されるか、 足元が毀れて地に轍を生みながら徐々に後退する。
流石に 『竜属』 矮小な人間如きに遅れを取るのは
誇りが赦さぬか。
私としても膠着状態は目が少ない、
一旦牙を外して再度樹上に飛び昇がるか?
『閃光彗脈励起魔導』
ヴァガァアアァァアアァァァアアアアァァァァ――――――――
――――――――――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!
ビクともしなかった大剣が振り抜けた。
飛び散る氷牙、 先刻の私を再現するように
翼竜の巨体が大地と平行に吹き飛ばされ
樹々を撲ち砕きながら岩山に大穴を開けて敲き込まれる。
どういう事だ? アノ刹那、 腕と膂力が異様に活性したのは覚えているが。
何かの加護と云うよりは寧ろ内面から噴き出るような力。
振り向いた先で白絹色の髪を持つ少女が杖を構えたまま唖然としている。
「スゴイ……
ワタシの、 “付与魔導” にここ迄の魔力は無い筈。
アナタは、 一体……?」
其れは此方の科白だ。
何故まだ此処に居る――?
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